アスファルト(2015)

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原題も「ASPHALTE」(アスファルト

新型コロナで世界を覆う不寛容というトレンド

なくならない差別や蔑視が今、私たちの心に暗い影を落としています

 

そんな時代でも、お互いの足りない部分を補ったり

認め合ったりすることが出来るはずと信じたくなるような

見終わったあとはちょっとハッピーな気持ちになれる

年齢も人種も違う男女の3つの小喜劇

 

古い団地の1室に住民が集まり

壊れたエレベータを取り換えようという会議が行われていました

ただひとり2階に住む男、ギュスタヴ・ケルヴェンは費用負担を拒否します

結局、男はエレベータを使用しないという条件で支払いを免除されますが・・

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エレベータの故障をモチーフとして物語が展開するのかと思いきや

そうではなく(笑)

不器用で意思疎通が苦手な、別々の男女が出会い

親子でもないし、エロティシズムという形でもない

ちょっと定番と違う、男女の交流を深めていくというもの

 

新しいエレベータになった直後、男は車椅子生活になってしまいます

ここで素直に住民たちに怪我を打ち明け費用を支払えばいいわけですが(笑)

深夜になると誰にも見られないよう、エレベータに乗り

食料を調達するために出かけるものの店はすべて閉まっている

そこで病院に設置された自販機でスナック菓子を買うことにします

そこで夜勤の看護師(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)に見つかり

とっさに自分は写真家でロケハンに来たと嘘をついてしまう

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それから毎晩、看護師の休憩時間に合わせて病院に行くようになった男は

彼女の写真を撮りたいと提案します

しかし約束の夜、エレベータが故障して男は閉じ込められてしまいます

 

エレベータのドアが開いた時、男は足を引きずりながら歩いていました

病院に着いたときにはすでに夜が明け

ちょうど夜勤明けの看護師と会うことが出来ました

そこで男は正直に自分は何者であるかを伝えるのです

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ふたつめの物語は、母親が留守がちで

ほとんどひとりで過ごしている高校生のシャルリは

隣に引っ越してきたばかりのイザベル・ユペールと知り合います

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彼女の職業は女優でそれなりに有名だということ

でも若いシャルリはユペールのことを知りません

そこで彼女が主演している映画を見せてほしいと提案します

その映画も普通の高校生に理解できるようなものではないのですが(笑)

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今は役がつくこともなく、落ちぶれてしまったユペールが

オーディションに合格するよう、シャルリは世話を焼くようになります

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最後の物語は、NASAの手違いで帰還用のカプセルが

団地の屋上に不時着してしまった宇宙飛行士のジョン・マッケンジー

アルジェリア系移民のマダムの部屋を訪ねるというもの

 

飛行士とマダムは全く言葉が通じないものの

人の好いマダムは飛行士に息子の服を貸し、息子の部屋に泊め

得意料理のクスクスを作り、宇宙服を洗濯してあげる(笑)

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そんな明るいマダムだけど、息子は刑務所に入所しているんですね

面会でこっそり「NASAの宇宙飛行士を匿ってる」と教えると

アルツハイマーか」と息子に逆に心配される始末(笑)

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マダムの優しさに触れた飛行士も、壊れた水道管を直してあげようとします

そしてやっとNASAから迎えが来た日

マダムと飛行士は本当の親子の別れのように抱き合いました

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登場人物たちは、全員恵まれていない人たち

それは自分のせいではなく、不遇だったり、運が悪かっただけ

それでも彼らはそれを誰かのせいにしたりはしないし

誰かを傷つけたりもしない

 

それどころか、それは小さなことかも知れないけれど

自分にできることで他人を助けようとするのです

しかも決して見返りを求めることはありません

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人工的で、ゴミだらけで、灰色の道路のアスファルトにも

陽に照らされたり、雨に濡れたり、時に光輝く時がある

同じように世間から見捨てられた人々の心の中にも

美しいものは宿っている、そんなメッセージを感じることができました

 

 

【解説とあらすじ】KINENOTEより

俳優・監督のサミュエル・ベンシェトリがイザベル・ユペールらを迎え、自身の著作をユーモラスに映画化した群像劇。車いす生活を送る冴えない中年男やいわくありげな美人看護師ら6人の孤独を抱えた者たちが郊外の団地でめぐりあう出会いと奇跡を紡いでいく。ほか、「ラストデイズ」のマイケル・ピット、「ふたりの5つの分かれ路」のヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、サミュエル・ベンシェトリの息子であるジュール・ベンシェトリらが出演。劇場公開に先駆け、フランス映画祭2016にて上映(上映日:2016625日)

外にある寂れた団地。人知れず車いす生活を送ることになった中年男性といわくありげな看護師、一人で留守番をすることの多い少年とその隣りに引っ越してきた落ち目の女優、不時着したNASAの宇宙飛行士と服役している息子を待ち続けるアルジェリア系移民の女性。それぞれ孤独を抱えた6人のもとに、出会いと奇跡が訪れる