雨にぬれた舗道(1969)

角川シネマ有楽町で開催されている

ロバート・アルトマン傑作選」行ってきました

鑑賞したのはアルトマン初期の作品で、未ソフト化、未配信

この機械を逃したら一生見れないかも知れない(笑)

「雨にぬれた舗道」(原題「That Cold Day in the Park」”その寒い公園の日”)

第一印象はアルトマンもこういう映画を撮るのか

という感じ

いわゆるシャンタル・アケルマン

ミヒャエル・ハネケのように「スロー・シネマ」的で

美意識と静謐(せいひつ)の中に女性の隠された内面を映し出します

そこにヒッピーの男女や、フリーセックスといった

後のアルトマン「らしさ」が絡んでくる

原作はアメリカの俳優で脚本家、ピーター・マイルズによる同名小説

裕福なハイミスの女性が、寒い秋の日に雨に濡れている青年に同情し

家に招き入れたことから起こる悲劇

若い肉体と自由への憧れは、恋する感情から性欲へ

やがて強迫観念にかられ

人格障害(総合失調症)を引き起こしていくのです

バンクーバーのアパートで裕福に暮らすフランシス(サンディ・デニス)

親から譲り受けた屋敷には通いの家政婦と調理人がいます

彼氏のスティーブン博士、セレブのご婦人たちと昼食会

なぜかお友だちは皆お年寄りばかり、あまり話があいません

 

窓の外を見ると、土砂降りの雨の中ベンチに座り続けるひとりの青年

客が帰るとフランシスは青年(ザ・ボーイ)を呼びに行き

自宅に招き風呂に入れ食事を与えます

ザ・ボーイ(マイケル・バーンズ)は唖者なのか、外国人なのか

ひと言も喋りません

でもフランシスにとって彼が喋ろうが、喋るまいが、どうでもいいこと

可愛い子犬を道端から拾ってきたのと同じなんです(笑)

かまって、かまって、面倒を見てあげたい

しかもボーイが可愛い眼差しで見つめたり

上手にピアノを弾いたり

魅惑的なダンスを踊ったりするものだから

フランシスはあっという間にその魅力の虜になってしまいます

ボーイのために食事を作り、新しい服を買いに行く

しかし次の夜、ボーイが窓から抜け出し消えてしまいました

ボーイは貧しい育ちだけど怪しい者ではなく(笑)

 

両親と弟妹たちと暮らす19歳の青年で、もちろん喋れる

姉のニーナ(スザンヌ・ベントン)は彼氏のニックと同棲しています

ボーイはニーナとニックと雨の日公園で待ち合わせをしていましたが

ふたりは来ず、そこにフランシスが現れたのです

ボーイの話に興味を持つニーナとニック

ニーナはボーイが幼いころから唖者のふりをする特技があったといいます

金持ちのマダムが金で若い男を買うってやつだろ

それなら俺が変わってやってもいいと笑うニック

ボーイはそんなんじゃないと否定します

ボーイがいなくなり落ち込み、苛立ち

家政婦に八つ当たりするフランシス

そこにボーイが(ニーナの焼いた焦げたクッキーを持って)戻ってくると

フランシスは急に色めき立ち、高いワインを開けフルーツを用意

怪訝そうにしている家政婦を帰らせます

 

酔っぱらって目隠し遊びをするふたり

フランシスが目隠しの番になると、ボーイが消えてしまう

ボーイがいなくなるたび不安を覚えるフランシス

でも朝になるとボーイは戻って来る

「今日は遅くなるから」とフランシスが出かけると

葉巻を吸ったり、ブランデーを飲んでくつろぐボーイ

すると姉のニーナが屋敷にやって来て

勝手にお風呂に入り高級入浴剤を使ってはしゃいでみたり

フランシスのベッドで裸のままボーイを挑発します

フランシスがいつ帰って来るかと気が気でないボーイ

その頃フランシスは婦人科の病院にいました

待合室ではご婦人たちが避妊方法について話し合っています

フランシスも避妊用横隔膜を取り付けるため、ここに来たのです

 

フランシスは用意周到な女なのですね

それも相手の意思や意見など関係ない

そうと思ったら実行するタイプ

ティーブン博士たちとローンボウルのあと

(ボウリングとゴルフを合わせたようなスポーツ)

ティーブン博士の求婚を断り、ボーイの寝ている部屋に忍び込む

 

ベッドに横たわり、思い切って「抱いてもいいのよ」

「愛して欲しい」と告白するフランシス

ところがボーイだと思って話しかけていたのは、まさかの人形

ボーイはいつも通り夜中に抜け出していたのです

その瞬間、何かのガタが外れフランシスが発狂

朝方戻ってきて寝てしまったボーイの部屋の窓に釘を打ちつける

(釘の打ち方に狂気を感じる 笑)

 

夜の街でボーイの相手をしてくれる売春婦がいないか探していると

ひとりの男が(相場は30~35ドルだと)仲介役を紹介してくれます

(そんな場所に神の御言葉を語る男現る 笑)

仲介役は50ドルだと、シルビアを呼び(実際は20ドル)

しかもコーヒー代15セントまでちゃっかり請求する

男たちは皆、フランシスの身なりを見て金持ちだろうと

ぼったくっているんですね

 

フランシスと共にタクシーで屋敷に向かったシルビアは

バストイレ付きのゲストルームに閉じ込められ、ボーイが呼ばれる

金持ちのどんな変態プレイが待っているのかと

不安だったシルビアでしたが

ボーイを見たとたん「あなたならいいわ」とゴキゲン(笑)

そしてボーイが幽閉されていることを知ると

「私が出ていくとき一緒に逃げましょう」と提案するのでした

 

しかし部屋には盗聴器が仕掛けられていました

そう、フランシスは用意周到な女だから

突然フランシスが部屋に入ってきて、ふたりに覆いかぶさる

ベッドから抜け出したボーイが灯りを付けると

ベッドには包丁を胸に突き刺されたシルビアが横たわっていました

 

シルビアのような売春婦を選んだのも

行方不明になっても誰も探さないからでしょう

金を渡したらどこかに消えてしまったと言えばいい

慌てて逃げようとするボーイですが

玄関には鍵がかかり、体当たりしてもびくともしない

表情ひとつ変えずボーイに近づき口づけを交わすフランシス

 

もはやこれまで

今度逃げようとしたら、人形と同じように首をもがれるかも知れない

そうして子犬は檻に閉じ込められたのでした

 

 

【解説】映画.COMより

アメリカ映画界の巨匠ロバート・アルトマンがキャリア初期に手がけた「女性映画3部作」の第1作で、元ハリウッド子役の作家リチャード・マイルズの長編小説を原作に、孤独なブルジョア女性と見知らぬ青年の奇妙な関係を描いたスリラー。

ある雨の日。30代の裕福な独身女性フランセスは、自宅の近くにある公園のベンチでずぶ濡れになっている青年を見つける。フランセスはその青年を自宅に連れ帰り、風呂に入れて食事を与えるが、青年は何もしゃべらない。フランセスが青年を誘惑しても、彼は応じようとせず……。

バージニア・ウルフなんかこわくない」のサンディ・デニスが主演を務めた。「ロバート・アルトマン傑作選」(2023年5月26日~、東京・角川シネマ有楽町ほか)上映作品。

1969年製作/113分/PG12/アメリカ・カナダ合作
原題:That Cold Day in the Park
配給:コピアポア・フィルム
日本初公開:1970年