スリー・ビルボード(2017)

 
 
 
ビルボードとはアメリカの道路沿いに
自動車で通りすぎる人のために立っている広告看板のこと
 
 
ある日ミズーリ州の田舎町街道沿いに
3枚の大きな看板が立てられます

そこに書いてあるのは

RAPEDO WHILE DYING 「レイプされて死亡」
AND STILL NOARRES 「犯人逮捕はまだ?」
NOW COME CHIFE WILLOUSNBY?
「なぜ?ウィロビー署長」
という言葉でした
 
それを立てたのはミルドレッド(フランシス・マクドーマンド
という7か月ほど前に娘をレイプされ、焼き殺された女性
彼女の想いは「”憎む”では足りない、“怨む”」
 
トロールしていた若い警官
ディクソン(サム・ロックウェル
すぐにウィロビー警察署長(ウディ・ハレルソン報告します
看板は話題になりテレビ中継までされ
ウィロビー署長も再捜査に乗り出そうとしますが
彼は余命わずかの末期のすい臓がんでした

 

 



アカデミー賞でも有力候補とされているクライム・サスペンス
 
感触はポールハギス監督クラッシュ(2004)ににています
白人警察官による理不尽な差別、暴力
銃社会、抑えきれない怒り
それに田舎町のこのうえない閉鎖感と
少女のレイプ殺人事件が加わるのです
 
非常に暴力的で怖い作風でありながら
ブラックコメディーでもあります
これは、北野武監督の映画から学んだアイディアだそうです
 
 
 
 
そしてこの作品を見るにあたっては
ミズーリの風土を知っておいたほうがいいということ
 
ここは復讐が支配している地域で
現代であるにもかかわらず、身内の人間が何かされたり
住民たちの掟を破られると
銃を持っていきなり殺しに行くような場所なのだそうです
 
みんな信心深く地元の人たちのつながりは密接
そんな普段はいい人なのにもかかわらず、あまりにも保守的なため
突然差別が始まったり、暴力に走る世界なのです
 
なにもしていない黒人に、いきなり白人警官が暴行したり
射殺するのもミズーリが発端だということ
気に食わない人間を銃で脅し、警棒でボコボコに殴る
ディクソンのような警察官が本当にいるのです
 
そのうえ恐ろしく頭が悪くて世間知らず
新しい署長に容疑者が
「(外国の)どこに行っていたかは国家機密だから言えない」
「ただ、砂がいっぱいあるところだ、わかるだろ?」
イラクに決まっていると私たちでも想像つきますが(笑)
ディクソンはアメリカ人であるにもかかわらず「わからない」
 
 
 
 
だけれど、ディクソンがいつもイヤフォンで聴いているのは
アバの「Chiquitita」(チキチータ
クズ野郎の中にも、実は隠れたやさしさが潜んでいたのです
 
そして私たちが最初に同情を寄せる、娘を殺されたミルドレッド
実は娘が死んだ原因のひとつは彼女にもあるということを知ります
猟奇的で、ビルボードを焼かれた逆恨みに
警察署に火炎瓶を投げ込む
逮捕されないように助けてくれた友人に感謝をすることもない
 
そんなどうしようもないミルドレッドやディクソンを
唯一気にかけ、助けようとしたウィロビー署長
良き夫で、父親で、町の全員から尊敬される善人
でも彼も決して強い人間ではなく
病の苦しみから逃れるように自殺してしまいます
 

 



看板の裏側は誰も気にかけない
でも看板にも、人間にも、裏側がちゃんと存在するのです
 
 
心の温まるエピソードは、火傷で入院したディクソンを
彼に大怪我をさせられたのにも関わらず
心配してオレンジジュースを差し出す
 
小さな町で、誰もが幼い頃から知っている仲
そこで暮らしていくには赦しあっていくしかないのです
 
このささやかな優しさで善意を取り戻すディクソン
ラストでの「あんまり」という言葉が良いです
 
 
細部に至るまで丁寧な作りで、音楽もいい
アカデミー賞では脚本賞は取るのではないかと思います
そして、たとえほかの作品を見るまえでも
サム・ロックウェルが助演賞にふさわしいのがわかります
(個人的にはそろそろウィレム・デフォーにあげたいけれど 笑)
 

 

「見てなかったと言っても、仲間なら罪に問われる」
これがアメリカの「今」
 
 

 
 


 
【解説】allcinemaより

「ファーゴ」のフランシス・マクドーマンドが娘を殺された母親の怒りと悲しみを体現して絶賛された衝撃のサスペンス・ドラマ。アメリカの田舎町を舞台に、主人公がいつまでも犯人を捕まえられない警察に怒りの看板広告を掲げたことをきっかけに、町の住人それぞれが抱える怒りや葛藤が剥き出しになっていくさまを、ダークなユーモアを織り交ぜつつ、予測不能のストーリー展開でスリリングに描き出す。共演はウディ・ハレルソンサム・ロックウェル。監督は「ヒットマンズ・レクイエム」「セブン・サイコパス」のマーティン・マクドナー
 アメリカ、ミズーリ州の田舎町エビング。ある日、道路脇に立つ3枚の立て看板に、地元警察への辛辣な抗議メッセージが出現する。それは、娘を殺されたミルドレッド・ヘイズが、7ヵ月たっても一向に進展しない捜査に業を煮やして掲げたものだった。名指しされた署長のウィロビーは困惑しながらも冷静に対処する一方、部下のディクソン巡査はミルドレッドへの怒りを露わにする。さらに署長を敬愛する町の人々も広告に憤慨し、掲載を取り止めるようミルドレッドを説得するのだったが…。