パピチャ 未来へのランウェイ(2019)

原題は「Papicha

パピチャとは、アルジェリアスラング

(愉快な、魅力的な、常識にとらわれない)「素敵な女性」や

「綺麗なお姉さん」のことを言うそうです

タイトルからして、希望に満ちた明るいハッピーエンドかと思ったのですが

違いました

1991年に始まったアルジェリア政府軍と

イスラム原理主義反政府軍)との間の武力紛争

犠牲者は15万人とも20万人ともいわれる

アルジェリア内戦」こと 「暗黒の10年」前夜の女子大学が舞台

 

少なくとも80年代までのアルジェリアでは

ヒジャブイスラムで女性の顔や肌を覆う布)は強要ではなく

何を着るか女性に選ぶ権利があったのですね

ファッションデザイナーになることを夢みている

アルジェの大学生ネジュマは、ルームメイトのワシラ

夜な夜な寮を抜け出してはナイトクラブに遊びに行き

トイレで女の子たちにドレスの販売をしています

ネジュマのデザインしたドレスは好評で

目標は卒業記念に自分のファッションショーを開催すること

 

なんら日本の女の子と変わらない

興味があるのはお化粧に、可愛いお洋服

そして素敵な男の子との出会い

しかしその頃から急激に反政府軍の勢力が強くなり

女性はヒジャブを着用すべきだというポスターが大量に貼られたり

ヒジャブを着用しない女性が殺害される事件が相次ぐようになります

 

ある夜、いつものようにタクシーでナイトクラブに向かうと

検問に引っかかったふたりは「結婚式だった」とうまく言い逃れましたが

(料金を払ったにも係わらず)帰りのタクシーが消えてしまいます

するとクラブにいた2人組の若い男性

メディーとカリムが送ってくれるといいます

ワシラはカリムに一目惚れしてしまい

メディーもネジュマに気があるようです

ネジュマがいつものようにドレスの生地を買いに得意の洋品店に行くと

(争いごとを好まない店主は)ヒジャブの生地しか置いていませんでした

洋服の生地やスパンコールなどの飾りは棄てるので

ただで持っていっていいと言います

さらに結婚して家庭に入ったほうが身のため(安全)だとネジュマにします

バスに乗り帰ろうとすると、女性はヒジャブをつけないとバスに乗れないと

反政府軍が黒いヒジャブを配っていました

 

ネジュマはバスを降り、雨の中を歩くことにします

すると姉が車で偶然通りかかり、母の住む実家に向かうネジュマ

そこで母はハイクという伝統的な美しい布を見せます

母はいつか娘たちの結婚式のとき、このハイクを着せたいと願っていました

真っ白なハイクの虜になるネジュマ

(黒いヒジャブに対抗する強い気持ちの現れ)

そこに見知らぬ女性が姉を訪ねて来て、姉が家の外に出ると

突然の凶弾に姉は倒れ命を落としてしまいます

(自分の意見を記事にする)ジャーナリストの姉は

反政府軍から命を狙われていたのです

 

姉の血で赤く染まったハイクを洗いながら

ネジュマはハイクを使ったドレスでファッションショーをすることを誓い

ネジュマに賛同する友人たちと共に準備を進めます

「女性に自由な服装を!」

ワシラはカリムと付き合うようになり

ワシラ誘われたネジュマが、メディーの車でドライブに出かけると

女性の服装(肌の露出)について

ネジェマと保守的なカリムの意見が対立し

カリムはワシラを連れて車を降りてしまいます

中立的なメディーはネジュマの味方をしてくれまししたが

海で泳いだ楽しいデートのあと

メディー(金持ち)は、家族でフランスに移住するつもりで

結婚したら一緒にフランスに行けるし、自由も手に入ると言います

自分が見下されていると感じたネジュマ

 

「外国に行って私は何をするの 私の国はここなのよ」

「俺は機会を与えてやってるんだ」

「頼んだ覚えはない」

メディーと口論になってしまうネジュマ

(メディーはプロポーズのつもりだったのにね・・)

さらにワシラが、カリムを信用して寮に住んでいることを打ち明けたため

彼から殴られたうえに

イスラム原理主義者たちが大学に押し入ってきて

経済学者の教授は拉致され

外国語(フランス語)は禁止だと教科書は取り上げられ

用意したドレスは全て引き裂かれてしまいます

(報復を恐れ)ファッションショーの会場もキャンセルされてしまいます

さらに、学食に抗てんかん薬である「臭化カリウム」が混入されており

知らずに服用させられていたことがわかります

「臭化カリウム」には性欲を抑制する作用があるためです

しかも長期間使用すると中毒(ブロム中毒)になる危険性まであるといいます

自分たちだって母から産まれて母乳で育ったのに

教育を放棄した愚か者たちの、愚かな行為の極み

それでも諦めきれないネジュマたちは

大学内で女子学生だけで(それなら肌の露出も問題ないはず)

ファッションショーをやることにします

女の子たちが真っ白なドレスを着て

手作りのランウエイを歩き盛り上がる中

突然会場が停電したと思ったら、武器を持った男たちが乱入

その中のひとりはカリムでした

無差別に銃が乱射され、多くの犠牲者が出てしまう

結局どんなに頑張っても、暴力の前には無力なのか

大学は閉鎖され、母の住む家に戻るネジュマ

そこに友人のサミラが助けを求めてきました

サミラは兄が定めた婚約者ではない、恋人との子を婚前妊娠していました

中絶するにもお腹は大きくなりすぎ、そのせいで兄から家を追い出され

恋人を頼るにも、その人が誰か知れたら兄に殺される

行き場を失っていたのです

 

悲しむサミラを、ネジュマの母は「娘」だと優しく迎えます

新しい命を姉の生まれ変わりと思ったのかも知れません

自身も10代をアルジェリアで過ごした

フランス系アルジェリア人(父親はアルジェリア、母親はロシア人)

ムニア・メドゥール監督(1978生)の経験をもとに描いたという本作

 

彼女が問いかける、武力による殺戮や侵略や支配は

今やイスラム原理主義だけでなく

世界的に問われている大きな問題になっています

老害は生き延び、未来を担う若者と子どもたちが戦場で死んでいく

 

だけど、本当の平和の敵は

人種や、性別や、宗教の問題だけではないかも知れない

軍需(兵器)産業という

もっと巨大な相手がいることを忘れてはいけないのです



 

【解説】映画.COMより

1990年代のアルジェリア内戦(暗黒の10年)を背景に、ファッションデザイナーを志す少女の視点を通して、イスラム原理主義による女性弾圧の実態を描いた人間ドラマ。アルジェリア17歳まで過ごし、これが長編映画監督デビュー作となるムニア・メドゥールが、自身の経験から生み出した。2019年・第72カンヌ国際映画祭ある視点部門で上映されて称賛を集めるも、本国アルジェリアでは当局によって上映禁止となった。90年代、アルジェリア。ファッションデザイナーを夢みる大学生のネジャマは、ナイトクラブで自作のドレスを販売していたが、イスラム原理主義の台頭により、首都アルジェでは女性にヒジャブの着用を強要するポスターがいたるところに貼りだされていた。そんな現実に抗うネジュマは、ある悲劇的な出来事をきっかけに、自分たちの自由と未来をつかみ取るため、命がけともいえるファッションショーの開催を決意する。

2019年製作/109分/G/フランス・アルジェリア・ベルギー・カタール合作
原題:Papicha
配給:クロックワークス
劇場公開日:20201030