「本当は子供なんか欲しくなかった」
原題も「ROMA」(ローマ)
公開年の主たる映画賞のノミネート及び受賞を総なめにし
この作品を見るために、NETFLIXに加入した
ムービーファンも多いのではないでしょうか(笑)
タイトルの由来は監督、製作、脚本、撮影、編集を兼ねた
アルフォンソ・キュアロンの生まれ故郷
メキシコシティのコロニア・ローマ(ローマ地区)のこと
そして「ROMA」は「AMOR」(アモーレ 愛)を逆から読んだ言葉
愛の逆、愛されていない
映画の中でも男に捨てられる女たちが描かれています
決してウディ・アレンの「To Rome with love」( ローマでアモーレ)を
パクったわけではありません(たぶん 笑)
1970年のメキシコシティ
(サッカー・ワールドカップのポスターが貼っていることでわかる)
玄関に長いアプローチのある大きな家
先住民と思われる若い女性が掃除している
(その玄関には常に犬の糞がある)
クレオと呼ばれる彼女は、もうひとりの先住民の女性アデラと
白人の家で住み込みで働き、4人の子どもの世話もしています
医者である主人は常に出張中で家にはおらず
妻のソフィアと、ソフィアの母のテレサと暮らしていました
ある日アデラと映画を見に行く予定だったクレオは
アデラの彼氏から従弟のフェルミンを紹介されます
フェルミンはクレオに天気がいいのだから外で過ごそうと誘います
この男が食わせ者でした
クレオの前で全裸になって、カーテンレールの棒で武術の技を披露する
私は過度なぼかしやモザイクは嫌いですが
ここまで気前よくフルチンを見せるのも微妙(しかもやや長い 笑)
クレオにどれだけ自分が強くて、男らしいか信じ込ませるわけですが
(クレオもアデラの彼氏の従弟なので信用したのでしょう)
しばらくしてクレオから「妊娠したかも知れない」と告げられると
映画館でトイレに行くふりをして、そのまま失踪してしまいます
クレオが道場まで会いに行くと「俺が父親のはずがない」
「帰れ 召使いめ」 と逆ギレする最低クズ男
(でも特別講師のヨガのポーズが出来たのは妊婦の彼女だけという皮肉)
同じ頃ソフィアが電話で誰かに相談しています
カナダに出張は嘘で、夫は愛人と居て仕送りもしてくれないと
それをドアのそばで盗み聞きしていた次男
ソフィアは思わず息子を平手打ちし、盗み聞きをさせたとクレオを叱ります
クレオはなにかとソフィアに当たられ、嫌われているのではないか
妊娠したことでクビになってしまうのでは不安でなりません
でもソフィアは夫の浮気せいでストレスが溜まっていただけで
根はやさしいお母さんなのです
クレオを病院に連れて行き彼女が妊娠3~4か月であることがわかります
そして年は明け1971年
この年はPRI (制度的革命党)による国民や学生運動に対する
弾圧と虐殺が行われた事件のひとつ
「血の木曜日事件」(コーパスクリスティの大虐殺)があり
メキシコ人にとっては忘れられない年なんですね
テレサは臨月になったクレオにベビーベッドを買うため家具屋に連れていきます
そのとき外で騒ぎが起こり、店に逃げ込んで来た学生が
「ロス・アルコネス=鷹団」(政府に雇われた暴力軍団)に撃ち殺され
その中のひとりはフェルミンでした
そしてフェルミンはクレオを顔を見られると、すぐさま逃げ出してしまいます
(どこまで卑怯な男なんだ)
ショックで破水してしまうクレオ
だけどデモの渋滞で病院に辿り着けない
生まれた赤ちゃんが産声をあげることはありませんでした
イマドキは「親ガチャ」なんていう例えもありますけど
私は子どもが親を選んで生まれてくると思うんですよ
クレオは子どもを望んでいなかった
赤ちゃんはそれを知っているから自ら命を絶ったのです
でも失ってしまった小さな命を目の前にして
産んであげられなかったこと後悔をする
ついさっきまでお腹の中で動いていたのに
小型の新車を買ったソフィアは
壁に思い切りぶつけたフォードギャラクシー(夫の愛車)を売る前に
海が近くにある(夫が愛人といる)都市にドライブに行こうと誘います
ソフィアの夫に対する思いも吹っ切れ、これからの人生は
新しい「旅」であり「冒険」だと子どもたちに説明するのです
(これは格言だよ、みなさん 笑)
そしてクライマックスの、ソフィアと長男が出かけ
クレオが三男の面倒を見ている時
浜辺で遊んでいた次男と長女が沖に流されていくシーン
泳げないクレオは(泳がない、歩いて)次男と長女を助けます
CGもあるのでしょうけど、素晴らしいカメラ
そこからいっきに、まるで宗教画のような
家族がクレオを抱きしめる画になります
「クレオが助けてくれたんだ」
たぶんキュアロン(1961年生)は、次男なんだろうな
だいたい真ん中の子って、最初の子や末っ子に比べて
(可愛いのは一緒だと思うが)両親から放っておかれるし(笑)
兄妹のなかで、いちばん家政婦に懐いたとしても頷ける
ネオレアリズモ的でありながら
決して絶望的ではなく、むしろ希望の見える作風
ラストには、遠くの空に見える飛行機にさえ
「旅」と「冒険」を感じてしまいます
キュアロンは自身の幼かった頃の記憶をもとに
(撮影当時74歳になった)生家の元家政婦リボリアに
この作品を捧げています
(それだけでいい話だな 笑)
【解説】allcinema より
「トゥモロー・ワールド」「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソ・クアロン監督が自身の少年時代をベースに、メキシコシティのローマ地区に暮らす中流階級の家族の物語を綴った半自伝的ドラマ。1970年代前半の政治的混乱が続くメキシコの社会情勢を背景に、中流家庭で働くひとりの若い家政婦とその雇い主家族が織りなす人間模様を、美しくかつスケール感溢れるモノクロ映像で綴る。2018年12月にNetflixにて世界同時配信された。その後、日本では一部劇場での公開も実現。アカデミー賞では監督賞を含む3部門を受賞。