祇園囃子(1953)

   
 
「それはお金のある人が言うことえ」
 
 
戦後間もない京都、祇園
 
戦前(1936)に撮影された「祇園の姉妹」という作品では
ヒロインの芸奴は「おもちゃ」という名でした。
そうです、男のおもちゃという意味の名前です。
 
しかし時代は変わり、日本に新憲法ができ
基本的人権が尊重されるのだと
芸奴は日本の無形文化財なのだと彼女らは言います。
表面的には華やかに見える世界。
 
母を亡くした栄子は自分も舞妓になりたいと
花街で少しは名の売れている美代春姐さんを頼ってきます。
そして1年の修行をして美代栄としてデビューします。
 
美しく豪華な着物姿、立ち振る舞い、踊りに三味線
若い美代栄は優雅さだけに憧れてやってきたのでしょう。
 
しかし「おかあさん」の考えは
良い「旦那」を見つけてあげることでした。
一流の芸を習わせるも、着物も髪飾りも
全てに金がかかっているのです。
 
実のところは、さほど戦前と変わらない古いしきたりのまま。
男だってただ日本舞踊を見るためだけに
花街に通うわけではないのです・・
仕事で好みの芸奴を取引先(作品では官僚)に提供することも
当時は接待としてよくあったのかもしれません。
 
世話になっている「おかあさん」の顔に泥を塗るわけにはいかない
お得意さんの仕事を失敗させるわけにはいかない
舞妓になったばかりの美代栄を性の餌食にはさせたくない
 
好きでもない男性の寝床に向かう美代春姐さん・・・
 
この美代春姐さんこと、木暮実千代さんは色っぽいですねえ。
帯のほどき方、足袋の脱ぎ方
これはもう大人の女性の色香に酔ってしまいます。
 
女性のみなさん、これからは靴下1足でも
丁寧に脱ぐことをお勧めします(笑)
 
85分という小品で見やすいですし
女性は綺麗だし、俳優陣も素晴らしい。
 
溝口監督×宮川カメラ作品をこれからデビューしようと思ってる人には
最初の1本におすすめな作品だと思います。
 

 
【解説】allcinemaより
日本が世界に誇る映画監督・溝口健二が京都の花街・祇園を舞台に芸妓とそれを取り巻く人々の生態を細部まで徹底的に描き出した人間ドラマの傑作。祇園ではちょっと名の知れた芸妓・美代春の許に、母を亡くしたばかりの少女・栄子が舞妓志願にやってきた。栄子の熱意に負けた美代春は、彼女を引き受けることに。やがて、1年間の舞妓修行を経て、初めて店に出た栄子。ほどなく大会社の御曹司・楠田に見初められる。一方、美代春も楠田の取引先である神崎から言い寄られるのだったが……。
 導入部こそ、エキゾティシズムを意識したような視線で描かれるが、そこから先は溝口監督の鋭い人間洞察力が遺憾なく発揮される。若尾文子の愛くるしさも目を見張るが、したたさかを内に秘めた木暮実千代の色香と浪花千栄子の貫禄がなんとも印象的。