「ずいぶん毛が伸びたのね」
原題は
「UNCLEBOONMEE WHO CAN RECALL HIS PAST LIVES」
”過去の人生を振り返ることが出来るブンミおじさん”
という意味だそうです
タイトルからは評価の高いアジア映画によくある
「貧しい村で素朴に暮らす人々」系な作品化と思いましたが
実にシュールで、結構な前衛映画でした
どのくらいシュールかといえば
諸星大二郎さんの漫画くらい ( わかりやすい)
それを宮崎駿さんがアニメにしたものを
さらに実写版にしたらこうなります
舞台はタイのある農村
農場主であるブンミおじさんのもとに、義妹ジェンが訪ねてきます
ブンミおじさんは人工透析をしていて、余命わずかなようです
ある晩、お手伝いの少年トンと3人で夕食を食べていると
ブンミおじさんの死んだ妻であり
ジェンの姉であるフエンが浮かび上がってきます
そしてまもなくして、赤い目の猿がやってきます
猿はブンミおじさんの行方不明の息子だと言います
自分は森で「精霊」になったのだと打ち明けました
最初はちょっと驚くけれど、再会を喜ぶ家族
ブンミおじさんに死期が迫っていることもあるのでしょうが
「幽霊」や「精霊」を自然に受け入れるのは
タイ人の特徴なのでしょうか
そして途中で挿入される王女とナマズのシーン
王女は年老いてかつての美貌はなく、自信を失い嘆いていました
ナマズもきっと「精霊」で、王女に女性としての悦びを
再び与えたということなのでしょう
再びブンミおじさんたちに話が戻り
ブンミおじさんは森へと入っていく
ブンミおじさんは余生を死んだ妻と過ごし
幸せに最期を迎えたような気がします
そしてブンミおじさんの葬式
それはジェンと娘が暮らす都会で行われたようです
(ジェンの娘は王女の若い頃の顔を持っています)
なぜかトンは僧侶の修行をしているようですが
最後にはその彼の幽体離脱で終わります
私はタイのことをよく知りませんでしたが
この映画を理解するためには、タイの
王室、軍部、華僑、貧困農民、新興エリート層が
入り乱れ、対立することで引き起こされている政治情勢
北部少数民族との間の経済格差
等の知識が必要だそうです
若者に縄をかけられて捕えられたサルの精霊は
発展によって失われてしまった、タイ国民の伝統的な価値観
輪廻転生をモチーフに、この国の現状と危機感を
スピリチュアルなファンタジーにしてしまうという
さすがコアなファンが多いだけあって
手腕はたいしたものだと思います
この生死感は見る人によって正直好みは別れるものの
慣れ親しんだ価値観とは、全く違う思想を見せつけられるという
そんな珍しさや面白さは味わうことができました
【解説】allcinemaより
2010年のカンヌ国際映画祭で審査委員長のティム・バートンに絶賛され、みごと最高賞のパルム・ドールに輝いたタイ発の異色のファンタジー・ドラマ。死期の迫る主人公が、緑深い森の中で体験する不思議な物語を幻想的な映像で綴る。監督はこれまでも様々な映画祭で活躍してきたタイの俊英アピチャッポン・ウィーラセタクン。タイ東北部のとある村。腎臓の病気で余命わずかの男性ブンミ。ある夜、食卓に彼の亡くなった妻フエイが現われる。さらに、行方の分からなくなっていた息子も不思議な生き物の姿となって戻ってくる。やがてブンミはフエイに導かれ、深い森の奥へと足を踏み入れるのだが…