娘の結婚や、死(未亡人、法事や葬式)というテーマは
晩年の小津作品に共通していますが
その中でも本作のラストでの火葬場のシーンは
死ぬということ、この世からいなくなるということを強く感じます
小津特有の、同じ繰り返しを多用する演出やセリフ回し
「暑い暑い」と言いながら、汗一つかかない能面のような表情
ロボットのような仕草にも不自然さは一切ありません
カメラは中井朝一
宮川一夫もですが、天才を超えてもう神の域ですね(笑)
冒頭京都のバー、北川(加東大介)という男が
鉄工所を経営しているやもめ、磯村(森繁久彌)に
兄の造り酒屋で小早川家の(長男の未亡人) 秋子(原節子)を紹介します
秋子はそれが縁談目的であることを知りません
次女の紀子(司葉子)には見合い話
でも紀子には同じ職場に好きな人(宝田明)がいました
同じ頃、造り酒屋を切り盛りする婿養子の久夫(小林桂樹)と
長女と文子(新珠三千代)は
道楽者の父親の万兵衛(二代目中村鴈治郎)の様子が
最近怪しいと店員の丸山(藤木悠)に後をつけさせます
万兵衛はかっての愛人つね(浪花千栄子)のもとにせっせと通っていました
そしてつねには(次から次へと)アメリカ人の恋人は連れてくるけれど
明るい娘の百合子(団令子)がいました
百合子が本当に自分の娘という証拠はないけれど
天真爛漫で恋多き性格に同じものを感じている万兵衛は
自分の娘だと思って可愛がっています
浮気性のせいで散々母親を泣かせたくせに
しかも大手酒造メーカーの登場で、地方の小売りの造り酒屋の売り上げは減少
明日も知れない
それでも少ない財産が、父親の愛人や
その娘に持って行かれるかもしれないと思うと
久夫と文子は気が気でありません
万兵衛に釘を刺すわけですが
そんなことを聞く親父じゃない
ついには愛人の家で突然死んでしまうのです
あくまで主役は雁治郎と浪花千恵子
白い布を被った雁治郎を団扇であおぎながら見つめる浪花
もう死んでしまっているのに・・
何も言えなくなってしまう久夫に文子
結婚という形や、跡継ぎが欲しいわけではない
小津が求めた愛や死とはこういうことだったのだろうか
秋子はそもそも再婚する気はなく(笑)
紀子は見合いを断り(原と司の後ろ姿がいい)
転勤が決まった好きな人を追って札幌に行く決心をする
久夫は大手酒造メーカーの傘下に入ることを決意
男の自由と、女の自立
小津の作品は古臭いように思われがちだけど
実は今見ても、前衛的かも知れません
父親として立派とは言えなかったけど
そんな男の生き様をきっかけに、家族もそれぞれ
お互いの道を歩みだしたのでした
どうせみんな死んだら、灰になってしまうのだから
【解説】allcinema より
小津安二郎が野田高梧とともに書き下ろしたオリジナル脚本を自ら監督した。小津が松竹ではなく東宝で監督した唯一の作品。
京都の伏見にある造り酒屋「小早川」は、当主である小早川万兵衛が年老いたこともあり、娘婿の久夫に引き継がれていた。長男は亡くなっており、嫁の秋子は画廊に勤めに出ている。万兵衛の様子がおかしいことに気づいた娘夫婦は、番頭の六太郎に後をつけさせるがあえなく失敗。娘夫婦が調べると、万兵衛はかつて愛人だった佐々木つねとその娘の百合のところへ通っていたことがわかる。秋子には再婚話が持ち上がるが、ふんぎりがつかない。次女の紀子もお見合いをしたのだが、大学時代の友人に想いを寄せているため決められない。