アマンダと僕(2018)

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原題は「Amanda」ですが

物語の主題である「Elvis has left the Building」(エルヴィスは建物を出た)

のほうが、結果として良くも悪くもしっくりする


独身男が身寄りのなくなった幼い女の子を引き取って面倒を見る、という

プロットは「うさぎドロップ(2011)に似ているのですが

うさぎドロップ」が(私だけかも知れないけど)気持ち悪く感じるのに対して

こちらは苦悩や悲しみがリアリティに描かれているぶん

ラストには静かな感動がありました

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主に賃貸の仲介業をする、何でも屋のダヴィッド

シングルマザーで仲良しの姉が突然死んでしまい(2015年パリ同時多発テロ

姉のひとり娘で7歳のアマンダが孤児となってしまいます


ダヴィッドが役所に今後のことを相談しにいくと

後見人制度について資格があるのが自分と、大叔母(ダヴィッドの父親の妹)と

ロンドンにいる祖母(離婚したダヴィッドの母親)の3人だと説明されます

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ダヴィッドは仕事も不安でまだ24歳、しかもアマンダは女の子

作中でははっきり描かれていませんが、世間体も抵抗もあるでしょう

かといって遊びたい盛りのアマンダを年老いた叔母に押し付けるのは忍びないし

ロンドンの母親とは長い間絶縁状態

施設を見学に行くものの、外出の自由のなさに入所をためらう

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とりあえず昼間はダヴィッドが学校の送り迎えと放課後の世話

夜は叔母の家に泊まるという日々が始まります


本当に悲しい時、人は泣いてる暇なんかないんだな

愛する人を失った喪失感のなか忙しく駆け回っている

だけど、ただ歩いている時、友人と話している時

ふとした瞬間に、突然抑えきれない慟哭が襲ってくるのです

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同時に押し寄せてくる責任と不安

でもダヴィッドはやさしくて

回りで支えてくれる人間も「助け合うのがあたりまえ」というか、皆いい人なんですね

しかも親切心を押し付けない


こういうスマートでさりげない思いやりを

私も身につけたいものです

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姉が遺してくれたウィンブルドンのチケット

ダヴィッドとアマンダはロンドンに行き

そこではじめてアマンダは「おばあちゃん」に会い
ダヴィッドは母親との確執を昇華するのです

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自分やアマンダに何かあった時に、本当に頼れるのは身内だけ

あたりまえの人間なら、誰だって他人に迷惑をかけたくない

ダヴィッドのアマンダの後見人になる決意が固まります

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ラストはウィンブルドンセンターコート

応援している選手が一方的な負け試合になりそうになり

アマンダは涙を流し「Elvis has left the Building」と嘆く

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だけど一転、試合は40-40デュースに持ち越す

これがアマンダの見た、彼女の生きるべき道

アマンダの晴れていく表情が素晴らしい

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派手さはなく、時にパリのお洒落感もたっぷり味わえますが

大切な人を亡くした経験のある方なら、涙が止まらないかも知れません

それも「温かい涙」が



【解説】映画.COMより

突然の悲劇で肉親を失った青年と少女の絆を描き、2018年・第31東京国際映画祭で最高賞の東京グランプリと最優秀脚本賞をダブル受賞したフランス製ヒューマンドラマ。パリに暮らす24歳の青年ダヴィッドは、恋人レナと穏やかで幸せな日々を送っていたが、ある日、突然の悲劇で姉のサンドリーヌが帰らぬ人になってしまう。サンドリーヌには7歳の娘アマンダがおり、残されたアマンダの面倒をダヴィッドが見ることになる。仲良しだった姉を亡くした悲しみに加え、7歳の少女の親代わりという重荷を背負ったダヴィッド。一方の幼いアマンダも、まだ母親の死を受け入れることができずにいた。それぞれに深い悲しみを抱える2人だったが、ともに暮らしていくうちに、次第に絆が生まれていく。監督・脚本はこれが長編3作目のミカエル・アース。主人公ダヴィッド役はフランスの若手俳優バンサン・ラコスト。アマンダ役はアース監督が見いだしたイゾール・ミュルトリエ。