哀愁(1940)

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原題は「WATERLOO BRIDGE」( ウォータールー橋

ヴィヴィアン・リーが生前、出演作の中

最も好きなのがこの「哀愁」語っていたそうです

 

一目惚れ、身分の差、秘密の過去、結ばれない結末、という王道メロドラマ

シンプルにそれだけに徹している(笑)

しかも脇に立つ人間が、皆優しくていい人ばかりなことが

余計にヒロインの苦しみを際立たせる

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冒頭、ロマンスグレーでチョイ枯れたロバート・テイラー大佐が

ウォータールー橋で思い出に浸る場面から物語は始まります

 

1940年、ウォータールー橋で知り合った将校ロイ(ロバート・テイラー)と

バレエダンサーのマイラ(ヴィヴィアン・リー)は空襲で防空壕に逃げ込み

お互い好意を持ちますが、もう二度と会うことはないと思ったマイラは

戦場に向かうというロイに自分が大切にしていた幸運のお守り

ビリケンさんを渡すのです

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ビリケンさんは大阪の福の神かと思っていましたが(笑)

1908年にアメリカの芸術家、フローレンス・プリッツ

「夢で見た」神様を制作したもの

 

その夜ロイは大事な夕食会をすっぽかし

マイラの舞台を見に行きデートに誘いますが

団長のマダムはバレエ一筋、超厳しいんですね(笑)

それでも団員たちのはからいで、マイラはロイと会うことができます

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その場所が「キャンドルライト・クラブ」 というダンスホール

私が若い頃でいう「チークタイム」というのがありまして(笑)

やがてキャンドルがひとつひとつ消され

真っ暗になるとキス・・

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こういうクラブに若い女性を連れて行くなんて

実はこの男、女性を口説くかなりの上級者(笑)

 

今度こそ本当のお別れだったはずが

翌朝ロイが雨の中、マイラの寮の前に立っている

ロンドンでの滞在が2日伸びて、ロイはマイラに結婚を申し込みに来たのです

しかしその予定がまた1日短くなり、ふたりは結婚式をあげられなくなることに

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マダムの忠告を聞かず、ロイを駅まで見送りに行ったマイラはバレエ団をクビになり

マイラをかばった親友のキティも寮を出ることになります

 

だけど寮を出て初めてわかる

食事と住む場所があったことがいかに恵まれていたことか

キティはロイに援助してもらうようマイラに助言しますが

マイラのプライドがそれを許しませんでした

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しばらくして、ロイの母親がマイラに会うためやってきます

しかし待ち合わせ場所のレストランで見てしまったロイの死亡記事

意志喪失したマイラはロイママに酷い態度をとって怒らせてしまいます

体調を崩したマイラの治療のため、街の女になって身銭を稼ぐキティ

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一途にロイを愛していたマイラは、キティの行動を理解できませんでしたが

ウォータールー橋で見知らぬ男性に声を掛けられた時

絶望と貧しさで、彼女の人生も変わってしまうのです

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ヴィヴィアン・リーって、美人過ぎるせいで損をしている代表のひとり

ふとした表情だけで、全てを悟れる演技力はたいしたもの

特に破滅型をやらせたら逸品で

ここでも純粋無垢な娘が、大勢の男を流し目で品定めするまで

落ちぶれる女を見事に演じ分けています

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そこにロイが生きて帰って来た

なんと死亡記事は間違いだったのです

キティの応援もあり、マイラはロイと結婚するため

ロイの実家のスコットランドに向かいます

そこではロイママも、影響力のあるロイの伯父さんも

マイラを歓迎し、やさしく受け入れてくれました

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でもきっと、マイラは感じたのだと思います

誰もが自分の過去を感じつつ、知らないそぶりをしているのだと

戦時でしかたがなかったこと

助けてあげなかった自分たちのほうが悪い

なにより愛するふたりが幸せになることが大事

でも、そのやさしさに耐えきれなかった

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それとも、上流社会の高貴なボランティア精神に

追い打ちをかけられた、というべきでしょうか

ロイママや素敵な叔父さんのマイラへの同情は

被災地で飼い主や行き場を無くした、憐れな動物に対するものと同じ

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マイラが死を選んだのは、過去を恥じてでしょうか

それより私は、愛する男性との身分、家柄、教養・・

イギリス人なら誰でも知っている

 

決して埋め尽くせない、格差

このまま結婚したら、名家にとってゴシップ

死ねば、戦争によって引き裂かれた永遠のロマンス

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ラスト、ロバート・テイラーが全てをわかっている感で

ビリケンさんを握り絞め、再び任務に就く姿がまたいい

 

  まるでマリリンの墓参りを続けた、ジョー・ディマジオのようで

 

 

【解説】KINENOTEより

「響け凱歌」で共演した「風と共に去りぬ」のヴィヴィアン・リーと「椿姫(1937)」のロバート・テイラーが顔を合せての主演映画で1940年作品。ロバート・E・シャーウッド作の舞台劇『ウォータールー橋』の2度目の映画化(1度目は「ウォタルウ橋」'31)で「征服」のS・N・ベールマン、「キューリー夫人」のハンス・ラモー及び「心の旅路」のジョージ・フローシェルが協力脚色し「心の旅路」「キューリー夫人」のマーヴィン・ルロイが監督した。撮影は「ガス燈」「心の旅路」のジョゼフ・ルッテンバーグが指揮し、音楽は「育ち行く年」のハーバート・ストサートが作曲している。「剃刀の刃」のルシル・ワトソン、「勝鬨」のヴァージニア・フィールド、「征服」のマリア・オースペンスカヤ、「キューリー夫人」のC・オーブリー・スミス等が共演。

1940年燈火等制下のロンドン。ロイ・クローニン大佐はフランスへ赴任するのでウォータールー駅へ自動車を駆っている。駅に近くウォータールー橋にさしかかると大佐は車を降りる。橋は第1次大戦当時、爆破されて架橋し直したとはいえ、大佐には懐かしいのであろう。霧に霞むらんかんにもたれつつもの想いにふける。それは1917年、彼は25歳の陸軍大尉であった。スコットランドの旧家クローニン家に生まれ、フランスの戦野へ出征の途上、ロンドンで閑暇を楽しんでいるのだ。折しも空襲のサイレンが鳴り人々はウォータールー駅の避難所へ駆け出す。中の1人の女が何か落とした。大尉は手助けをして彼女と共に避難する。見れば美しい。まだ女学生と見える彼女はマイラと名乗った。オルガ・キローワ・バレエ団のダンサーなのだ。ロイは彼女の舞台を見物すると、夜食に誘ったのであるが、厳格なキローワ女史はマイラに行くことを禁じた。しかし彼女は親友のキティの助けでぬけ出して大尉と会った。翌日彼はマイラを訪ねて結婚を申込み、その次の日式を挙げる約束が出来た。ところがその晩彼女は速達便を受取った。出発命令が下ったから直ぐ立つ、会いたい、というのである。マイラは飛出して駅へかけつけたが走り行く車上に立つロイの姿をチラと見ただけであった。劇場に急いでもどると、舞台に穴をあけたというのでキローワ女史はクビを申し渡し、マイラの弁護をしたキティも諸共クビになった。貯蓄の全部を出した結婚衣装を買ったマイラは、ロイの母に会いに行った。その約束のカフェでマイラは不図見た新聞に、ロイ・クローニン大尉殉死の報を見て卒倒した。それから2ヵ月間マイラは病床にふした。就職口がないためにキティが夜の女となっていることを、全快して彼女は初めて知って、その友情に泣かされた。そして今やロイ亡きあと何の生甲斐もなくなったマイラは、自らもキティと同じ道に陥った。それから1年、ウォータールー駅でマイラは凱旋して帰ったロイと会った。彼の殉死は誤報だったのだ。彼女が待っていてくれたと思って喜んだ彼は、彼女の身の上の変化に気がつかず、彼女をスコットランドの家へ伴った。マイラは愛が絶対である。その他のあらゆる事は関係ないと、自分自身に言い聞かせたが、もしも彼女の1年間の行状が知れれば、ロイの破滅となるに違いないと思い直して、ロンドンへひとり帰ってしまった。ロイは後を追ったがマイラは身を隠した。マイラは思い出のウォータールー橋の上に、いつか来てしまっていた。何度考えても彼女は愛するロイに幸福を与えることは出来ないとしか思えない。思いつめたマイラは突進して来る軍用トラックの前に身を投げて最期をとげたのであった