原題も「Paterson」
映画評論家風に言えば、ジム・ジャームッシュがアメリカのモダニズム詩人
ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ(1883~1963)の長篇詩「パターソン」に
影響を受けて「アメリカ的なるもの」「労働者階級のアーティスト」を
追い求めた作品・・という感じになるのでしょうが
まあ、普通のカップル(夫婦)の日常を
ジャームッシュが描くとこうなります(笑)
ニュージャージーのパターソンという町に住むパターソンという名の男は
6時すぎに起床→妻のローラにキス→ミルク入りのシリアルを食べて出社
バスの運転席で詩を書く→時刻を教えに来る浮かない顔の車庫長
仕事は路線バスの運転手(景色を眺める、乗客の話を聞く)
帰宅、斜めのポストを直す→ローラのお喋り
夕飯→愛犬のマーヴィンと夜の散歩→馴染みのバーでビールを1杯だけ飲む
の、毎日同じ繰り返し
家の中の実権は全て妻が握っていて
毎日インテリアを白黒の水玉模様にしていき、料理も独自のセンス
高価なテキスト付きのギターを買ってカントリー歌手になるという
本当のところパターソンとは性格も趣味も合わず
彼は無意識に妻に抑圧されています
家族の順位はあくまで、ローラ > 犬 > パターソン
それでもローラは美人で気立てがいいし、自分のことを愛してくれている
窮屈だけど、ほかの男より幸せだと思ってる
車庫長は金遣いの荒い妻に悩み、愚痴り
バーのマスターは趣味のコレクションに貯金を使い込んでしまい妻に怒鳴られる
役者志望の友人は、元恋人のマリーに未練たっぷり諦めらめきれない
自分と「合わない」女を愛してしまい、不満を抱えながら過ごす日々
そんなパターソンが、唯一解放されるときが詩を書いているとき
毎日の出来事で感じたことを「秘密のノート」に書き綴っているときだけが
素直で正直な気持ちでいれる
金曜日
朝目覚めるとローラがベッドにいない
ローラはキッチンで土曜に市場で売るカップケーキを作っていました
そこからパターソンのルーティンが狂います
バスが故障して立往生、小学生からスマホを借りる
バーではフラれ男の友人が、銃身自殺をすると騒ぎだし
勇敢にもピストルを取りあげたパターソンでしたが、おもちゃの銃でした
土曜日
大量の白黒カップケーキを車に積んでローラは市場に出発
パターソンはマーヴィンと散歩に行き、詩を書きました
ローラはカップケーキが完売して大喜び、お祝いにパターソンを映画に誘い
ふたりは「獣人島」と「凸凹フランケンシュタインの巻」の二本立てを見て
楽しいひとときを過ごします
帰宅すると、パターソンの秘密のノートがマーヴィンに食い荒らされて
粉々になっていました
日曜日
ノートを破かれたショックから立ち直れないパターソンはひとりで散歩に出かけ
(本当はマーヴィンが嫌いだった)ベンチに座って滝を見ていました
そこに日本人の男がやってきて、ウィリアム・C・ウィリアムズの詩集
「パターソン」をバックから取り出しました
パターソンに「パターソンの住人か」「詩人か」と聞きますが
パターソンは「ただのバス運転手だ」と答えます
男は大阪から来た(自分の詩は外国語に翻訳しない主義の)詩人で
ウィリアム・C・ウィリアムズへの思いを語ります
そしてパターソンに1冊の空白のノートをプレゼントして去っていきました
詩に対する考えを共感できる人間に出会えた喜び
家に帰り、空白のノートに新たな詩を書き始めるパターソン
月曜日
朝6時
パターソンにいつものルーティンが戻りました
私たちのいつもの生活は、映画の中のようなスパイになれるわけでもないし
スーパーヒーローになって、悪の政治家を退治できるわけでもない
パターソンと同じように、毎日同じ繰り返し
そんな平凡な人間の人生を、ジャームッシュは韻を踏むポエムに例えて
同じ繰り返しの中にも美しさがある
変化や発見に気づくことができると教えてくれる
退屈でつまらなかったものが輝いて見えてくるのです
いつもの毎日が愛おしくなる
詩心なんて全くないけれど(笑)
思わずノートとペンを持って、詩を書くために散歩に出たくなる
そんな作品でした
【解説】映画.comより
ジム・ジャームッシュが「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」以来4年ぶりに手がけた長編劇映画で、「スター・ウォーズ」シリーズのアダム・ドライバー扮するバス運転手パターソンの何気ない日常を切り取った人間ドラマ。ニュージャージー州パターソン市で暮らすバス運転手のパターソン。朝起きると妻ローラにキスをしてからバスを走らせ、帰宅後には愛犬マービンと散歩へ行ってバーで1杯だけビールを飲む。単調な毎日に見えるが、詩人でもある彼の目にはありふれた日常のすべてが美しく見え、周囲の人々との交流はかけがえのない時間だ。そんな彼が過ごす7日間を、ジャームッシュ監督ならではの絶妙な間と飄々とした語り口で描く。「ミステリー・トレイン」でもジャームッシュ監督と組んだ永瀬正敏が、作品のラストでパターソンと出会う日本人詩人役を演じた