近松物語(1954)

 
すごい・・
こんなにも破壊的、破滅的な愛の物語があるなんて。
 
以前、興味があって
(何に興味を持っているのでしょう?笑)
明治大学の通称「拷問博物館」に行ったことがあります。
 
磔(はりつけ)柱や、生首のさらし台はレプリカでしたが
外国人が撮影した処刑場の写真は本物でした。
それは生々しく、恐ろしく
私はもうその場にいられなくなってしまった。
 
そこにあったのと同じ情景が
この作品でも写しだされました。
 
しかしなんて美しいのでしょう。
磔にされ命を奪われた女性・・
こんな美しい死体は見たことがない。
世界中を探しても、きっとない。
 
大経師とは書画の表装や
暦の発刊を一手に引き受ける商人のことだそうです。
そこの主人の以春はケチで意地悪でスケベ
女中のお玉に手を出します。
 
そんな以春に耐えかねたお玉は
そこで絵師の職人として働く茂兵衛と
結婚の約束をしていると嘘をつくのです。
しかし茂兵衛が密かに思いを寄せていたのは
以春の奥さん、おさんでした。
 
おさんが実家からお金を無心され
困ってるのを知り、助けようとした茂兵衛。
しかし悪い偶然が重なって
おさんが茂兵衛と浮気していると勘違いされてしまいます。
 
不義密通となれば、当時の法律ではふたりは処刑され
家は取り潰されてしまう・・
なんとか事件をもみ消そうとする以春。
 
最初思いを寄せていたのは茂兵衛のほうでした。
だけどだんだんとおさんの気持ちのほうが高ぶってきます。
彼女にとって茂兵衛はいままでもこれからも
一番頼りになる男性だったのでしょう。
 
自分の事しか考えず、若い娘を手籠めにしている夫。
借金をしては遊んでばかりいる兄。
身内はひどい男ばかり
だれも自分を大切にしてはくれない。
 
茂兵衛だけ、茂兵衛だけ、茂兵衛だけ
ほかは何もかもがどうなったってかまわない。
誰のことも知ったことか。
 
縄できつく縛られ刑場に運ばれるふたり。
見つめあう、ぎゅっと手を握る。
 
幸せそうに微笑むおさんとは対照的に
一瞬、憂鬱そうにする茂兵衛の表情が印象的。
 
おさんは復讐したんだ。
 
茂兵衛を愛することで
おさんは夫と実家に復讐したんだ。
 
私が今まで見たモノクロ映画の中で
最も美しい、美しい作品でした。
 
そして死がエロティシズムを昇華させるのです。
こんな傑作があるでしょうか。
 
お気に入りです。
 

 
【解説】NHKオンラインより
京烏丸四条の大経師以春の手代・茂兵衛はある誤解から、以春の後妻・おさんと不義密通の疑いをかけられる。主人の怒りを買った2人は家を逃げ出し、琵琶湖で入水自殺を考えるが、いつしか真実の愛が芽生え、命がけの逃避行を続けることに…。茂兵衛役の長谷川一夫が初めて溝口作品に登場、静謐(せいひつ)な中にも緊張感みなぎる傑作へと昇華した。第5回ブルーリボン賞監督賞、音楽賞を受賞。文部省芸術選奨受賞(溝口健二)。