ぼくと魔法の言葉たち(2017)




「人生とはつらいことの連続なの
 つらいから次に進むしかないの」


原作は「ディズニー・セラピー自閉症のわが子が教えてくれたこと」

著者で主人公の父親でもあるロン・サスカインドは

ウォール・ストリートジャーナル紙時代にはピューリッツァー賞を受賞

記者を引退してからは、ニューヨーク・タイムズのベストセラーに

4回も選ばれたこともある人気作家だそうです


ディズニー映画ではないけれど、ウォルト・ディズニーが全面協力した本作
映画作品として高い評価をつけられるという出来ではありませんでしたが
多くの人に見てもらいたいハートフルドキュメンタリー



2歳も終わりのある日、突然言葉を失ったオーウェン推定IQ75
医師から「一生話せないかも知れない」自閉症でと診断されてしまいます
いろいろなパターンがあるのでしょうが
自閉症があんなに急にやってくるものだとは驚きました


失意に暮れる家族でしたが、その4年後の6歳の時
オーウェンは「ジューサーボース」という言葉を発します
そしてそれは「リトル・マーメイド」のアースラ(海の魔女)の
「ジャストユアボイス(声をよこせ)」というセリフであることに
父親は気が付きます



そして兄ウォルトの9歳の誕生日に
「ピーターパン」の「大人になると魔法が消える」というセリフを呟きます
オーウェンは喋れないわけではなかったのです
自分の立場を大好きなディズニーアニメのキャラクターに置き換えて理解し
しかも全セリフを暗記していたのです


もちろん家族もオーウェンと一緒に何度も繰り返し
ディズニーアニメを見てセリフを暗記していたから出来た技なのでしょう
イアーゴ(「アラジン」シリーズのジャファーの相棒のパペットを使った
父親との会話シーンは泣ける



そして自閉症の人は間違った導き方をされ
他人との関わり方を知らずにいること
自閉症の人が孤独でいたいというのは間違いだと
オーウェンは自ら語るのです


いじめられたら辛いし、認められたら嬉しいし
恋したらハッピーだし、恋人にフラれたら悲しい
健常者と何ら変わりはない



だけど他人が見たら、異様な行動や言動に見えてしまう
すべての言葉を、そのままストレートに解釈してしまう
(大人の世界では言葉をそのまま解釈してはいけない)


そこで対人行動を習得するための

ソーシャルスキルレーニング」が行われるわけですが




23歳になり、女の子に対して当然性欲も出てくるであろう弟に
正しいキスや、セックスの仕方も教えねばと

お兄ちゃんは考えるのです(笑)


「キスするとき、クチビル以外なに使う?」と問われ
「気持ち」と答えるオーウェン
彼は本当にピュアでピュアでピュア



一方でお兄ちゃんは、そんな心の優しいオーウェン
そして両親が老いて介護が必要になったときを
自分ひとりで看なければならない現実に苦しんでいました


事実、オーウェンのように脳の働きに多様性を持った人たちは

オバマ政権では手厚く扱われてきたそうですが


トランプに変わってからは、富裕層の白人男性が優遇され

ホワイトハウスのサイトからも、地球温暖化公民権LGBTのページを削除

障害者をもつ家族の状況も、厳しさが色濃くなっているのだそうです




あらゆる差別や迫害から、弟を守ってやれるのか

お兄ちゃんの不安はよくわかりますし

そんなお兄ちゃんにも、本当に幸せになって欲しい


自閉症というフィルターは、これから先も無くなることはないでしょう
それでも世間の理解が少しあれば、自立して暮らせるでしょうし
それぞれの能力を活かして社会貢献できる人も多いと思います



そして、ディズニーアニメから学ぶ

あらゆる人との時代や空間を超えて共有できる世界

改めてじっくり、ディズニーアニメを見たくなりました




【作品情報】MovieWalkerより

自閉症により言葉を失った少年が、ディズニーアニメを通じて徐々に会話を取り戻していく姿を追ったドキュメンタリー。2歳の時に言葉が出なくなったオーウェン。数年後、父ロンは彼が口にする意味不明の言葉が「リトル・マーメイド」のセリフであることに気付く。監督は『MusicbyPrudence(2010)』でアカデミー賞短編ドキュメンタリー賞を受賞したロジャー・ロス・ウィリアムズ。本作でも第89回(2017年)アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた。劇中にはディズニー社から異例の使用許諾を受け、「白雪姫」や「ダンボ」「美女と野獣」「ヘラクレス」などディズニーアニメの名作たちが数多く登場。