言えるのは、舞台が日本の時代劇になっても全く違和感ない
山田五十鈴が怪演すぎて、三船敏郎がかすんで見えるくらい(笑)
大殿に忠誠を誓った主人公が、森の中でもののけから“予言”されます
もののけは、本当に存在していたのか
”予言”ではなく自分の潜在意識の中にある願望ではなかったのか
やがてその野望が妻の悪魔の囁きになる
恐ろしいのは、生きている人間というオチ
クライマックスの三船敏郎が全身に矢を浴びせられ最期を遂げるシーンでは
高校弓道部員が呼ばれ、本物の矢が使われるという命がけのスタント
さすがの三船も黒澤に「俺を殺す気か」とキレたそうです(笑)
お人好しと呼ばれたカメラマンの中井朝一も夜間撮影をめぐって黒澤と大喧嘩
その後「天国と地獄」(1963)まで黒澤作品を撮ることはありませんでしたが
「乱」(1985)では米アカデミー撮影賞にノミネートされました
(仲直りできてよかったね)
【ここからネタバレあらすじ】
北の館(きたのたち)の藤巻の謀反を鎮圧した鷲津武時(三船)と
三木義明(久保明)は、主君に呼ばれ
蜘蛛巣城に向かう「蜘蛛手の森」で出会った老婆から
「武時は北の館の主になり蜘蛛巣城の城主になる」
「義明は一の砦の大将、やがて子が蜘蛛巣城の城主になる」と告げられます
ふたりが城に到着すると、主君から武時は北の館の主
義明は一の砦の大将という、老婆の予言通りの褒美が与えられました
それを聞いた武時の妻浅茅は、主君がその予言を知ればこちらの身が危ないと
主君が藤巻の黒幕で隣国の乾を討つために北の館へやって来た夜
浅茅は見張りの兵士たちを痺れ薬入りの酒で眠らせ、武時は眠っていた主君を殺し
臣下の小田倉則安と、主君の嫡男である国丸に濡れ衣をかけます
小田倉則安と国丸は蜘蛛巣城に向かいますが
留守をあずかっていた三木義明は開門せず弓矢で攻撃
君主の亡骸を運んできた武時は三木義明の推薦で蜘蛛巣城の城主となり
三木義明の息子を跡継ぎに迎えようと準備します
しかし浅茅は自分が懐妊したと養子縁組を拒み
馬が暴れ縁起が悪いからと三木義明親子が現れないまま宴は行われます
途中武時は、死装束に身を包んだ三木義明の幻を見て錯乱
使いの武者が三木義明は殺害したが、息子は逃がしたと報告に来ます
まもなくして三木義明の息子を擁した乾の軍が攻め込んでくるという報が入り
武時はひとり「蜘蛛手の森」へ馬を走らせ、もののけの老婆を探します
老婆は「森が城に寄せて来ぬ限り、お前様は戦に敗れることはない」と言い
将兵たちにに老婆の予言を語って士気を高めさせるのですが
浅茅は死産、そして不穏な夜が明けた朝に発狂してしまい
不気味に「血が取れぬ」と手を洗い続けます
そしてあろうことか霞の中「蜘蛛手の森」が動き城に向かってやってくる
動揺した兵士たちは、叫ぶ武時めがけて無数の矢を放ち
武時の喉を1本の矢が貫いた時、ついに命尽きます
敵の軍勢は体に木の枝を付け、または大木を担ぎながら
森に化け攻めていたのです
妻にそそのかされ君主を暗殺し、恩さえ忘れて盟友を裏切る
肝の小さい男は考えも浅い
武時は所詮、殿になれる器ではなかったのです
【ネタバレあらすじ終了】
黒澤作品のランキングでは真ん中くらいの位置づけで
それほど人気が高い作品ではありませんが
わかりやすいし、面白いし、私はベストテン入りしてもいいと思います
とにかく山田五十鈴のこの世のものでない雰囲気がすごい(笑)
浅茅という名前も、溝口の「雨月物語」(1953)の原作
「浅茅が宿(あさぢがやど)」から取ってるかも知れない
女性を撮るのが下手が黒澤が、「女を撮らせたら溝口」の
影響をうけているかも知れない
そんな想像をしながら観てみるのも面白いと思います(笑)
【解説】KINENOTEより
「生きものの記録」に次いで黒澤明監督が描く戦国武将の一大悲劇。脚本は「阪妻追善記念映画 京洛五人男」の小国英雄、「真昼の暗黒」の橋本忍、「嵐(1956)」の菊島隆三と黒澤明の合作。撮影担当は「続へそくり社長」の中井朝一。主な出演者は「囚人船」の三船敏郎、「猫と庄造と二人のをんな」の山田五十鈴、浪花千栄子、「嵐(1956)」の久保明、「ならず者(1956)」の志村喬、「ボロ靴交響楽」の木村功、その他千秋実、太刀川洋一、上田吉二郎、土屋嘉男、高堂国典、清水元、三好栄子、藤木悠、佐々木孝丸などのヴェテラン陣である。