王様と私(1956)


「エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ」

原題も「THEKING AND I

 

王様と私」といえば、まず浮かび上がるのが

ロジャース&ハマースタインの名曲の数々

映画を知らない人でも、挿入歌「シャル・ウィ・ダンス」は

周防正行監督の「Shallwe ダンス?(1996)で日本でも有名になりました

 

原作はアンナ・ハリエット・レオノーウェンズの自伝

「シャム宮廷のイギリス人教師」(1870)をもとに

マーガレット・ランドンが小説化した「アンナとシャム王」(1944)

実話がもとになっていたとは驚きです

 

1862年、未亡人のアンナ(30歳頃)はシャム(現在のタイ)に渡り

当時の国王ラーマ4世(50代後半)に謁見します

 

ラーマ4世は英語に堪能で西洋文化にも通じた知識人で

それまでの鎖国政策を改め、外国との自由貿易を考えており

アンナは王子、王女たちの家庭教師として雇われました

 

アンナはのラーマ4世の宮廷で5年間教師として働き

彼女がシャムを離れた翌年の1868年、国王は亡くなり

チュラロンコン皇太子が15歳で即位します

(現在のタイ国、ワチラーロンコーン国王はラーマ10世にあたります)

 

映画のほうは、ひとことで言えば「異文化交流」(笑)

王様もアンナもどちらも頑固な性格で、主張を譲らない

だけど心の中では、相手の言ってることにも一理あると

次第にわかってきます

 
 
シャム国は男性は半裸で、女性も裸足で暮らす暑い国

子どもたちもお妃たちも雪を知らず、水が凍ることも信じられません

 

アンナはイギリスから世界地図を取り寄せ

地球の北側には寒い国があること

国の偉大さとは、その国の土地の大きさではないことを教えます

 

しかしまだまだ男尊女卑の封建主義社会

王様は最高権力者としての威厳を保ちつつ

子どもたちに科学や、思想や理想と違う現実を、どう学ばせるか

 

どうしたら西洋諸国と和平を結べるか悩みます

 

王様を誰より知る第一王妃は、そのことをアンナに相談します
 

アンナは王様のプライドを尊重しつつ、イギリスとの外交も成功させ

ビルマから王様への貢ぎ物、タプティム(リタ・モレノ)と

その恋人ルンタを駆け落ちさせる手段を思いつくのです
 

この「アンクルトムの小屋」のシャム版ミュージカルが実にお見事
 

エスニックな音楽に踊りに衣装、長く伸ばした爪

アンナの教えにより、王様は奴隷制について考え

ひとりの相手だけを愛する人間もいるのだということを理解します

(王様の蜜から蜜へ・・の見解も説得力あったけど 笑)

 

しかしこれは、イギリスやアメリカの白人たちが求める

自分たちに都合のいいアジア人像の姿

事実、「微笑みの国」とも呼ばれるタイでは

今でも上映禁止映画なのです

 
それでも、デボラ・カーと魅力のおかげで嫌味は感じられませんし

ユル・ブリンナーの王様も実にチャーミング

友情の証にポルカを踊るシーンはやはり素晴らしい

 

史実との違いも指摘されているそうですが

ラストの王様の崩御のシーンも、私はこれでよかったと思います

もし自分がアンナの立場だったら、お妃や子どもたちと

きっとその場に立ち会いたいと思うから

 

この時代に異国の女性がひとりきり、5年もの間暮らせたのは

そこに信頼と友情があったことには間違いないのです

 


【解説とあらすじ】KINENOTEより

回転木馬」に次ぐロジャース=ハマーステインのミュージカルでシネマスコープ55の第2回作品。製作は「あの日あのとき」のチャールズ・ブラケット。マーガレット・ランドンのベスト・セラー伝記“アンナとシャム王”を「重役室」のアーネスト・リーマンが脚色、監督は「ショウほど素敵な商売はない」のウォルター・ラング。戦後公開の「アンナとシャム王」は同一テーマによる劇映画である。主演は「誇りと冒涜」のデボラ・カー、舞台で同役を演じたユル・ブリンナー。他に「スカートをはいた中尉さん」のリタ・モレノ、ロンドン生まれの舞台俳優マーティン・ベンソン、「愛情物語」の子役レックス・トンプソンなど。音楽監修と指揮はアルフレッド・ニューマン、撮影監督はレオン・シャムロイ。バレー振り付けは舞台同様ジェローム・ロビンスが当たる。

1862年、アンナ夫人(デボラ・カー)は息子ルイズ(レックス・トンプソン)を連れてシャム王(ユル・ブリンナー)の王子や王女らの教師としてイギリスからシャムに渡る。バンコックでは首相のクララホーム(マーティン・ベンソン)の出迎え。アンナは王が宿舎提供の約束を忘れていることを知り、直談判しようとする。王はビルマ大公の貢物、美姫タプティム(リタ・モレノ)を受け取ったところ。早々アンナを後宮へ伴い正妃ティアンを始め数多くの王子、王女らを引合わせる。アンナは王の子女の教育についてティアン妃の援助を受けることになり、タプティムは妃達に英語を教えることになる。アンナはタプティムの恋人がビルマから彼女を連れてきた使者ラン・タと知り、何とか心遣いをしてやった。アンナは王子、王女らの教育で“家”という言葉を教え、宿舎の提供を怠った王の耳に入れようとする。次代の王、チュラロンコーン王子たちは、シャムは円い地球上の小国と聞き驚く。王は授業参観に赴くが、タプティムが持つアンナから贈られた小説“アンクル・トムの小屋”に興味を持ち、アンナと奴隷制度について論じた。だが首相は西洋の教育は王の頭を混乱させるとアンナを非難する。ある日、自分が英人から野蛮人と考えられていると知った王は、保護国の資格を失うと考え、近く国情調査にくる英特使のもてなしをアンナに一任。特使ジョン・ヘイ卿の歓迎晩餐会は、ヨーロッパ風の豪華なものだった。客たちをもてなすため、タプティムが演出した“アンクル・トムの小屋”がタイの伝統的な演劇様式で演じられる。その夜、宴が成功裡に終ったことを祝い、王とアンナは二人だけでダンスを踊る。その最中、タプティムは恋人と駈落ちする。捕らえられたタプティムはアンナのとりなしで笞刑を逃れるが、ラン・タは殺害。心を痛めたアンナは故国へ戻ろうとする。だが船が出帆する日、王が死の床にあると知らせが入る。王の枕元で、王子が即位後は奴隷制度を廃止すると宣言。息子の頼もしい姿を見ながら、王はアンナに看取られて静かに息を引き取る。