誰よりも狙われた男(2013)



ジョン・ル・カレ原作のポリティカル(政治的)スリラー

ル・カレ本人も製作総指揮に加わった意欲作


裏切りのサーカス(2011)でもそうでしたが

静かな熱量を持ったシリアスドラマ

今のままではテロはいつまでたっても終わらない

主張の強い作品した


しかし、格闘なし、カー・アクション無し、死人無し

銃撃も、爆破も、大規模ガサ入れもない諜報合戦は

個人的な好みに別れると思います




法的な理由表向きに存在しないドイツの諜報機関率いる

バッハマン(フィリップ・シーモア・ホフマン)
彼は、ムスリムの慈善活動家で穏健派の大学教授であるアブドゥラ博士が

テロ組織へ資金を流しているのではないかと情報を集めていました


そんな折、ドイツの空港でイスラム過激派の容疑で指名手配されている

イッサ・カルポフ密入国したという連絡がはいります

カルポフは親切なトルコ人母子に、身柄を匿ってもらっていました




連邦憲法擁護庁(OPC)ハンブルク支局長のモア(ライナー・ボック)は

直ぐにでもカルポフを逮捕すべきだと言い

CIAからはマーサロビン・ライトがやって来て会議となります

バッハマンはマーサの助言でカルポフを泳がすことを認めてもらえますが

72時間以内に結果を出すという条件付きでした


カルポフはチェチェンとロシアのハーフで

銀行家のブルーウィレム・デフォーに会うため手紙を持っていました

それはロシア人の父親が、かってブルーの父親に預けていた

少なくとも1000万ユーロを引き出すというもの




そんなカルポフを保護しようと移民をサポートする人権派弁護士

アナベル(レイチェル・マクアダムス)が立ち上がります


バッハマンは、ブルーアナベルの後をつけ

ルーして協力を依頼します
アナベルは、兄のマンションにカルポフを隠しますが
バッハマンのチームに拉致され、カルポフを助けるためなのだと

カルポフの保護を条件にアナベルを仲間に引き入れます




カルポフは、テロでも何でもありませんでした

悪事で儲けた父の金も欲しくない、ただ普通に生きたいと話します
アナベルは、良いことに使うべきだとカルポフを納得し

カルポフはドイツ国籍のパスポートをもらいます


そしてバッハマンは、ブルーをアブドゥラ博士の元に向かわせ

1000万ユーロを慈善事業に寄付したい持ちかけるのです
カルポフの金を利用して、博士とテロの繋がりを掴も
うとするバッハマン

それには平和を目指したいという望みがありました




博士は、資金提供を受けることを承諾し
案の定、資金の送金先を一つだけテロ組織と思われる団体に変更します

書類にサインを終えた博士はブルーの呼んだタクシーに乗り込み

その運転手はバッハマンでした


すべてはうまくいくはず

資金流出先のテロも撲滅するはずでした




しかしバッハマンの運転するタクシーはモアの部下に突っ込まれ

博士は連行、カルポフも逮捕されてしまいます


この先、博士とカルポフを待っているのは激しい拷問なのでしょう

しかもカルポフは全くの無実だというのに


表情ひとつ変えずに車に乗り込むマーサ

泳がせていた獲物は捉えることができず

泳がされていたのは自分だと気づくバッハマン




そしてテロに対する根本的な解決を望みながら

誰一人報われない悲しさ


実際CIAは、9.11後は国内外で無実のイスラム教徒を

多数逮捕したり、拷問したということですが

そのことがテロ撲滅に繋がったのかといえば、そうではない

そのことへの痛烈な批判も感じられました


やはり主人公を演じたフィリップ・シーモア・ホフマンの演技が

高く評価されるところですが

(レイチェル・マクアダムスもすごくいい)





個人的にスパイものは雰囲気重視派なので(笑)

主演も含めヨーロッパ主導で制作したほうが

もっと良くなったような気がします


とはいえ硬派なスパイものが好きな方には絶対おすすめ

ラストには主人公同様、叫んでしまうこと間違いなしです




【解説】allcinemaより

ジョン・ル・カレの同名スパイ小説を「コントロール」「ラスト・ターゲット」のアントン・コルベイン監督で映画化。ドイツのハンブルク密入国した国際指名手配中のチェチェン人青年を巡って、ドイツの諜報員はじめ様々な組織や個人の思惑が激しく交錯していくさまを緊張感あふれる筆致で綴る。主演は20142月に本作の一般公開を迎えることなく急逝した「カポーティ」「ザ・マスター」のフィリップ・シーモア・ホフマン、共演にレイチェル・マクアダムスウィレム・デフォーロビン・ライトダニエル・ブリュール
 ドイツの港湾都市ハンブルク。同国の諜報機関によって一人のチェチェン人青年イッサ・カルポフの密入国が確認される。イスラム過激派として国際指名手配されている人物だった。テロ対策チームを率いるギュンター・バッハマンは、彼を泳がせてさらなる大物を狙う。一方、親切なトルコ人親子に匿われ政治亡命を希望するイッサを、人権団体の若手女性弁護士アナベル・リヒターが親身になってサポートしていく。イッサは、そのアナベルを介して銀行家のトミー・ブルーと接触を図る。CIAも介入してくる中、アナベルとトミーの協力を強引に取り付けるや、ある計画へと突き進むバッハマンだったが…。