傷だらけの栄光(1956)




「ブルックリンまで送るよ」

「大勢乗ってるから大丈夫よ」
「次でみんな降りるかもしれないから」


1940年代のイタリア系アメリカ人のボクサー

ロッキー・グラジアーノの自伝原作
スタローンの「ロッキー」(1976)大好きな作品

でも1作でビシッと完結させているこちらもまた素晴らしい
ボクシング映画に、ハズレがないというのは不思議ですね

ポール・ニューマン圧巻のデビュー作
マックイーンもデビュー作としても有名です
端役で一瞬の登場ですが、さすがの存在感、すぐわかります



ニューヨーク、イーストサイド
少年時代から元ボクサーの父親から虐待され

喧嘩しか取り柄のない不良になったロッキー(ポール・ニューマン
盗み、ケンカ、少年院からの脱走、ついに刑務所

出所後、軍隊に入隊するものの上官を殴って脱走

何度もチャンスがあったのはずなのに
飲んだくれの父親と折りがあわず、またやくざな道に戻ってしまう
でも母親が、そんな父親にしたのは若いころ
「ボクシングをやめなければ結婚しない」と
やる気をなくしたのは自分の責任だと教えてくれるのです



逃亡中の資金稼ぎのためのボクシングで連勝を重ねますが
軍法会議により1年間の重労働を課せられることになったロッキー

そこでボクシング好きの少佐に目をつけられ
本格的なボクシングのトレーニングを積むこととなり
プロボクサーとしてキャリアも重ねていきます

そんなとき現れた妹の友人ノーマ(P・アンジェリ)
悪さの限りをつくし、相手が男なら誰にも負けたことのないロッキー
なのに女性の扱いは全くわからないのです



デートではいつもボロボロ
彼女が練習見に来た時には、怖がらせないよう
相方に頼んでのヘッポコボクシングが微笑ましい

トレーナーに別れるか、結婚するかの決断を迫られ
決意できないロッキーにノーマはいいます
「ロッキー、結婚をやめたいのならこう言うだけでいいのよ、愛してないって」
(役所に婚姻届けを出しに)「行こう」

ケンカの後、結婚する時、初めて試合に負けた日の
和解のキスシーンはいいですね
結婚したら、やはり女性からのリードが大事です(笑)

どんどん強くなるロッキー
試合後の顔を見るたびに泣き出す愛娘を「パパよ」となだめるノーマ
しかし大きくなると、怪我をしたロッキーに驚くノーマに
娘のほうが「見て、パパよ」と言うのです
洒落た演出はとにかくニクい

そんな幸せの絶頂期、昔のムショ仲間が現れます
新聞社に過去をバラされたくなければ、八百長試合をしろと
悩んだロッキーは試合を放棄しますが
ロッキーの前科は大々的に報じられ、世間は彼を軽蔑します



落ち込む彼を救おうと、唯一ロッキーが敗れた
世界チャンピオンとの再戦にこぎつけたトレーナー
だけど腐ってしまったロッキーはニューヨークに逃げ帰り
常連のカフェに行きムショ仲間に連絡しようとするのです

その時、このカフェの主人を演じたサル・ミネオのセリフが感動的
昔の仲間、ひとりひとりがどうなったかを
自分のしたことには代償があるんだと教えます
馬鹿でもわかるように丁寧に丁寧に
そして押しつけがましくなく
過去の罪と向き合い償う大切さを繰り返すのです

このセリフ、中学校の教科書に載せたほうがいいですよ
こういう名作をよく見ておいたほうがいい



主人の言葉が届いたのでしょう
ロッキーはチャンプとの試合に挑む決意をします

そこで名曲「ロッキーのテーマ」は流れませんが
(私の心のなかでは流れたよ 笑)

試合のシーンもエキサイティングで時代を考えればよく撮れていたと思います
ロッキー・グラジアノの歩き方から癖まで演じて見せたというポール・ニューマン
かなりトレーニングしたのではないでしょうか
ベジタリアンなので腕の細さは許してあげよう)



「いずれ俺のパンチは弱くなる」
「だが、王者になった事実は奪えない」
そして、ノーマのお腹には二人目のベビちゃんが
宿っていたというおまけつき

とにかく、心に残る名言が多くて
見終わったあとはハッピーになれる
隠れた名作のひとつ

ミュージカルからSF映画、ホラーまでこなす
ロバート・ワイズ監督の力量に拍手を贈りたいと思います



【解説】allcinemaより
ニューヨークの下町に産まれ育ったロッキー・グラジアノが、不良時代(映画デビューのマックィーンも顔を見せる)、軍隊時代を経てプロボクサーとなり、やがて世界チャンピオンとなるまでを描く。ボクシングを始めるまでの前半部のテンポの良さもさることながら、後半部でのダイナミックな拳闘シーンは圧倒的で、R・ワイズの演出はロッキーの半生をスピーディに、しかし丹念に紡いでいる。映画に出始めてまだ間もないP・ニューマンに抜群の存在感があり、これが“実質上”のデビュー作(「銀の盃」の事は忘れて)と考えてよいだろう。伝記映画などという言葉だけでは括りきれない傑作。アカデミー撮影・美術賞受賞。ペリー・コモの唄う同名主題歌も良い