ブロークバック・マウンテン(2005)




実際にはゲイではないでしょうが
台詞もないし、それらしい仕草をするわけでもないのに
出会った瞬間からお互い意識している様子が感じられて
凄い演技力だなと感心しました


青と緑と白を基調とした美しい映像
大自然の懐に抱かれたような描写が素晴らしい


羊の放牧の管理をする季節労働者として雇われた
イニス(ヒース)とジャック(ジェイク)
過酷な労働をお互い助け合ううち
ふたりは肉体関係を結んでしまいます





先日鑑賞した「アメリカン・ヒストリーX」のとき
アメリカの白人至上主義や人種差別について少し調べたのですけれど
黒人、アジア人、ヒスパニックへの差別はもちろんですが
同性愛者の権利にも強い反対の立場だと知りました


この作品は単に20数年に渡る
男と男の純愛を語ったゲイ映画というだけではなく

アメリカには同性愛者に対しても「リンチ」の歴史があり
ゲイであることを隠さなければ生きていけなかったという
普遍的な習慣を描き、知ってもらいたかったのではないかと思います

作中でもイニスが子ども時代に父親によって
惨殺されたゲイの死体を見せられたことが語られています
ゲイは人間でもないし、男でもない
「カウボーイ=男であること」と幼い頃から教え込まれるのです


ブロークバック・マウンテンでの仕事を終えたふたりは
それぞれの生活に戻り、女性と結婚し、子どもも儲けます

そして別れて4年後の再会
お互い抱擁し、そしてすぐに熱い口づけを交わしてしまう
その姿を偶然にもイニスの奥さんは見てしまうのです
それから年に数度、釣りに行くと言っては密会するふたり


そのうちイニスは我慢しきれなくなった奥さんと離婚してしまい
養育費のため働き、ジャックと逢う時間も減っていきます
そしてジャックが(リンチによってだろう)死んだと知らされます


死を悼みにジャックの生家を訪れるイニス
そしてジャックのクローゼットに
ふたりがブロークバック・マウンテンで喧嘩した時の
血の付いたお互いのシャツが二枚重ねて架けてあったのです

そのシャツに思わず顔を埋めてしまうイニス
そして断ち切れない愛に涙してしまうのです
永遠に縛られたままのふたり





やがて、娘から結婚の報告を聞くイニス
彼のクローゼットには、重ねられたままのシャツがかかっていました


10代から40代の同性愛者(潜在的LGBTを含まない)の数は
4~6%程度ではないかということです
この数字を見ると愛に性別はないのだなと考えさせられますし
差別に苦しんだ過去を持つ人たちも相当多いでしょう

私にとっては、今年度アカデミー賞を獲得した「ムーンライト」より
遥かにゲイや差別、アメリカの歴史について考えさせられましたし
感情移入もできました





結ばれない愛は、やはり美しい



【解説】allcinemaより
グリーン・デスティニー」「ハルク」のアン・リー監督がワイオミング州ブロークバック・マウンテン雄大な風景をバックに綴る、2人のカウボーイの20年にわたる秘められた禁断の愛の物語。原作はアニー・プルーの同名短編。主演は「ブラザーズ・グリム」のヒース・レジャーと「デイ・アフター・トゥモロー」のジェイク・ギレンホール。男同士の純愛というセンシティブなテーマにもかかわらず2005年度の映画賞レースを席巻した感動作。
 1963年、ワイオミング。ブロークバック・マウンテンの農牧場に季節労働者として雇われ、運命の出逢いを果たした2人の青年、イニスとジャック。彼らは山でキャンプをしながら羊の放牧の管理を任される。寡黙なイニスと天衣無縫なジャック。対照的な2人は大自然の中で一緒の時間を過ごすうちに深い友情を築いていく。そしていつしか2人の感情は、彼ら自身気づかぬうちに、友情を超えたものへと変わっていくのだったが…。