「家」は心の中にある
原題は「Nomadland」
原作はジェシカ・ブルーダーが2017年に発表した
ノンフィクション「ノマド: 漂流する高齢労働者たち」
国際的にも高い評価を受けた映画で
ひさびさに凄い才能を見た気がします
監督は北京生まれで中国籍の女性クロエ・ジャオ
容赦なく人物を写し出すカメラはジョシュア・ジェームズ・リチャーズ
とてつもない大物になる予感
2008年におこったリーマンショックは
多くの高齢者にも影響をあたえ
家を手放し車上生活を余儀なくされる者もいました
彼らは自家用車でキャンプ場や荒野で寝泊まりしながら
働き口を求めて各地を巡る「現代のノマド」となります
主人公のファーン（フランシス・マクドーマンド）もそんなひとり
ネバダ州のエンパイアという町で臨時教員をやっていましたが
夫が死に、工場の閉鎖で町が消え家を手放すことになります
自家用車のバンに家財道具を積み込み、職を求めて旅に出る
そこでファーンは同じ境遇の人々と知り合い、交流を深めていきます
ファーンはかっての生徒にこう説明します
先生は「ホームレス」でなく「ハウスレス」だと
つまりホームレスとは、家族や友人など人間との絆が切れた人々のことで
ハウスレスとは（経済的困窮のためやむを得ず）家を失った人々
ホームレスとは違うのだと
そうして（ブラックフライデーとクリスマスの繁盛期だろう）
次の仕事を求め旅立ちます
フランシス・マクドーマンドが旅先で出会う車上生活者たちは
なんと本人が本名で出演している「現代のノマド」
セリフのほとんども脚本によるものでなく
カメラの前で彼ら自身が語った言葉だそうです
ストーリーというストーリーはほとんどなく
ノマドたちの実際の生活に焦点をあてていきます
このドラマとドキュメンタリーを組み合わせに全く違和感はありません
ノマドの生活は、羨ましいところと
そうでないところ両方ですね
羨ましいところは、社会にも家庭にも
誰にも束縛されず邪魔されず自由に生きられること
仕事を退職し、子育てが終わり、伴侶に先立たれたからこそ得た
孤独と自由とはセットなのです
そうでないところは
彼らは10のことがあれは10、少なくても7以上できる人たち
車上生活だけでなく、仕事でもそう
国立公園の雑用係からレストランの厨房まで
与えられた仕事はなんでもこなすし、人間関係もそつない
私には到底無理
間違いなくどこかで野垂れ死んでしまう（笑）
作中でもファーンの車がパンクしてしまい
たまたま近くに知り合いが宿泊していたから助かったものの
スペアタイヤを積んでいなかったり、GPSを搭載していない
車のメンテンスを疎かにしていることが、命取りになると教えられます
案の定ファーンの車は故障してしまい
工場では修理するより買ったほうが安いと言われますが
ひとつづつ手をかけた、愛着のある車を手放せない
妹にお金を借りに行くことにします
また妹がいい人なんですね
この映画には優しい人しか出てこない
だから余計見終わった感がいい
ファーンは一緒に暮らそうと言ってくれる妹にも
好意を抱いてくれている男友達にも、別れを告げます
でも「さよなら」は決して言いません
「またいつか、いつかどこかでね」
1年が経ち、再びAmazonの仕事に向かうと
ひとりで大晦日を祝うのでした
たぶん、次の1年も頑張れるという願いを込めて
これぞアメリカでしか撮れない映画
お気に入りにさせてもらいます
【解説】映画.COMより
「スリー・ビルボード」のオスカー女優フランシス・マクドーマンドが主演を務め、アメリカ西部の路上に暮らす車上生活者たちの生き様を、大自然の映像美とともに描いたロードムービー。ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」を原作に、「ザ・ライダー」で高く評価された新鋭クロエ・ジャオ監督がメガホンをとった。ネバダ州の企業城下町で暮らす60代の女性ファーンは、リーマンショックによる企業倒産の影響で、長年住み慣れた家を失ってしまう。キャンピングカーに全てを詰め込んだ彼女は、“現代のノマド（遊牧民）”として、過酷な季節労働の現場を渡り歩きながら車上生活を送ることに。毎日を懸命に乗り越えながら、行く先々で出会うノマドたちと心の交流を重ね、誇りを持って自由を生きる彼女の旅は続いていく。第77回ベネチア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞、第45回トロント国際映画祭でも最高賞の観客賞を受賞するなど高い評価を獲得して賞レースを席巻。第93回アカデミー賞では計6部門でノミネートされ、作品、監督、主演女優賞の3部門を受賞した。
2020年製作／108分／G／アメリカ
原題：Nomadland
配給：ディズニー
劇場公開日：2021年3月26日
