「家が人を選ぶ」
原題も「HOWARDS END」(家の名前)
ハワーズ・エンドは、原作者であるフォースター(1879~1970)の
母親がかって所有していたコテージ・ハウスで
今でもロンドンから数十キロ離れたハーフォードシャーに
存在しているそうです
フォースターの母親は労働階級の生まれでしたが
家庭教師として裕福な上流階級の夫人に引き取られ
その家の建築家を目指す甥との間にできたのが、フォースター
しかしフォースターが生まれてすぐ夫を結核で亡くしてしまい
裕福な夫人は、母子を庇護するため
ハーフォードシャーの「古くて小さく感じがいい、赤煉瓦の家」を
フォースターの母親に与えた、というのが作品の背景(たぶん)
20世紀初頭のイギリス
インテリ中流階級のシュレーゲル家と
実業家のウィルコックス家は旅行中に親しくなり
ウィルコックスのコテージ・ハウス、ハワーズ・エンドに招かれた
シュレーゲルの次女ヘレン(ヘレナ・ボーナム=カーター)は
当家の次男ポールと恋に落ち(一夜限りの肉体関係を結んだと思われる)
姉のマーガレット(エマ・トンプソン)に婚約したと手紙を送ります
驚いた叔母は慌ててハワーズエンドにやって来ますが
ポールにその気はなく、長男のチャールズも弟は無一文で無理だと言います
(すなわち中流階級の娘と遊んでも結婚はしないということ)
怒った叔母はヘレンをロンドンに連れて帰りますが
その数か月後、ロンドンにあるシュレーゲル姉妹の家の真向かいに
長男チャールズが結婚したという理由で
ウィルコックス家が引っ越して来たのです
時を同じくして、ヘレンが雨の日傘を間違えたのをきっかけに
レナード・バストという文学青年(しかも蓮っ葉な妻がいる)と
知り合ったシュレーゲル姉妹が
彼の感性に共感し親しくなっていくエピソードと
マーガレットがウィルコックス家の夫人ルース(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)と
意気投合し、女性の友情で結ばれていく様子が描かれます
しかしルースは重い病に冒され、やがて死の床で
(マーガレットが契約で生家を出なければいけないため)
「ハワーズ・エンドはマーガレットに」という遺書を書き残します
ウィルコックス家の長ヘンリー(アンソニー・ホプキンス)は
ルースが書き残したメモを尊重したいと言いつつ
そんなことさせてたまるか、母は遺産目当てに騙されたんだという
息子たちの意見に従い、メモを焼き捨ててしまいます
そのわりには気になって、マーガレットに探りを入れる(笑)
やがて、住む家がないのなら私の屋敷を貸しましょう
唐突に結婚することにまでなってしまう
あんなオールドミスのどこがいいのか、と息子たちは嘆きますが
ここまでのエマ・トンプソンは確かに魅力的
知識をひけらかして、鼻につくところはあるけれど
明るくお人好し、自分の欠点を知っている謙虚さもある
男のほうもいい年になって、精力も衰え
同じ知的レベルで話し相手になる女性のほうに魅力を感じる
心の変化が起こったのかも知れません
だけどここから先が、ドロドロでボロボロ(笑)
ヘンリーの助言で保険会社から転職したレナードはリストラ
しかもヘンリーとマーガレットの結婚式では
レナードの妻ジャッキーが、ヘンリーの愛人だったことが発覚
(レナードもヘンリーもこの女のどこがいいのか・・)
深く傷ついたレナードに、自責の念を抱いたヘレンは
レナードと一夜を共にした後、姿を隠してしまい
ヘレンを探しにハワーズ・エンドに行ったレナードは
(継母の妹を妊娠させたのは「家」の恥ということか)
チャールズに殴られ死んでしまう(死因は持病の心臓発作)
チャールズの上級国民は労働者を死なせても罪にならない
と信じている法則は覆され、殺人容疑で逮捕
結婚後は、ジャッキーのことや
不倫の子を身籠ったヘレンを認めないヘンリーと
衝突ばかりしていたマーガレットでしたが
跡取りの逮捕に落ち込むヘンリーに
彼女のもともと持っている博愛主義が再び目覚め
夫に寄り添い、慰める決意をします
そしてそれから1年半後、ハワーズ・エンドの所有権は
ヘンリーによって、ヘレンの子に与えるという結末を迎えます
結局ルースの遺言通り、ハワーズ・エンドは
シュレーゲル家のものになったのです
(レナードの妻はどうなった 笑)
原作は読んでいないので言い切れませんが
これはたぶんイギリスでは私たちが想像する以上に
「家」を重んじる、ということなのでしょう
住居として住む「家」、先祖代々からの「家名」
血で繋がった「家族」の中に、いくら嫌いな人間がいても
簡単には疎遠になれない
好きだからという理由だけで結婚もできない
自由をアピールする国ほど、もしかしたら不自由なのかも知れません
【解説】映画.COMより
名匠ジェームズ・アイボリーが「眺めのいい部屋」「モーリス」に続いてE・M・フォースターの名作小説を実写映画化した長編作品。知的で情緒豊かな中流階級のシュレーゲル家と、現実的な実業家のウィルコックス家。両家は旅行中に親しくなり、シュレーゲル家の次女ヘレンはウィルコックス家の田舎の別荘「ハワーズ・エンド」に招かれる。そこで次男ポールに一目ぼれするヘレンだったが、ある行き違いからウィルコックス家と気まずい関係になってしまう。その後、ロンドンのシュレーゲル家の向かいにウィルコックス家が引越してくるが、ヘレンは彼らに会おうともしない。一方、姉マーガレットはウィルコックス家の老婦人ルースと深く理解しあう。やがてルース夫人は「ハワーズ・エンドはマーガレットに」という遺言を残して他界する。しかし遺言はもみ消され、マーガレットはウィルコックス家の当主ヘンリーのもとへ嫁ぐことになり……。シュレーゲル姉妹をエマ・トンプソンとヘレナ・ボナム・カーター、ウィルコックス氏をアンソニー・ホプキンス、ルース夫人をバネッサ・レッドグレーブがそれぞれ演じ、トンプソンがアカデミー主演女優賞を受賞した。