原題は「LA DERNIERE LECON」(最後のレッスン)
原作はフランス元首相(1988~1991任期)のリオネル・ジョスパンの妹で
作家のノエル・シャトレが、自殺した(2002年92歳)母ミレイユの
最期を綴った同名小説
テーマは「尊厳死」
日本でも厚生労働省が、人生の最終段階で本人がどのようなケアや医療
死に方を望むのか家族と話しあう合ことを「人生会議」と名付け
活動を広めようとお笑いタレントの小籔千豊さんを起用しポスターを制作
しかしそのポスターに「患者や家族を傷つける」
「死にゆく人が家族に不満をぶちまける内容」という批判が殺到
発送が中止になる騒動がありました(2019年11月)
ポスターのセンスの良し悪しは別として
「人生会議」に抗議する人こそ、この映画を見てほしいと思います
「尊厳死」を認めることは「自殺幇助(ほうじょ=手助けする)」なのか
(自分では介護せず)施設や病院に入れるのが、親への愛なのか
リアルに考えさせられる内容が詰まっていました
マドレーヌ(マルト・ヴィラロンガ)は92歳の誕生パーティで
「2か月後に逝きます」と家族に宣言します
誰にも迷惑をかけず、気力のあるうちに死にたいと
何十年も前から決意し長男のピエール(アントワーヌ・デュレリ)と
娘のディアーヌ(サンドリーヌ・ポネル)にもずっと話していたことでした
ついにその時がきたのです
当然、息子も娘も猛反発
いくら高齢でも母親の”自殺”を受け入れるなど当然不可能
しかし頑固な母親が決して意思を曲げることはありません
「スイスまで連れて行けって言うんじゃないわよ」
「自分にとっての終焉がきたら静かに死なせてほしいだけ」
私は「世界一キライなあなたに」(2016)という
全身不随の青年と、その介護に雇われた女性とのラブ・ストーリーで
スイスに「ディグニタス(Dignitas)」という
自殺幇助機関があることを知りました
裁判所が認めれば、重度の障碍者や難病患者が
医師と看護師の付き添いのもと安楽死させてくれる場所です
寝たきりでいい、彼とずっと一緒にいたい女の子
だけど青年は好きな女性に触れることさえできない
その辛さに、ますます耐えられなくなっていたのです
私たちは死を選びたいのに、生かされている人の苦しみを
本当に理解しているのか
若かりし日のマドレーヌは元助産婦として働き
明るく良き母親ではありましたが、一方では過激な活動家
そして自由恋愛主義者でした
しかも初恋の相手とは、92歳になる今でも文通し愛を語り合っていたのです
娘のディアーヌは、理解ある夫と息子マックスのフォローのおがげで
少しづつ母親に寄り添っていくようになりますが
息子のピエールは母親の自殺は絶対許せない、何が何でも防ごうと
行き過ぎた言動で必要以上に相手の欠点を責めて追い詰める
生かしておくことが、正義だと信じているから
孫のマックスは客観的で、最初はマドレーヌの主張を認めていましたが
大好きなおばあちゃんが死ぬかも知れないと思った瞬間、急に怖くなります
男は本当に弱い
そんなとき支えになるのが、意外にも家族より他人
アフリカ系の家政婦のヴィクトリアは、息子との不仲に悩むマドレーヌに
アフリカでは死んでも家族と一緒、風になり光になり木になり
ソファーやベッドになるかも知れないと励まします
「千の風になって」と同じ
限られた時間の中、娘は母の望みを叶えていこうとするけれど
息子は最後まで母親を受け止められない
マドレーヌの死ぬ日、息子家族だけ来ない「最後の晩餐」
ちなみに私の「尊厳死」のラインは、自分で食事ができなくなったとき
マドレーヌや彼女と同じ病室の男性と同じ
寝たきりで管を付けられて生かされるなんてまっぴら
日本でこのような映画が作られたなら「人生会議」のポスター同様
「当事者の心情を理解していない」と公開中止になるかも知れません
この映画も「自殺を推進している」と批判されているかも知れません
しかしフランス映画祭では最高賞の観客賞を受賞
日本で「尊厳死」が認められるのは、まだまだ先になりそうです
【解説】allcinemaより
尊厳死を決断したジョスパン仏元首相の母とその娘との最期の日々を綴った実話『最期の教え』を基に描く感動作。92歳の誕生日に突然2ヵ月後に尊厳死すると宣言した母の信念と、その決断を受け止めきれずに激しく動揺する家族の葛藤の行方を見つめる。出演はマルト・ヴィラロンガとサンドリーヌ・ボネール。監督は、これが長編4作目の女性監督パスカル・プザドゥー。
若い頃は社会運動に積極的に関わり、奔放な恋愛も重ねてきた元助産師のマドレーヌ。年老いた今も、子どもたちの世話にはならないとひとり暮らしを続けているものの、寄る年波には勝てず、日々“ひとりでできないこと”が増えていく。そんな中で迎えた92歳の誕生日。彼女は祝福する家族を前に“2ヵ月後に私は逝きます”と宣言する。息子のピエールは感情的になり、母の身勝手な決断は断じて受け入れられないと、何が何でも計画を阻止する構え。一方、娘のディアーヌも到底納得できないと思いつつも、自分らしく人生を全うしたいという母の信念を尊重したい気持ちも芽生え、激しく揺れ動くのだったが…。