原題はデンマーク語で「Der kommer en dag」(いつの日か)
日本でも親の虐待によって幼い子の命が奪われたり
学校での虐めが原因による自殺というニュースが毎日のように流れ
最近では学校教諭による、若い教諭への虐めが報道されています
でも実際は、虐待や虐めというひとことで終わる軽々しいものではない
これは私刑(リンチ)なのです
口を利いただけで殴られ、蹴られ、奴隷のように扱われる
嫌がらせをさせられ、食事を奪われ
性的虐待では泣きながら血だらけの股間を洗面台で洗う
役所の人間が視察に来たときだけやさしくされ
きれいな服と靴を与えられ、報復が怖くて真実を言えない
その繰り返しが何度も何年も続き”幽霊”になる決心をする
いつか大人になる日を待つだけ
これは約50年前、1967年のコペンハーゲンの児童養護施設で
発覚した事件に基づいているということ
母親は末期がん、唯一の親族である叔父はやさしいけれど
無職で収入がないうえ、、前科がありました
役所の判断でエリック(13歳)と
宇宙飛行士になるのが夢エルマー(10歳)兄弟は
施設に預けられることになります
翌朝エリックは、弟のエルマーは足が悪いので
校長に重労働をさせないでくれと頼みます
その瞬間校長から殴られ、意地悪な子どもたちからも虐めを受けます
一日目で脱走を試みますが、当然捕まってしまい
またもや校長によって酷い暴力を受けるのです
新任の女性教師であるハマーショイ先生は
(すでに虐待を禁じる法が施行されているので)当然疑問を持つわけですが
校長の絶対権力によって口出しすることができない
施設の子どもたちは幼い頃から家庭に事情があって
読み書きができないんですね
だけどアメリカのアポロ計画の新聞記事を夢中になって読んでいた
エルマーは違いました
10歳とは思えない文章力に、宇宙に対する想像力
ハマーショイ先生のおかげで彼は重労働を逃れ
手紙を仕分けして各個人に届ける施設の郵便係になります
やがて子どもたちの誰もがエルマーの宇宙旅行の話に
夢と希望を覚え聞きたがるようになります
しかし、幸せな日々は長く続かない
ある真夜中、宿直の先生がエルマーを自分の部屋に連れていきます
子どもたちはそこで何をされるか知っている
先生は幼い子のほうが好き、エルマーの番がやってきたのです
そして血だらけで倒れてしまいます
不審に思ったハマーショイ先生に、校長もその側近も
子ども同士によるよくある悪戯だという(そうだとしても問題だろ?)
エリックは作業場の自動ノコギリの安全装置をはずし
エルマーを傷つけた教員に、二度と悪戯が出来ないように
片手を失わせる大けがをさせます
しかし復讐の快感もつかの間
母親が死んだという訃報が入ります
泣きじゃくるエリックを、うるさい黙れと殴る、殴る、殴る校長
母の死をあと訪れた叔父に相談し、二度目の脱走を計画するものの
叔父はハマーショイ先生に電話し
空想好きなエルマーだからどこまで本当の話かわからないので
約束は守れないと伝えてくれと頼みます
ハマーショイ先生は兄弟に会いに行こうとしますが
そこに校長が現れ、問い詰められます
脱走は失敗し、またもや殴られ、殴られ、殴られる
母は死に帰る家もない
暴力に耐え、校長の機嫌を取り、18歳になるまで待つしかないと
エリックは悟ります
公開中で話題の映画「ジョーカー」を見た人たちから
いい映画だが、不幸の連鎖で気分が落ち込むという感想を聞きますが
この少年たちより不幸なのだろうか
まだ「ジョーカー」には”悪”になるという「自由」が残されている
虐待を受けている子どもたちは”悪”にもなれないのです
そこに新しく配属された監察官がやってきました
「訪問する連絡をしていない」という職員に
校長が表彰されるような優秀な施設なのだから
いつ行ってもいいだろうと答えます
施設はあらゆる規定を満たしておらず
泥で全身汚れた子どもたち、顔には傷やあざ
不審に思った監察官が聞いても、校長が怖くて何も答えない
我慢に我慢を重ねて、もうすぐ卒業なのだ
校長の機嫌を損ねたら大変なことになる
なのにもうすぐ卒業を控えたエリックに
校長は特別にあと三年残ってもらうと言います
キレたエリックが校長自慢の磨き上げた車に傷をつけたとき
校長は今まで以上の、殴る蹴るの暴行を与えます
エリックは意識不明の昏睡状態になり
エルマーは校長先生に嘘をつき、ひとりコペンハーゲンに行きます
そこでハマーショイ先生に連絡をして役所に行き
兄を病院に連れて行ってほしいと訴えます
しかし職員は新任の監察官が帰ったら伝えておくと言うだけで
電話も取り次いでくれない
エリックを助けるのは自分しかいない、大人は何もしてくれない
自分の命をかけて救急車を呼んでみせる
エルマーは宇宙飛行士の勇気で、校長の車をハンマーで壊します
死ぬ寸前まで殴られ、給水塔の上から飛び降りる
死ぬのは怖くない、天国にはママがいるのだから
虐待を受け続けた子どもが、死の覚悟をするとき
死んだほうが幸せなのです、生きていて何がある?
暴力シーンがリアルで、演技とは思えません
それに、もし警察でも児童相談所でも、虐待の通報があったときは
連絡したり都合のいい日を確認してから行くのではなく
すぐ「踏み込む」ことが大事なのだと教えてくれます
暴力を受けて泣き叫んでいる、その時その場に行かなければ助からない
新しい監察官は、非番でも真夜中でもかまわない
エルマーの通報を知り施設にやってきてくれた
そのおかげで真実は知られ、兄弟の命は助かったのです
北欧の世界的モデルとも言われている
今の優れた福祉が出来上がった陰には、こんな犠牲があったとは
だけど虐待はなくならない
虐待をなくするには、虐待する側の心理も知る必要があるのでしょう
自分が強いということを知らしめるのに、どんな快感があるのか
それを抑えるためにはどうしたらいいのか
虐待する人間をなくさない限り、虐待はなくならないのだから
(長文になってしまった・・ 苦笑)
【デンマーク「社会」】ウィキペディアより
ノルディックモデルの高福祉高負担国家であり、高齢者福祉や児童福祉が充実しており、国民の所得格差が世界で最も小さい世界最高水準の福祉国家である。市民の生活満足度は高く、国連世界幸福度報告では第1位(2014年)、OECDの人生満足度(LifeSatisfaction)ではスイス、ノルウェーに次いで第3位、世界幸福地図では世界178ヵ国で第1位(2006年)、世界価値観調査での幸福度(Happiness)はアイスランドに次いで第2位(2005年)であった。
市民の95%は、支援が必要になった際に誰かに頼ることができると考えている(OECD平均では88%)
【解説】映画.comより
コペンハーゲンの養護施設で起きた実話をもとに、自分たちの手で未来を切りひらこうとする幼い兄弟の絆を描き、デンマーク・アカデミー賞で作品賞をはじめ6部門に輝いたヒューマンドラマ。1967年。労働者階級の家庭に生まれた13歳の兄エリックと10歳の弟エルマーは、病気の母親から引き離されて養護施設に預けられる。そこでは、しつけとは名ばかりの体罰が横行していた。さらにエリックたちは新しい環境になじめず、上級生たちによるイジメの標的になってしまう。そんな過酷な日常から抜け出すべく、兄弟は施設からの逃亡を図る。ラース・フォン・トリアー率いる製作会社ツェントローパの俊英イェスパ・W・ネルスンが監督をつとめ、デンマークで史上最高視聴率を記録したテレビドラマ「THE KILLING キリング」のスタッフやキャストが集結。ソフィー・グロベルが子どもたちを見守る教師役、ラース・ミケルセンが厳格な校長役を演じた。