二十四時間の情事(1959)





アラン・レネ監督、脚本作家のマルグリット・デュラス
原題は「HIROSHIMAMON AMOUR(ヒロシマ・モナムール)


事の始まりは、レネ監督を支えてきたアルゴス・フィルムが
広島を舞台にした反戦映画を撮りたかった時に
大映日仏合作映画を作りたいと聞きつけ実現できたそうです


終戦から15年を経た86日の広島

映画は原爆灰に覆われた抱き合う男と女の
むきだしの肩と腕の映像から始まります
「君はヒロシマで何も見ていない」と語る男と
「私はヒロシマですべて見た」と語る女
「見たわ、博物館だって、病院だって、映画だって
「様々な展示物や、写真や、その他すべてのものを」
「君は何も見ていない」
「いいえ、私は・・」

そして、破壊された街
大量の死体
原爆の影響で髪の毛が抜け落ちていく女性
皮膚が焼け爛れた子供の無残な姿
どんな戦争の映像よりも惨い
ドキュメンタリーシーンが延々と続きます

被爆直後の惨状を伝える資料映像は
関川秀雄監督の「ひろしま」(1953)






不可解に思われる会話を重ねながら抱き合うふたり
それは偶然出会った行きずりの恋でした

女は(エマニュエル・リヴァ)フランスから
映画撮影のためにやってきた女優
男(岡田英次)は建築家で
原爆投下当時は戦地にいて、家族だけが被爆したと言います
そして朝になり、ふたりは別れお互いの仕事に向かいます


だけど男は翌日フランスに帰るという彼女が忘れられず
撮影現場まで会いにやってきます
旅館に、男の家に行き、また情事を重ねるふたり
男は妻帯者でした
女もフランスに夫がいました
だけど「広島に残ってくれ」と懇願する男


全編が叙情詩のようなセリフばかりで、難解ですが
このような旅先などでの1日限りの恋という
シチュレーションには憧れます(笑)

二人は原爆記念日の日の広島の町を散歩しました
花笠踊りの行列、「核実験反対!」のデモをする学生
原爆投下から15年を経た広島はすっかり復興しています





女はフランスのヌヴェールという町で生まれたといいました
”ヌヴェール”という響きが気に入った男は
何度も”ヌヴェール”という言葉を繰り返します
そのうち彼女は戦時中のことを語り出しました

ドイツ軍に戦略された、ヌヴェールの町で
18歳だった彼女はナチス・ドイツの兵に本気で恋をしてしまい
逢引きを重ね、駆け落ちの約束をします

しかしドイツ兵は彼女の目の前で射殺され
戦争終結とともにフランスが解放されると
その罪の見せしめに、同胞の女性たちによって丸刈りにされ
心神喪失状態に陥り、地下に幽閉されてしまいます
そして20歳になりパリ行きを決心することになります

「パリに来て二日後、広島のニュースが届いたの」
「嬉しかった」





戦争が終わったことが嬉しかったのか
それとも敵国に原爆が投下されたことなのか
このような発言には日本人との温度差を感じますが
フランス人の、その時の正直な気持ちだったのでしょう


敵国だった日本に来ればもう一度あのドイツ兵(の幻)に会える
ドイツ兵の目の前で、日本人の男と愛し合おう
そうすればあの人は私の心の中から消えてくれるはず
彼女の言葉のすべては、男と、そしてドイツ兵の
ふたりの男に同時に語られています

夜の街をほっつき歩き、「どーむ」というバーに行く

ここは女がドイツ兵とはじめて抱き合った
ロアール川沿いにある「小屋」と二重写しになっています



「ここに残るわ 毎晩あなたと会うわ ここで
 私は残る、ここに」

「これからあなたの名前をヒロシマと呼ぶわ」
「僕も君の名前をヌヴェール と呼ぶよ」

このラストで、この作品の伝えたいメッセージが
やっと私にも理解できました(遅い)






この男女は「ヒロシマ」と「ヌヴェール」の擬人化なのです
不倫なのはお互いの母国が違い、かって敵国だったから

男が女を引き留めるのは「ヒロシマを知っている」という彼女に
「たった1日で広島を理解したと思わないでほしい
 もっと広島を知って欲しい」ということ

一方の、女の過去の恋愛の話は
時間による「忘却」の怖さを伝えているのです
ヒロシマ」の悲劇を、戦争を、決して忘れてはいけない
「忘却」こそが恐ろしいことなのだと

それをたった1日の儚い恋にして
叙情詩と、味わいのある映像で伝えるなんて
なんという素晴らしいセンス
フランス映画にしかできません
レネ監督の最高傑作と言われるのも納得


これは何年かごとに、繰り返し見るべき反戦映画
私もまた、最初から見たくなりました

お気に入りにさせていただきます






【解説】allcinemaより
 独軍の占領下にあったフランスの田舎で、敵兵と密通して断罪された過去を持つ女優が、ロケのために広島を訪れ、日本人の建築家と一日限りの情事に耽ける。そして知る、広島の悲劇。時あたかも8月6日。原水禁運動を背景に、二人の孤独な会話が続く……。焦土から奇跡の復興を遂げたその町は、死の影を決して忘れることはない。夜を縫うS・ヴィエルニのカメラの怜悧なこと。意識の流れ的手法で、大戦の中での個人の苦渋を余すことなく語ったM・デュラスの脚本を、完璧に映像化したレネの最高傑作だろう。