ドライブ・マイ・カー(2021)

村上春樹の短編小説「女のいない男たち」の中から

「ドライブ・マイ・カー」「シェエラザード」「木野」

3つの物語から構成されたドラマ

テーマは男が過去を見つめ直し、強さや威厳より

自分の弱さを認めて再生していくもの(たぶん 笑)

各賞を総なめにし、話題にもなりましたが

ハルキスト、そこまではいかなくても村上春樹を読んでいる人間でなければ

見る人を選ぶ作品だと思います

本好きでなければ、正直あまり期待はしないほうがいい

映画というより、ラジオ小説に映像をつけた感じ

濱口竜介ジャン・ルノワール(18941979)

イタリア式本読みを採用したといいます

それは(役者に棒読みで演技させる)演技性の排除という考え方で

たぶん小説をスクリーンで読んでいるかの気分にさせるため

あえて工夫したのではないかと思います

次にチェーホフによる戯曲「ワーニャ叔父さん」と主人公とのリンク

ワーニャは死んだ妹の夫であるセレブリャコフ教授の領地を

自らの生活を犠牲にしてまで守ってきましたが

セレブリャコフ教授が領地を売ることになり

今までの努力が何だったのか自分を見失ってしまいます

そんなとき(失恋で)生きることに絶望していた

姪のソーニャと支え合うようになり

ふたりで新しい人生を歩んでいく決意をするというもの

舞台演出家で俳優の家福(かふく)(西島秀俊)と

妻で脚本家の音(おと)(霧島れいか)は

(過去に幼い娘を亡くしているものの)裕福で仲睦まじい夫婦

音にはセックスの最中に物語が浮かぶという性癖がありました

それを家福が記憶し書き留め、音が脚本化するのです

なかには完結しない不思議で禍禍しい物語もありました

「山賀の家に忍び込む女子高校生」

「前世はヤツメウナギ

一方で家福はカセットテープに舞台の台詞を音に録音させ

音の声を愛車で流して台詞を覚えていました

ウラジオストックの演劇祭で審査員を頼まれた家福が

フライトが中止になり家に帰ると

音が若い男とセックスしていました

何も言わずそっと家を出て、ホテルに泊まり

出張先からのように音に電話をかける

その後も変わらぬ夫婦生活を送っていた家福と音ですが

ある朝、音が「今晩帰ったら話せる?」と尋ねます

躊躇った家福はその日わざと夜遅くに帰宅すると

音は倒れていて(くも膜下出血)そのまま死んでしまいます

そして2年後、家福は国際演劇祭でかって自らが主役を演じた

「ワーニャ叔父さん」を上演するため広島に来ていました

その時事務局の決まりでドライバーを雇うことになります

古いサーブでしかもマニュアル車

家福はためらいますが、やって来た若い女性みさき(三浦透子)は

難なくサーブを乗りこなし、安全運転

寡黙で家福のプライベートを詮索することもなく

家福はドライブ中、心地よい時間を過ごすようになります

「ワーニャ叔父さん」の(多言語を起用した)稽古が始まると

ワーニャ役の高槻(岡田将生)と北京語担当のジャニスが

車の事故で遅刻してきます

高槻は家福が音が不倫していた相手だと思っている男

そのことは「ヤツメウナギ」の話の続きで確信します

音は自分以外の男にも、セックスの最中物語を聞かせていたのです

 

しかも稽古の後、バーでスマホで撮影されたことに腹を立てた高槻は

撮影した男を殴り殺し逮捕されてしまいます

マネージャーは「ワーニャ叔父さん」を公演するためには

家福がワーニャを演じなければ無理

どうするか2日の間に決めてと言います

家福はみさきに「君の好きな場所に連れて行って」と頼みます

みさきが向かったのは巨大なゴミの集積所(エコリアム)でした

次に家福はみさきの育った場所が見たいという

夜通しドライブしてカーフェリーに乗り、北海道に向かったふたり

みさきが雪の中に土石流で埋もれた生家を見つけると

死んだ母には「サチ」というもうひとりの人格がいたことを話します

そして家福に音のすべて(もうひとりの人格)を

認めることはできないかと問うのです

家福の頬を涙がつたい、ふたりは抱き合う

僕は正しく傷つくべきだった 本当をやり過ごしてしまった

見ないふりを続けた だから音を失ってしまった 永遠に

生き返ってほしい もう一度話しかけたい

 

そして「ワーニャ叔父さん」の舞台

ソーニャ役の韓国人唖者、ユナが手話で語りかける

ワーニャ伯父さん 生きていきましょう

長い長い日々を 長い夜を生き抜きましょう

運命が送ってよこす試練に じっと耐えるの

安らぎはないかもしれないけれど 他の人の為に

今も歳を取ってからも働きましょう

そして私達の最期が来たらおとなしく死んでゆきましょう

そしてあの世で申し上げるの

私達は苦しみましたって涙を流しましたってつらかったって

すると神様は 私達のことを 憐れんでくださるわ

そして明るいすばらしい夢のような生活を目にするのよ

そして現在の不仕合せな暮しをなつかしくほほえましく振返って

ほっと息がつけるんだわ

わたしほんとにそう思うの心底から

燃えるように焼けつくように私そう思うの

観客席にはみさきの姿

そしてマーケットで食料品を買い物するみさき

韓国ナンバーのサーブの後部座席には大型犬

(ドラマトゥルク兼韓国語通訳ユンスユナ夫婦の犬と思われる

なぜみさきが韓国にいるのかは見る者の想像にまかされています

でもサーブがあるということは、家福も韓国に居るということ

ふたりはワーニャとソーニャのように

新しい人生を歩み始めたのです

私はそう信じます

余談ですが家福の家にあったスピーカーうちにもありました

2005年にオークションで売ってしまったのだけど

もしかしたらそれだったりして(笑)

(画像は2001年社宅)

 

【解説】映画.COMより

村上春樹の短編小説集「女のいない男たち」に収録された短編「ドライブ・マイ・カー」を、「偶然と想像」でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した濱口竜介監督・脚本により映画化。舞台俳優で演出家の家福悠介は、脚本家の妻・音と幸せに暮らしていた。しかし、妻はある秘密を残したまま他界してしまう。2年後、喪失感を抱えながら生きていた彼は、演劇祭で演出を担当することになり、愛車のサーブで広島へ向かう。そこで出会った寡黙な専属ドライバーのみさきと過ごす中で、家福はそれまで目を背けていたあることに気づかされていく。主人公・家福を西島秀俊、ヒロインのみさきを三浦透子、物語の鍵を握る俳優・高槻を岡田将生、家福の亡き妻・音を霧島れいかがそれぞれ演じる。2021年・第74カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、日本映画では初となる脚本賞を受賞したほか、国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞の3つの独立賞も受賞。また、2022年・第94アカデミー賞では日本映画史上初となる作品賞にノミネートされる快挙を成し遂げたほか、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞とあわせて4部門でノミネート。日本映画としては「おくりびと」以来13年ぶりに国際長編映画賞(旧外国語映画賞)を受賞した。そのほか、第79ゴールデングローブ賞の最優秀非英語映画賞受賞や、アジア人男性初の全米批評家協会賞主演男優賞受賞など全米の各映画賞でも大きく注目を集めた。日本アカデミー賞でも最優秀作品賞はじめ、計8冠に輝いた。