羅生門(1950)



てめえ勝手なやつばっかりだ
そういうてめえは違うとでも?

戦後、敗戦にうちひしがれた日本人
そんな敗戦5年後、国内では不評だったものの
日本初の国際映画祭グランプリを受賞した本作

それは物凄い衝撃的な出来事で
羅生門のおかげで世界に胸が張れる」
羅生門が外貨獲得の市場を開拓した」と日本中が浮かれたそうです
同時に海外からの評価ばかり気にするという弊害をもたらしました



この作品が海外で受けた理由の一つに「ラショーモン」
という発音があったと言われています
「ラショーモン」という言葉が、見た人の記憶に
「植え付け」られてしまったのでしょうか()

黒澤明40歳、三船敏郎30歳、京マチ子26歳、森雅之39
志村喬45歳、千秋実33歳、上田吉二郎46
宮川一夫42歳(カメラ)、橋本忍32歳(脚本)
松山崇42歳(美術)早坂文雄36歳(音楽)
働き盛りの才能の蝟集(いしゅう)

橋本忍のシナリオも悪くはありませんが
「恐ろしい、恐ろしい・・」と何度も呟く志村喬の言葉に期待するほど
拷問や虐殺があるわけでなく、恐怖感はは控えめでした
こんなご都合主義な嘘つき、世の中にごまんといますので()
やはりここでの白眉が宮川一夫の超絶的なカメラであることは
言うまでもありません
人物の心理描写をアップで、引いて観客を冷静にさせる
豪雨に煙る羅生門、陽と陰のコンストラクション
宮川の重厚な映像にどれほど世界の巨匠が影響を受けたことでしょう



そして松山崇作りだした朽ち果てた羅生門
これは映画のセットとは呼びたくない
完璧なアート

大雨の日に、その羅生門の軒下で雨宿りした3人の男
下人(千秋実)に、杣(そま)売り志村喬)と旅法師(千秋実)は
やたら「わからない」「こんな話は見たことも聞いたこともない」
言います

どうやら杣売り法師参考人として
検非違使(けびいし 平安時代の警察や裁判所のようなもの)
出廷してきたばかりの様子です




「藪の中」でおきた、貴族の金沢(森雅之)の殺人事件
犯人である名高い盗賊、多襄丸(三船敏郎)は
あっさり「俺が殺した」と白状します
金沢の妻、真砂(京マチ子)の美しさについ欲情してしまったのだと
しかし金沢は勇敢にも自分と決闘の末、見事な死に様を見せたといいます

次にメソメソと泣く真砂の証言が始まります
多襄丸は自分を犯したあと逃げたという

そのあと、真砂は縄で縛られた金沢を助けようとするものの
夫は眼の前で犯された妻を軽蔑の眼差しで見つめます
その視線に耐えられなくなった真砂はそのまま気絶してしまい
目が覚めると、夫には自分の短刀が刺さっていて
死んでいたといいます



最後に巫女(本間文子)が呼ばれ、死んだ金沢の霊を呼び出しました
この本間文子さんの怪奇さといったら()
巫女というよりバケモノじゃん



金沢の霊曰く、真砂は多襄丸の妻となり一緒に行く代わりに
金沢を殺してくれと多襄丸に願ったというのです
それにはさすがの多襄丸も呆れ果て、女を生かすか殺すか
夫のお前が決めろと縄を解きます

しかし真砂は逃げ、多襄丸も姿を消し、無念のあまり妻の短刀で自害
そして自分が死んだ後、何者かが短刀を引き抜いたといいます



実は杣売りは、その殺害現場のすべてを目撃していました
真砂に拝んで妻になって欲しいと頼む多襄丸
一方の金沢は犯されてなぜ自害しないと妻に迫る

そんな多襄丸と金沢のふたりを「おまえらそれでも男か」と決闘させる真砂
しかし実は多襄丸も金沢もかなりのビビリ
へっぴり腰の情けない戦いでやっと決着がついたのです



杣売りの話が終わった時、赤ん坊の泣き声が響きました
捨て子のようですが、その赤ん坊の着ぐるみの着物を
下人は奪ってしまいます
責める杣売りに「短刀を盗んだのはお前だろう」と
そのまま羅生門を去っていきます

現場に真砂が落とした螺鈿細工の短刀を盗んだのは杣売りでした
ですが、人の命か、人の罪かを天秤にかけたとき
法師は子どもを育てるために仕方なくやったことならば、と
杣売りの行いを許します



何が嘘で何が真実か、本当は誰にも分からない
それでもそのわからないものを信じてみたり
寄り添ったりしなければならないのが人間なのです

それが出来なくなった時
この夫婦のようにお互いの真の姿を吐露することになり
殺すか殺されるかまでに至ってしまうこともあるのです

その教えがこの作品のテーマではないかと思います


ところで、作品が始まって1時間10分
三船敏郎さんの後ろは急こう配の崖であるにもかかわらず
上の方に浴衣のようなものを着た、足だけが見えるそうです
オカルト好きな方はぜひチェックしてみてください



【解説】allcinemaより
芥川龍之介の短編『藪の中』をもとに映像化。都にほど近い山中で、貴族の女性と供回りの侍が山賊に襲われた。そして侍は死亡、事件は検非違使によって吟味される事になった。だが山賊と貴族の女性の言い分は真っ向から対立する。検非違使霊媒師の口寄せによって侍の霊を呼び出し証言を得るが、その言葉もまた、二人の言い分とは異なっていた……。ヴェネチア国際映画祭でグランプリを受賞した、黒澤明出世作