椿三十郎(1962)




「用心棒」のその後ともいえる物語
面白さという点では「用心棒」よりも
こちらの「椿・・」に軍配をあげる人も多いそうです
96分とコンパクトに収まっているのも見やすい


社殿に集まった若い侍が9人
国許用人の汚職を追放するための意見書を
家老睦田と次席家老に差し出したが受け取ってもらうことができませんでした
そこで若侍のひとり井坂は、大目付の菊井にその話を持ち込みます
菊井は協力してくれると言います

すると、奥で話を聞いて出てきたというひとりの浪人が姿を現し
若侍たちに大目付は信用できない、罠だと警告するのです

やる気だけはあるけれど、世間知らずな若侍達
浪人はどうしても放っておくことができません
若侍達たちを菊井の手下から救い
監禁されてしまった睦田家老の奥方とその娘も救出します





奥方はとにかくオトボケで超天然、人柄がいい
このスローモーな雰囲気が暴走しがちな勢いを押さえ
絶妙なバランスを保ちます

そんな奥方に「お名前は」と聞かれ、浪人は(庭の椿の花を眺めながら)
「椿・・・三十郎 もうそろそろ四十郎ですが」と答えるのです

捕虜になってしまう小林桂樹さんの描き方も愉快ですね
もっともな言うことだけ言って押し入れに引っ込んじゃう
ユーモアのセンスはなかなかのもの

そして敵役の用心棒室戸半兵衛、この眼力と風格には威圧されます
威厳の中にも見え隠れする、彼なりの正義や人情
仲代達也さんの役の中でも1、2にかっこいいのではないですかね
ラストの果し合いの血しぶきのシーンは
その後のヤクザ映画で頻繁に使われるようになったそうです





しかし睦田老を助けようとする三十郎の計画を
若侍達は信用できず、ことごとく邪魔をするわけですよ

同じ侍でも、三十郎や室戸半兵衛の生きる世界と
お坊ちゃま侍の生きる世界は全く違うのだということがわかります
今でこそ、若く見られたほうが徳ですが
侍の世界では若さは愚かさ、そのように思われていたのかもしれません
貫禄ある大人こそ、男として扱われたのでしょう

難しいところがない軽快な娯楽作
「乗った人より、馬は丸顔」(伊藤雄之助さん 笑)など
セリフ回しも小粋ですし、三船敏郎さんのキャラもチャーミングでした

これもまた、誰でも楽しめる素晴らしい名作だと思います



【解説】allcinemaより
 凄腕の浪人が、上役の不正を暴こうと立ち上がった9人の若侍に助太刀する痛快アクション時代劇。三船扮する三十郎は前作の「用心棒」から通ずるキャラクターながらこちらのほうがより人間味が増し、ユーモアと知略が強調されている。薄暗い社殿で密議をこらしていた9人の若侍。上役を告発するも逆に窮地に陥っていた。それを図らずも聞いていた浪人は、権謀に疎い彼らに同情し一肌脱ぐことに……。仲代達矢扮する敵方の用心棒との壮絶な一騎打ちのシーンは圧巻。