パターソン(2017)

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原題も「Paterson」

映画評論家風に言えば、ジム・ジャームッシュアメリカのモダニズム詩人
ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ(1883~1963)の長篇詩「パターソン」に
影響を受けて「アメリカ的なるもの」「労働者階級のアーティスト」を
追い求めた作品・・という感じになるのでしょうが

まあ、普通のカップル(夫婦)の日常を
ジャームッシュが描くとこうなります(笑)

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ニュージャージーのパターソンという町に住むパターソンという名の男は
6時すぎに起床→妻のローラにキス→ミルク入りのシリアルを食べて出社
バスの運転席で詩を書く→時刻を教えに来る浮かない顔の車庫長
仕事は路線バスの運転手(景色を眺める、乗客の話を聞く)
帰宅、斜めのポストを直す→ローラのお喋り
夕飯→愛犬のマーヴィンと夜の散歩→馴染みのバーでビールを1杯だけ飲む
の、毎日同じ繰り返し

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家の中の実権は全て妻が握っていて
毎日インテリアを白黒の水玉模様にしていき、料理も独自のセンス
高価なテキスト付きのギターを買ってカントリー歌手になるという

本当のところパターソンとは性格も趣味も合わず
彼は無意識に妻に抑圧されています
家族の順位はあくまで、ローラ > 犬 > パターソン
それでもローラは美人で気立てがいいし、自分のことを愛してくれている
窮屈だけど、ほかの男より幸せだと思ってる

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車庫長は金遣いの荒い妻に悩み、愚痴り
バーのマスターは趣味のコレクションに貯金を使い込んでしまい妻に怒鳴られる
役者志望の友人は、元恋人のマリーに未練たっぷり諦めらめきれない
自分と「合わない」女を愛してしまい、不満を抱えながら過ごす日々

そんなパターソンが、唯一解放されるときが詩を書いているとき
毎日の出来事で感じたことを「秘密のノート」に書き綴っているときだけが
素直で正直な気持ちでいれる

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金曜日
朝目覚めるとローラがベッドにいない
ローラはキッチンで土曜に市場で売るカップケーキを作っていました
そこからパターソンのルーティンが狂います
バスが故障して立往生、小学生からスマホを借りる
バーではフラれ男の友人が、銃身自殺をすると騒ぎだし
勇敢にもピストルを取りあげたパターソンでしたが、おもちゃの銃でした

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土曜日
大量の白黒カップケーキを車に積んでローラは市場に出発
パターソンはマーヴィンと散歩に行き、詩を書きました
ローラはカップケーキが完売して大喜び、お祝いにパターソンを映画に誘い
ふたりは「獣人島」と「凸凹フランケンシュタインの巻」の二本立てを見て
楽しいひとときを過ごします
帰宅すると、パターソンの秘密のノートがマーヴィンに食い荒らされて
粉々になっていました

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日曜日
ノートを破かれたショックから立ち直れないパターソンはひとりで散歩に出かけ
(本当はマーヴィンが嫌いだった)ベンチに座って滝を見ていました
そこに日本人の男がやってきて、ウィリアム・C・ウィリアムズの詩集
「パターソン」をバックから取り出しました
パターソンに「パターソンの住人か」「詩人か」と聞きますが
パターソンは「ただのバス運転手だ」と答えます

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男は大阪から来た(自分の詩は外国語に翻訳しない主義の)詩人で
ウィリアム・C・ウィリアムズへの思いを語ります
そしてパターソンに1冊の空白のノートをプレゼントして去っていきました
詩に対する考えを共感できる人間に出会えた喜び
家に帰り、空白のノートに新たな詩を書き始めるパターソン

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月曜日
朝6時
パターソンにいつものルーティンが戻りました

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私たちのいつもの生活は、映画の中のようなスパイになれるわけでもないし
スーパーヒーローになって、悪の政治家を退治できるわけでもない
パターソンと同じように、毎日同じ繰り返し

そんな平凡な人間の人生を、ジャームッシュは韻を踏むポエムに例えて
同じ繰り返しの中にも美しさがある
変化や発見に気づくことができると教えてくれる
退屈でつまらなかったものが輝いて見えてくるのです
いつもの毎日が愛おしくなる

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詩心なんて全くないけれど(笑)
思わずノートとペンを持って、詩を書くために散歩に出たくなる
そんな作品でした

 

 

【解説】映画.comより
ジム・ジャームッシュが「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」以来4年ぶりに手がけた長編劇映画で、「スター・ウォーズ」シリーズのアダム・ドライバー扮するバス運転手パターソンの何気ない日常を切り取った人間ドラマ。ニュージャージー州パターソン市で暮らすバス運転手のパターソン。朝起きると妻ローラにキスをしてからバスを走らせ、帰宅後には愛犬マービンと散歩へ行ってバーで1杯だけビールを飲む。単調な毎日に見えるが、詩人でもある彼の目にはありふれた日常のすべてが美しく見え、周囲の人々との交流はかけがえのない時間だ。そんな彼が過ごす7日間を、ジャームッシュ監督ならではの絶妙な間と飄々とした語り口で描く。「ミステリー・トレイン」でもジャームッシュ監督と組んだ永瀬正敏が、作品のラストでパターソンと出会う日本人詩人役を演じた