チャイナタウン(1974)

 
 
 
「怠け者の街だ」
「忘れろ、チャイナタウンだ」
 
aslittle as possible
Forgetit Jake!! It's chinatown!!
 
 
 
カサブランカ(1942)ではHere'slooking at you, kid.”
「君の瞳に乾杯」
ある愛の詩(1970)では
Lovemeans never having to say you're sorry”
愛とは決して後悔しないことという名訳で有名な高瀬鎮夫氏
最近ではゴジラの英訳をローマ字のGOJIRAではなく
欧米人に発音しやすいGODZILLAと翻訳したことにも
センスのよさが伺えます
 
しかしこの作品ではラストでの”aslittle as possible”
=「怠け者の街」という訳は
おおいに物議を醸しだしたそうです
BSプレミアムでは「なるべく静観」と翻訳(長澤達也訳)されていました
 
その理由は、なぜ「チャイナタウン」なのか、ということでしょう

 

 
主人公の凄腕私立探偵ジェイクギテス(ニコルソン)
かってはチャイナタウン担当の警官でした
出だしはチャンドラー風
ミステリーファンのハートを見事にキャッチします
偽の依頼人がやってくるのは「マルタの鷹」(1941)
豪邸での金持ちの老人とのやりとりは「三つ数えろ(1946)
 
ある日水道局長である夫モーレイの浮気調査をしてほしいと
夫人がやってきます
早速モーレイの尾行をはじめたジェイクは
彼が川や新ダム建設に異常な関心を持っていることに気が付きます
ついに若い娘とキスしている姿を撮影
そのネタは新聞に掲載されてしまいます
 
すぐにモーレイ夫人、イブリン(フェイ・ダナウェイ)と名のる女性が
名誉棄損で訴えるべく事務所に乗り込んできました
それは最初に浮気調査の依頼にやってきた女性とは別人でした
 
 
まず、このときのニコルソンが大うけするジョークが
チンプンカンプンなのですが(笑)
 
夫婦生活に倦怠気味の男が、妻の誘いに困っていると友人に相談すると
友人が「中国人のようにやれ」と忠告するというもの
中国人の男は、女と前戯をしたかと思えば
すぐにやめて「論語」などを読み始める
それからまた女に乗っかったかと思えば
外に出て月の下で瞑想などにふける
そして再びもどってきてよろしくやるんだ、と
 
男は家に帰り、忠告どおり妻にします
まず、妻にちょっと前戯して「ライフ誌」を読み
再び妻の元へ行ったかと思えばタバコを一服
再開するかと思えば外に月を見に行く
しびれを切らした妻は叫びます
「何やってんのよ!それじゃ中国男と同じよ!」


実は妻の方が、一足先に中国人と浮気をしていたというネタバレ

 
 

その数日後、モーレイが溺死体となって発見されます
疑問を持ったジェイクは、深夜、立入禁止の貯水池に忍び込みますが
二人組の男に捕まりナイフで鼻を切られてしまうのです
 
これは昔見た時にはいちばん強烈なシーンでした
なんとこの鼻を切る小男がロマン・ポランスキー本人
意外と出たがりだったのですね(笑)
 
 
ジェイクはモーレイが死ぬ前に言い争っていた町の実力者
ノア・クロス(ジョン・ヒューストン)に会いに行くことにします
クロスはモーレイが逢っていた娘を探せとジェイクに忠告します
そしてクロスはイブリンの父親でした
 
事件は義父と娘婿との対立でした
クロスは他人名義でロス市郊外の砂漠地帯を買い占めていました
新ダムを建設し、砂漠へ水を流せば莫大な利益が見込めるにもかかわらず
そのことにモーレイが賛成しなかったために殺したのです
 
さらにモーレイと逢引きしていた若い娘は
イブリンの実の娘キャサリンでした
イブリンがまだ15歳のとき、父親のクロスに犯され産んだ子だったのです
 
夫を殺され、娘までクロスに奪われるかも知れない
母娘はチャイナタウンに身を隠し、メキシコに逃げようとしますが
クロスに見つかってしまい、イブリンの運転する車は
警官により発砲されてしまいます
 
もしマーロウなら、命をかけて愛する女性を守り、逃すでしょう
そして遠く離れても彼女の幸福を願うはずです
 
だけどこれがポランスキー
ラスト10分の演出はポランスキーとニコルソンがふたりで
話し合い考えたそうです
 
イブリンが殺される様をむざむざと傍観し
幼い少女がさらわれレイプされるとわかっていても助けない
 
 
殺人や事件が起きてもだれも見向きもしない
死体さえ見つからない
アメリカの中にある無法地帯で「外国」
白人の警察の知ったことではない
それが30年代のチャイナタウン
 
aslittle as possible” 
 
 
探偵の好奇心と意地によって暴かれた女性の悲劇
そこに「水」の問題を取り入れ社会派サスペンスかと思わせつつ
「水」のほうの問題は全く解決されず、犯人も逮捕されませんでしたが()
 
ハード・ボイルドというよりは、アメリカン・ニューシネマ風の
絶望的で後味の悪い作品が好きな人ならきっとハマるラストでしょう
 
傑作だと思います
「ゴッドファザーPARTⅡ」には、かなわないですけれど
 
 


 
【解説】allcinemaより

1937年のロスアンゼルス。私立探偵ジェイク・ギテスはモーレイ夫人からダム建設技師である夫の浮気調査を依頼される。だが、盗み取りした写真がなぜか新聞に掲載され、それを見たもうひとりのモーレイ夫人が現れる。実は彼女こそ本物で、名をイヴリンという。ジェイクはこれがダム建設をめぐる疑惑と関係ありと睨んで調査を開始するが、モーレイは溺死体で発見され、ジェイクもまた謎の男たちに暴行を受ける。探偵と依頼人という関係を越えはじめたイヴリンとジェイクだったが、なおも謎は深まるばかりだった……。
 R・タウンのオリジナル脚本(アカデミー受賞)をR・ポランスキーノスタルジア・ムードいっぱいに描き出した傑作ハードボイルド・ミステリ。ニコルソン、ダナウェイも雰囲気充分で申し分なく、事件の核心となる人物を重厚に演じているのは、ポランスキーがお手本にしたという「マルタの鷹」の監督でもあるJ・ヒューストン。J・ゴールドスミスのメイン・タイトルも哀感に溢れている。90年に続編「黄昏のチャイナタウン」がニコルソン監督・主演で作られた