黒蘭の女(1938)

「女には淑女と娼婦が同居しているからな」

原題は「JEZEBEL(ジョゼベル)

旧約聖書に出てくるイスラエルの王アハブ(異教徒)の邪悪な妻の名で

転じて悪女 、恥知らずな女という意味

1852年黄熱病騒ぎのニューオーリンズ

自身のパーティに遅れ、しかも乗馬服で現れた

我儘で自由奔放で強欲な名家のご令嬢ジュリー

馬に横乗り、ロングドレスの乗馬服の裾を翻して登場する

ベティ・デイヴィスのかっこよさよ(笑)

カメラはアーネスト・ホーラー

恋人のプレストン(ヘンリー・フォンダ)は銀行家で

鉄道開発の重要な会議のため、パーティに出席できません

そのことは許せるけど

婚約発表をするための舞踏会で着るドレスの買い物に

付き合わないのは許せない

ジュリーは当てつけに白いドレスではなく

(売春婦が着る)真っ赤なドレスを来て舞踏会に向かいます

軽蔑の眼差し、ヒソヒソ話

あきれ果て何も言わないプレストン

ジュリーは自分のやりすぎで、プレストンの心が離れたことに気付きます

婚約を解消し北部に旅立つプレストン

1年後黄熱病がまん延、叔母のベルと別荘に引っ越したジュリー

そこにプレストンが帰ってきます

どうにかヨリを戻そうと、必死にけなげな姿で謝るジュリー

しかし時すでに遅し、プレストンは北部の聡明な女性

エイミー(マーガレット・リンゼイ)と結婚していました

さすがモノクロの「風と共に去りぬ」(1939)と言われるだけあって

プロットはよく似ていますね

とはいえ製作費3倍の「風と共に去りぬ」の壮大さには及ばず

さらにクラーク・ゲーブルレスリー・ハワード

オリヴィア・デ・ハヴィランドに比べて脇役のインパクトが弱い

ヘンリー・フォンダもマーガレット・リンゼイにしても

魅力が活かされていません

エイミーがどのような女性で

どうしてプレストン愛し合うようになったのか

一切説明がないので感情移入しにくいのです

南部の奴隷制度の上に成り立っている白人の生活の描き方や

(黄熱病患者を運ぶ馬車の御者、看護や死体処理は皆黒人)

倒れたプレストンを看病するヒロインの

力強さはこちらが上でしょう

クライマックスはジュリーがエイミーに

プレストンの島流しに付き添わせてくれと懇願するシーン

ウィリアム・ワイラーといったら階段の男だけど(笑)

上の段でジュリーを見下ろす北部女と

彼女を下の段から見上げるジュリーの演出の巧さ

彼が愛しているのは妻たる貴女なのはわかっている

だけど南部では黒人を使えないと生きていけない

私に償いのチャンスを与えてほしいと訴える

一緒に死ぬことをいとわない人間にノーと言えない

賢いエイミーはジュリーの命をかけた愛に

敗北したことを知るのです

「必ず彼を取り戻す」

馬車の荷台で瀕死のプレストンを抱くジュリーの姿に

何の後悔もありませんでした

ベティ・デイヴィスは「風と共に去りぬ」からのオファーに

心残りがあったそうですが

スカーレットにはヴィヴィアン・リーしかいなかったし

ジュリーにはベティ・デイヴィスしかいなかったでしょう

結局人間は変わらない

禍々しくも奥深い人間ドラマの傑作でした

 

 

【解説】KINENOTEより

主演は「札つき女」「或る女」のベティ・デイヴィスで彼女はこの演技によって1938年度のアカデミー女優演技賞を獲得した。原作はオウエン・デーヴィス作の戯曲で、「札つき女」「黒の秘密」のアベム・フィンケルがジョン・ヒューストン及びクレメンツ・リプリーと協力脚色し、「この三人」「孔雀夫人(1936)」のウィリアム・ワイラーが監督に当り、「或る女」「Gガン」のアーネスト・ホイラーが撮影した。主演のデイヴィスを助けて「或る女」「北海の子」のヘンリー・フォンダ、「山の法律」「潜水艦D1号」のジョージ・ブレントが相手役を勤め、「緑の灯」「高圧線」のマーガレット・リンゼイ、「或る女」「悪の挽歌」のドナルド・クリスプ、「明日は来らず」「偽装の女」のフェイ・ベインダー、「さらば海軍兵学校」のリチャード・クロムウェル、「恋愛合戦」のスプリング・バイントン、「潜水艦D1号」のヘンリー・オニール、「高圧線」のジョン・ライテル、新顔のジャネット・ショウ等が助演している。

ニューオリンズで指折りの名家に生まれたジュリーは伯母ベルに育てられ、若く美しく気の強いわがままな娘となった。1850年代の普通の娘とは違って、彼女はまるで現代の女性の如く因襲に促われないのであった。勤勉で向上心に燃える青年銀行家ブレストンと、酒飲みで傲慢で射撃に巧みな西部の伊達者バックの2人が彼女に求愛していたが、謝肉祭の最終日に催される舞踏会の夜に、ジュリーとブレストンの婚約が発表されることになった。彼女は零の如くわがままを発揮して婚約披露会には乗馬服で出席し、その後の舞踏会には売笑婦の着る赤い着衣をつけて出ようとした。ブレストンはその不真面目を責めたが、ジュリーは彼の臆病を笑うので、意を決した彼は赤い着衣の彼女を連れて舞踏場に現われた。2人が踊ると果して満場の紳士淑女は、眉をひそめて踊りを止めてしまった。ジュリーは初めて恥ずかしさを覚えて踊りを止めようとしたが、ブレストンは承知せず最後まで踊ると彼女を家まで送り届けて、2人の婚約は解消だと告げて北部へ去った。前にもそんなことがあったのでジュリーは気にもとめないでいたが、ブレストンは今度は1年も帰らなかった。ニューオリンズの町に黄熱病が流行して銀行が手不足になったので、ブレストンは無理に呼戻された。心から彼を愛しているジュリーは、白い衣装を身につけて彼に許しを乞おうとしたが、意外にもブレストンは北部生まれのエミイを妻として紹介した。ジュリーの愛情はたちまち恐ろしい嫉妬と変わった。彼女はバックをそそのかしてブレストンと決闘させようと計った。次第に不和になった2人がまさに決闘せんとした時、銀行頭取が黄熱病で倒れた報せが来てブレストンは出発した。バックの態度を怒ったジュリーの弟テッドが彼に決闘を申込んだ。そして命を失ったのは射撃の巧みなバックだった。人々はみなジュリーから離れ、彼女のことを淫婦の意である「イゼベル」と渾名した。その頃ブレストンも黄熱病に倒れたと聞いて、ジュリーは警戒線を突破して彼の許へ行った。患者はらい患者を隔離した島へ送られる規則である。ジュリーはリヴィングストン博士に嘆願して、ブレストンと同行することを乞うた。ブレストンの妻エミイも悔悟したジュリーの激しい献身的な愛を知って身を引いた。こうしてジュリーは憔悴しきった愛人ブレストンに付添い、危険な悪疫の島へ渡って行ったのである。