ありがとう、トニ・エルドマン(2016)



「お前、本当にそれでも人間なのか?」



ヨーロッパ中の映画賞を片っ端から受賞したというドイツ映画

ちょうど「ラ・ラ・ランド」の大ヒット中に劇場予告をやっていたので

タイトルと簡単なあらすじは、何となく記憶にある方も多いと思います


しかし実際に見たら全く笑えないというか

どこが面白いかさえわからない

その理由のひとつが、寒い「オヤジギャグ」


なんと「オヤジギャグ」は世界共通にあるそうで(笑)

韓国語でも「アジェ(おじさん)ギャグ」

英語では「Daddy’sJoke」と言うそうです




ヴィンフリートは小学校の音楽教師で

出っ歯の入れ歯やカツラを被って、意味のないイタズラをするのが大好き

妻には離婚され、ボロボロの家に愛犬と暮らし

ウザいだけのギャグを飛ばしています


そんなある日、愛犬が死んでしまう

寂しくなったヴィンフリートは、ルーマニアの首都ブカレストで働く
38歳の娘イネスに会いにいきます



イネスはドイツ大手の石油採掘会社で働くエリート社員
お父さんが突然やってきたのは超迷惑だけれどしょうがない
パーティに連れていくものの、使えない「オヤジギャグ」にイラつき
ついには仕事の失敗を全てお父さんのせいにしてブチ切れます

そこでお父さん、しょんぼりと家に帰ったかと思いきや
そうではなく(笑)
「トニ・エルドマン」という怪しいビジネスマン変装し
イネスの行く場所にことごとく出没するのです



イネスは会社の同僚と恋愛関係のようだけど
そのことさえ楽しいように思えない
✖✖したケーキを食べるという異様なセックス)

採掘現場についていけば、ドイツ本社の社員と
ルーマニアで働く従業員との生活の格差に驚き
しかもルーマニア人をその場で簡単にクビにするドイツ人



ちょっと昔までアメリカやヨーロッパの大手企業は
アフリカの資源(石油や金やダイヤモンドなど)の採掘権をもち
利益を得ていたそうです
それが国際的な諸事情からアフリカから搾取できなくなり

今度は東ヨーロッパにある資源を採掘するようになったそうです
しかし、利益のほとんどは強い国がすべて持って行ってしまう
ここでも石油はルーマニアのもので、従業員もルーマニア人なのに
儲けはドイツのものなのです
これがヨーロッパの格差



スラム街では裸足の子ども達
採掘場のトイレも水洗ではありません
なのに娘はBMWに乗り、高価な料理にシャンパ
高級クラブで遊び、コカインを吸う

トニ・エルドマンは地元の言葉もしゃべれない
だけど貧しい人たちの中に溶け込み、家にまで
イースターのパーティに参加して、人々のやさしさに触れます

そこでイネスが歌わされる

ホイットニー・ヒューストンの「GreatestLove Of All」は感動的




お父さんにとって娘は、やっぱり可愛い娘
幼い頃にはこんなギャグにも大喜びした時があったのです
大好きなやさしいお父さんだったのです
そして今、そのお父さんが「自分を愛すること」を教えているのです

ヌードパーティはドイツでは普通かどうかわかりませんが(笑)
(でも秘書役の女の子はめちゃくちゃ可愛い)
そこでもお父さんは、着ぐるみでやって来て
娘の気まずい雰囲気を和ませてくれるのです



親にとっての望みは
子どもが幸せになってくれること

だからといって、特に何も変わらず(笑)
ハリウッド映画のような感動的なラストは待っていません
おばあちゃんの葬儀ではひさしぶりに家族や親せきが集まり
やがて父も娘もそれぞれの生活、仕事に戻っていくだけなのです



この「笑えないコメディ」が高く評価されたのは
EUが構成する、社会的、文化的、経済的な裏側と
グローバル化がもたらす問題を、親子の確執に置き換えて
うまく描くことができているからでしょう

そして、そのことをドイツが映画化しているということ



ゴーン氏のことではないですが(笑)

この作品をきっかけに(利益を従業員に配分せずに)
「お金持ちばかりがお金を儲ける仕組み」が正しいのかどうか
私たち日本人も、考えてみていいのではないかと思います



【解説】allcinemaより
アカデミー賞外国語映画賞ノミネートをはじめ2016年度の映画賞レースを席巻した異色のコメディ・ドラマ。仕事一筋のキャリアウーマンが、悪ふざけが好きな父の突然の訪問に当惑し、神出鬼没な父の奇っ怪なイタズラの数々にイライラさせられながらも、いつしか忘れていた心の潤いを取り戻していくさまを個性あふれる筆致で描き出していく。主演はペーター・ジモニシェックとザンドラ・ヒュラー。監督は「恋愛社会学のススメ」のマーレン・アデ。
 ドイツに暮らす悪ふざけが大好きな初老の男性ヴィンフリートは、ルーマニアブカレストコンサルタント会社に勤める娘イネスのもとをサプライズ訪問する。大きな仕事を任され、忙しく働くイネスは、連絡もなくいきなり現われた父を持て余し、ぎくしゃくしたまま数日間をどうにかやり過ごす。ようやく帰国してくれたとホッとしたのも束の間、父は変なカツラを被って“トニ・エルドマン”という別人を名乗って再登場。そして、イネスの行く先々に神出鬼没に現われては、バカバカしい悪ふざけを繰り返して彼女の神経を逆なでしてしまうのだったが…。