ぼくの名前はズッキーニ(2016)

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原題は「Ma vie de Courgette」(ズッキーニ(私)の人生)
スイス=フランスのストップモーションアニメのクレイ(粘土)アニメ
見た目は(クリスマス向けのような)ダークでメルヘンな
ファンタジーと思いがちですが
依存症や児童虐待がテーマというビターでアダルトなコメディドラマ

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屋根裏で絵を書き凧をあげて生活する9歳のイカールは
父親が若い女性と家を出てからというもの
ビールばかり飲んで暴言を吐き暴力を振るう母親から
「ズッキーニ」というあだ名で呼ばれていました

ある日大量のビールの缶を片付けようとしたズッキーニは
誤って母親を階段から突き落として殺してしまい
警官のレイモンに養護施設「フォンテーヌ園」に連れて行かれます

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そこには、いじめっ子で問題ばかりおこすシモン
母親が精神疾患で大食いになってしまったジュジュブ
父親の小児性愛のせいで強迫性障害を抱えてしまったアリス
両親が強盗で服役中のアメッド
移民が認められず母親だけが強制送還さたベアトリスが
すでに入居していました

ズッキーニがやってきてすぐに、シモンはズッキーニが大切にしている
母親の形見のビールの缶を盗み、その缶でサッカーをしようとします
怒ったズッキーニはシモンを殴り施設長に呼ばれます

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ここでなぜか急にシモンはズッキーニに心を開きます
シモンの両親は麻薬中毒でシモンから隔離されていました
そこにはアルコール依存症の母親に虐待されながらも
母親を誰より愛し続けるズッキーニに同じものを感じたのでしょう
シモンもまた母親から手紙が来る日をまっていたのです

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虐待死のニュースを見るたびに
なぜ養護施設の職員は子どもを救わないかと怒りを覚えるわけですが
そこには子どもが「親をかばう」背景があるのかも知れません

どんなに暴力を受けても、食べ物を与えてもらえなくても
こどもはお母さんのことが誰より大切なのです
お母さんは僕が悪い子だから、僕を愛しているからこんなに怒るんだ

ここでもネグレストの親に育てられたにもかかわらず
みんなが母親を愛し、迎えに来てくれるのを待っている

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まもなくしてカミーユという美少女が「フォンテーヌ園」やってきます
ズッキーニは彼女に一目惚れ(笑)
カミーユのことが知りたい、知りたい、知りたい
そこでシモンは夜中にこっそり施設長の部屋にズッキーニを連れ出し
カミーユの資料を見つけます

カミーユの父親は母親を撃ち殺し、自分も自殺してしまったのです
叔母に預けられたものの、叔母はネグレストでした
しかし補助金が欲しいためにカミーユを再び連れ戻そうとします

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バラバラだった子どもたちが、だんだんとひとつの仲間になり
カミーユが叔母に引き取られるのを阻止しようとする

儲け役はシモンで(笑)
ズッキーニがカミーユに贈ったペーパーボードを
カミーユのラッキーチャーム(お守り)だから渡してと叔母に預けます
その中にはシモンの音楽プレーヤーが入っていました
カミーユがそれを聞くとシモンの声である計画が録音されていたのです

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この作品が高い評価を受け、数々の賞にノミネートされたり受賞したのは
ストップモーションの手間と技術の凄さでしょう
イマドキの3Dプリンタなどを用いてナチュラルさを演出したものでなく
手作りの人形感が強く、おまけにものすごく繊細
ひとつひとつの表情が豊かで、本当に生きているかのようです

そこに虐待や性や出産の話題をサラッと入れてくる
主人公ももうすぐティーンエイジャーの仲間入り
子どもに下手な隠し事をしないのがフランス流の性教育かも知れません

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ズッキーニとカミーユはシモンの後押しによって
レイモン刑事の養子になることを決意をします
どんな辛い過去でも泣いたことがなかった彼ら
だけどそのときはじめて、目から暖かい雫が落ちたのです
そしてシモンの心の天気予報は「晴れマーク」になりました

友情の大切さと優しさを覚えた彼らに、心が温かくなる
同時に子どもたちにその環境を作ってやれるのは
大人しかいないのだと考えさせられます

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約1時間の作品なので、確かに短いと感じますが
50人以上のクレイアニメ職人が制作に2年以上かけたという苦労の作品(笑)
その味わいを楽しんでみてください

 


【作品情報】MovieWalkerより
心に深い傷を抱え、孤児院で暮らす子供たちが、明日への希望を見出していくさまを描くストップモーション・アニメ。かわいらしいビジュアルと深遠なテーマが共存する世界観が高い評価を受け、2016年のアヌシー国際アニメーション映画祭で最優秀作品賞と観客賞の2冠に輝いたほか、第89回アカデミー賞でも長編アニメーション賞の候補となった。
“ズッキーニ”の愛称をもつ9歳の少年イカールは不慮の事故で母親を亡くし、孤児院で暮らすことになる。そこにはリーダー格のシモンら5人の子供たちがいて、入所当日から手痛い洗礼を受けるが、彼らも複雑な事情を抱えていることを知り、心の傷みを共有する友として打ち解けていく。そんなある日、カミーユという新たな仲間がやってくる。