赤線地帯(1956)

 
「女を撮らせたら溝口」
 
 
敗戦後の1946年から売春防止法が施行される1958年まで
公認で売春が行われていた地域を赤線
非公認は青線と呼ばれていたそうです。
 
東京、吉原にある「夢の里」という遊郭
さまざまな事情で働く女たち。
 
可愛い娘はひとりだけ。
ナンバー1のやすみは嘘か本当か父親の借金のために働いていると
なじみの客に貢がせ大金を貯めています。
 
しずこという少女は親から売られてきました。
まだ客を取ってはいません。
先輩から奢ってもらった飯を犬のように食べる。
 
大阪からやってきた派手でグラマーで
クールなギャルはミッキー。
 
ほかは今でいう熟女、アラフォーというところでしょうか
しかしただの年増にしか見えない。
 
むくんだ足、醜いガニ股・・
長年の間、大勢の男を相手にしていると
こんなふうになるのだろうか。
 
成長して東京に就職した息子に
「汚い」と罵られ絶縁させられたゆめこは狂ってしまう。
誰に何を言われても気にするものか
だけど血の繋がった子どもから拒否されることだけには
耐えられなかったのでしょう。
 
作中で流れる黛敏郎さんの音楽はお化け屋敷そのもの
まるでその場所がそうであると伝えているようです。
 
それでも自分の尊厳だけは守ろうとする娼婦たち。
貧乏や恥じな商売に開き直り
社会にも男にも決して負けまいと生きていくのです。
 
処女が欲望の世界に落ちていく儚さで物語は終わります。
彼女もまた、逞しくなっていくのでしょう・・
 
戦後の日本の風俗産業の背景を描いた
現在では社会資料になるような、そんな映画だと思います。
男しか知らない女の世界。
 

 
【解説】allcinemaより
芝木好子の短編『洲崎の女』をもとに、成沢昌茂が脚色し溝口健二が監督した。溝口にとってはこれが最後の監督作品となった。撮影を宮川一夫、音楽を黛敏郎が担当。
 赤線地帯にある特殊飲食店「夢の里」の主人は、国会に上程されている売春禁止法案が可決されたら売春婦はみな投獄されると、女たちを慌てさせる。より江はなじみ客と結婚するが、夫婦生活が破綻し舞い戻ってきた。一人息子のために働くゆめ子だったが、その息子から縁を切られ発狂してしまった。やすみは自分に貢いでくれた客に殺されかけた。ラジオが売春禁止法案の否決を伝えると、「夢の里」は再び客の呼び込みを始めた。そしてそこには、店を辞めたやすみに代わり、下働きだったしず子の姿があった。