赤ひげ(1965)


「僕は、この映画を作るについて特別な覚悟をきめた
 つまり観客が見たいと思ってるものを作ろう
 どえらい映画なんでどうしても見ずにはいられないと言われるものをやろうと
 そうするために、皆、いつにもましてうんと働きました」


黒澤監督、最後のモノクロ映画
モノクロ映画を熟知した経験豊富なスタッフを総動員した傑作
山本周五郎氏からは「原作よりもいい」と称えられたそうです


「赤ひげ」(三船)は、小石川療養所を仕切るいわば院長先生
そこに長崎で蘭学を学んできた新米医師(インターンのようなものか)
保本(加山雄三)という青年がやってきます
療養所が気に入らず、なんとかここを出ていこうとする保本
前半は彼が主人公として物語を引っ張っていきます

江戸時代の町医者とは、内科から外科から小児科
どんな病気でも治療しなければならない存在
そのなかでもこの作品で特に描こうとしているのは「心の病」

仕事もろくにしない保本は、監禁されている狂女に興味を持ちます
黒澤監督は女性を奇麗に撮れないなあと思っていましたが
この香川京子さんはすごくいい

妖艶な雰囲気を身体から発して、男を誘惑する
そしてか弱くしとやかな顔が、鬼のように変化していく様
(目の横の髪を三つ編みにして引っ張り上げたそう)
ぐっと引き込まれます





そして佐八(山崎努)の風鈴のシーン
地震で行方不明になってしまった恋人
しかし数年後に再会した時には違う男との間にできた赤ん坊がいたのです
衝撃的な心境を風鈴を通じて描く
こういう繊細な描き方もするんだなと、すごく感心しました
子どもを残してああいう自殺の方法は、さすがに考えにくいですけれど
(産後鬱だったのかしら)





後半は「おとよ」という、心も身体も病んでしまった少女が主人公になります
赤ひげ先生が力ずくで娼館から引き取ってきたのです
(赤ひげ先生、強すぎだし、やりすぎ 笑)
そしてこの心を閉ざした少女を、保本の担当にします

やさしさを徐々に取り戻していくおとよ
保本とまさえ(破談になったちぐさの妹)との仲に
やきもちを焼くという娘らしさも芽生えてきます
子どもの泥棒、長次に夕飯の残り物を分けに行くという思いやり

保本もまた、おとよを見守ることで人間として成長していくんですね
貧乏人しか来ないし汚い、労働条件が悪い、最初はばかにしていた療養所
だけど赤ひげ先生の医師としての実力、技術の高さを目の当たりにし
また療養所で働く人々や、患者との触れ合いによって変わったのです

長次はある晩、おとよにお別れを言いにやってきます
「おいら、遠くに行くんだ」と
「花がいっぱい咲いていてきれいな鳥がいっぱいいて腹も減ることがねえんだって」

やめてえ!
そんな場所に行くの絶対やめてえ!!





そんな感動的なエピソードがいくつもあるわけですが
全部もっていったのは、やっぱり娼館の女将の杉村春子さん
ここでも意地悪ババア全開
挙句の果てに大根でどつかれる(笑)

それにしても3時間強
もう、黒澤作品は長いもんだと諦めないと見れませんね(笑)
三船敏郎さんが髭をなでるのは、あれはクセなんだな



【解説】allcinemaより
 山本周五郎原作の『赤ひげ診療譚』を基に、巨匠・黒澤明監督が三船敏郎加山雄三主演で映画化したヒューマニズム溢れる人情ドラマ。江戸時代の小石川養生所を舞台に、そこを訪れる庶民の人生模様と通称赤ひげと呼ばれる所長と青年医師の心の交流を描く。長崎で和蘭陀医学を学んだ青年・保本登は、医師見習いとして小石川養生所に住み込むことになる。養生所の貧乏くささとひげを生やし無骨な所長・赤ひげに好感を持てない保本は養生所の禁を犯して破門されることさえ望んでいた。しかし、赤ひげの診断と医療技術の確かさを知り、また彼を頼る貧乏な人々の姿に次第に心を動かされていくのだった……。