【フレデリック・フォーサイス】マンハッタンの怪人(2000)

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イギリスの作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバー(以下ALW)が
自身の代表作「オペラ座の怪人」(1986)の続編
「ラヴ・ネヴァー・ダイズ」(Love Never Dies)を製作するにあたって
フレデリック・フォーサイスに執筆を依頼したという本作

なのでガストン・ルルーの「オペラ座の怪人」(1910)に沿った展開ではなく
ALWの「オペラ座の怪人」の続編になる単独の作品ということ

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2010年ウエスト・エンド(ロンドン)でプレビュー公演が開幕
オリジナル・ロンドン公演は不評だったものの
デザインチームの変更と大幅な改訂でオーストラリア公演では評価をあげ
ブロードウェイ公演が計画されたものの無期限延期
日本では2014年に市村正親鹿賀丈史がファントム役
濱田めぐみ平原綾香がクリスティーヌ役で公演、2019年に再演されました

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ALWの「オペラ座の怪人」がすでに「完成された」ミュージカルで
ファンにとってファントムといったらALWのファントム
ミュージカル女子にとってファントムは、白い仮面に黒いマントをひるがえす
オペラ座の地下の宮殿に住む不幸で孤独なタキシード王子

その王子様がフォーサイスの文章ではこれでもかという汚男で
つば付きの帽子とマントに、穴のあいた布で覆った顔
リアル「エレファントマン」(1980)まんまの姿にされたら
そりゃあファントム・ファンは怒るよな(笑)

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【ここからネタバレあらすじ】


脱糞にまみれた見世物小屋の少年エリクはマダム・ジリーに助け出され
オペラ座の地下に隠れて住むことになり、オペラに精通
クリスティーヌ誘拐事件の後、マダムによってアメリカ行きの船に乗せられます
ニューヨークでは税関を逃れるため救命道具をつけて海に飛び込み
コニーアイランドがあるベイのビーチにたどり着きました

そこに集まっているアウト・カースト(不可触民=最も差別される人々)たちは
エリクの素顔に関心を示すことはなく、すぐに仲間に入れてくれました
エリクは彼らとともに魚の臓物(わた)抜きや片付けで
わずかな賃金を得るようになりますが、エリクは野心家でした

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カトリックの神父殺しでマルタから逃げてきたダリウスという青年を教育し
自分の代役として働いてもらうことにするのです
ダリウスが信仰し陶酔する唯一の存在が黄金の神、マモン
そのおかげで金を稼ぐために、彼ほど冷酷無情な人間はいませんでした

観光客相手の詐欺や、絵葉書の販売からはじまり
ヨーロッパから来たアミューズメントパークの設計技術者という触れ込みで
アトラクションの開発を手掛けたり(エリクには本当に才能があった)
賭けボクシングでは200万ドルという大金を得ます
(ダリウスがスポーツ記者になりすまし鎮痛剤入りドリンクにすり替えた)

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金貸しのペーパーカンパニーを作り、証券取引所の会員となり
エリクは複雑な株式市場のからくりを学び巨万の富を築きます
ニューヨークで最も高いタワーを建設しペントハウスを住まいにする
次にエリクがやるべきことは復讐を実現することでした

そんなときフランス人の弁護士が、マダム・ジリーからの手紙を
エリクに届けにやってきました
その時からエリクの様子が少しづつ変わっていき
マンハッタンに建設した世界最高峰のオペラハウスのこけらおとしに
子爵夫人で世界的大スターでもある歌姫クリスティーヌを呼ぶことにします

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エリクのやることは、復讐からふたつの目的に変わりました
ひとつはクリスティーヌに自分の作詞作曲した演目を演じてもらうこと
もうひとつは「息子」を引き取ることでした

ここで、エリクとクリスティーヌがヤッたのか
ヤラなかったのか、という議論になるわけですが(笑)
クリスティーヌのように男の前でか弱そうな女ほど実は野心家
エリクのほうが騙されていたのかも知れません(笑)

ALWの続編は、ラウルも傷を負った不完全な人間であり
エリクの子を宿していると知りながらクリスティーヌに求婚します
エリクは恋に破れましたが、クリスティーヌが歌手として
成功することをいちばんに望んでいました

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南北戦争を背景に(エリクがモデルの)非愛物語が公開され
クライマックスには息子のピエールも登場して夢の親子3人が共演
舞台は絶賛され大成功を収めます

エリクとクリスティーヌの最後の別れの時
ダリウスはエリクの全財産が息子ピエールに渡ることを恐れ
ピエールの暗殺を計画していました
ピエールをかばいダリウスの銃弾に倒れたクリスティー
ダリウスに向かいマントの下のデリンジャーを発砲するエリク

死ぬ間際、クリスティーヌはピエールに「ほんとうのパパはあの方よ」
「ごめんね、坊や」と言い残し目を閉じました
クリスティーヌの亡骸はラウルによってフランスに戻され埋葬されました

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その日以来、エリクがマスクを被ることはなく
ピエールはエリクとともにマンハッタンで暮らし、事業を継ぐという結末
息子が父親の跡を継ぎ更なる成功を収めるというのは
男にとって最高のハッピーエンドに違いありません

【ネタバレあらすじ終了】

 

これでは、ファントムとクリスティーヌの愛の復活
ラブ・ロマンスを期待して読んだ人の「がっかり」度が
いかに相当だったか想像がつきますね(笑)

フォーサイスはまず、ガストン・ルルーの原文を細かく読み込んで
(当時のオペラ座にまつわる噂話を書き込んだだけのようなもの)
矛盾をあぶり出し、物語に整合性をつけるため再構成してから
本作を書き上げたそうです

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私は、叶わない愛、辛い人生だけを送ってきたファントムが
息子との出会いで、醜い顔を気にすることがなくなり
穏やかな晩年を暮らしたという終わり方は、決して悪くないと思いました

フォーサイスらしいどんでん返しはないものの、供述形でサクッと読めますし
ジェフリー・アーチャーシドニィ・シェルダン的な
サクセス・ストーリーが好きな人には楽しめると思います