私のちいさなお葬式(2019)

原題は「Karp otmorozhennyy」(解凍された鯉)

最近には珍しく邦題のほうがしっくりくるタイトル

エスパース・サロウ」は知らない配給会社でしたが

スタッフがちゃんと映画を見ている会社なのはわかりました(笑)

ロシアの田舎町、73歳の寡婦エレーナは元教師

慎ましく年金暮らしをしています

ある日病院で心臓病(不整脈)で余命宣告を受けてしまい

その帰り道、教え子から釣った鯉を貰ったので自宅の冷蔵庫に冷凍

その直後倒れてしまい入院すると

モスクワで働く唯一の身内でひとり息子のオレクが5年ぶりに帰ってきました

退院したエレーナは、息子のために料理しようと鯉を解凍しはじめますが

オレクは仕事だと、すぐにモスクワに帰ってしまいます

するとその夜、解凍したが飛び跳ねエレーナはその鯉を飼うことにします

そして息子にも誰にも迷惑はかけたくないと

ひとり終活することを決意し

秘密のお葬式計画を実行するのです

ロシア映画だけに、検閲があるのでしょうかね

地域格差、失業、アルコール中毒

医療(保険)問題(先進国で不整脈では死なない)といった

ロシアの抱える社会問題を垣間見せながらも

北欧のお洒落可愛いといいますか(笑)

おばあちゃん可愛い、ファッションやインテリアも可愛い

不愛想に見える人たちも、心の中は優しい

 

エレーナはかって「先生」だった立場を利用し

元教え子に死亡診断書を出させると

教え子に墓を用意させ

教え子から棺桶を買います(笑)

あとは心臓発作で死ぬだけとベットに横になりますが、死ねない

そこで隣に住むおばあちゃん、リューダを呼び

「枕で窒息死させてほしい」と頼むことにしますが

「そんなのイヤだよ」とリューダ

とりあえず最後の酒を飲もうということになり

ふたりは酔っぱらい愚痴りはじめます

やがてエレーナが酔いつぶれると、リューダはエレーナの携帯を使い

「お母さんが死ぬよ」と彼女の息子連絡するのでした

慌てて帰ってきたオレクは母親が酒臭いのにびっくり

翌朝目覚めた母親に、養護施設への入居手続きをしたことを伝えると

母親と口論になり、思わず投げた車のキーを鯉が飲み込んでしまいます

スマホも現金も車の中

職場に連絡もできないし、モスクワに帰ることもできない

鯉のお腹を押し、車のキーが解除されないか試すシーンが

間抜けで可愛いすぎる(笑)

獣医から、スパイスを飲ませたらフンと一緒に鍵を出すかもしれないと言われ

ふたりは食料品店に向かいます

そこでオレクは昔恋仲だったナターシャと再会しますが

エレーナはふたりの間に割って入るのでした

オレクをナターシャと別れさせ

年寄りとアル中ばかりの田舎町から

都会に進学させ就職させたのは、エレーナの希望だったのです

結局ナターシャはアル中のDV男と一緒になり

都会に出たオレクも結婚することはありませんでした

 

母親にもし町を出なかったら

「ナターシャと結婚していたかも」と呟くオレク

(ナターシャがこうなることはなかった)

親がいくら子どものために「よかれ」と思った選択でも

それが子どもの本当の幸せに繋がるわけではないのです

夜になり、(昔隠していた)タバコを探していたオレクは古いアルバムを見つけます

そこには子どもの頃の写真や、笑顔の家族写真

こんなにも愛され大切に育てられたことに改めて気付く

ナターシャと別れたのも、母親のせいだと非難するだけで何もしなかった

彼女を救えたかも知れないのに

ナターシャを選ばなかったのも、結婚しなかったのも、

自分の意志だったと気づくオレク

オレクは池に向か鯉を放すと、自分も池に飛び込み泳ぐことにします

びしょ濡れ帰宅し、オレクが母親が横たわるベッド近寄ると

すでに母親は息絶えていました

オレク静かにうずくまると、むせび泣くことしかできませんでした

昔「電波少年」という番組でBluem of Youth(ブルームオブユース)という

2人組の音楽ユニットがロシアを旅する企画があって

ザ・ピーナッツの「恋のバカンス」がロシアの国民曲であることを知ったのですが

本作でも「恋のバカンス」のロシア語バージョンが常に流れていましたね

ウクライナ侵攻や民族問題を抱え、各国から制裁を受けているロシアですが

そのために何の罪のないロシア人が

特に弱い立場のお年寄りや子どもたちが生活苦に陥ってしまう

一度死んでも、蘇った鯉

それこそがロシアの希望、国の再建の象徴なのかなと思いました

 

 

【解説】映画.COMより

突然の余命宣告を受けた73歳の女性が自身のお葬式計画に奮闘する姿を描いたロシア映画。村にただひとつの学校で教職をまっとうし、定年後は気のおけない友人たちと大好きな本に囲まれ、慎ましくも充実した年金暮らしを送っている73歳のエレーナ。そんな彼女が病院で突然の余命宣告を受けてしまう。都会で仕事に忙しい毎日を過ごし、暮らし5年に一度しか顔を見せないひとり息子のオレクには迷惑はかけたくないと、自分で自分の葬式の準備をスタートさせる。惨めな死に方だけはしたくない彼女の願いは、お葬式に必要な棺や料理の手配を済ませ、夫が眠るお墓の隣に埋葬されること。親友やかつての教え子たちの協力もあり、彼女はお葬式の準備を順調に整えていく。しかし、完璧かに思えたエレーナのお葬式計画に想定外の事態が持ち上がってしまい……。

2017年製作/100分/G/ロシア
原題:Karp otmorozhennyy
配給:エスパース・サロウ
劇場公開日:2019年12月6日