ピアニスト(2001)

原題は「La Pianiste

原作は「ポルノ作家」などとして非難されたオーストリア

エルフリーデ・イェリネク2004ノーベル文学賞受賞)の

Die Klavierspielerin」(ピアニスト 1983

賛否両論も当然の作品とは思いますが

いままでにないマゾヒズムの解釈で、私は面白かったです

自虐という心の闇、心に焼き付く強烈なカット

お風呂場の剃刀はさすがにビビりましたけど(笑)

ウィーンの名門音楽院で優秀なピアノ教師として働く

39歳のエリカ(イザベル・ユペール)は母親とアパートに二人暮らし

(父親はすでに亡く長らく精神病院に入院していた)

干渉的な母親はエリカの帰りが少しでも遅くなると

エリカのバックをかきだし、クローゼットの中の洋服を裂く

エリカは母親を「くそババア」と罵り、つかみ合いのケンカ

やがてお互い謝り慰め会うわけですが

エリカの帰宅の遅い理由はファストフード店でひとり酒?を飲み

ポルノビデオショップに寄ること

個室の視聴室でアダルトビデオを見ながら

先客の捨てられたティッシュの匂いを嗅ぐことが至福

しかもそのことに罪悪感も抱くところか

「異常なこと」という認識すらない

教え子の男の子ばったり会っても平然としていて

羞恥心のかけらもありません

ある日、知り合いの夫婦のパーティに母親と参加すると

エンジニア志望の大学生のワルターブノワ・マジメルと出会います

ワルターはエリカのクラシック音楽の才能(と女性としての魅力)に

惚れこんでいて

彼女からピアノのレッスンを受けることを熱望していました

エリカのクラスを受講するため音楽院の試験に応募し

教授たちはワルターの演奏に感銘をうけますが

エリカだけは反対票を投じたのでした

それでもワルターは諦めず音楽院に編入、若さゆえ彼女に求愛してきます

エリカは厳しい態度で拒みますが、彼が嫌いなわけじゃない

ずっと過干渉な母親に監視されて生きてきて

男と付き合ったこともないし、愛しかたも知らない

たぶんもともとの変態じゃないし

彼女の恋愛やセックスの知識が、ハードコアポルノしかなかっただけ

(家では母親から恋愛ドラマも見せてもらえなかったのだろう)

 

教え子のアンナのピアノ発表会のレッスンで

ワルターがアンナに親切にしているのを見たエリカは

コートルームに行きアンナの上着のポケットにグラスの破片を忍ばせ

そのせいでアンナは右手を切り、演奏できなくなります

騒ぎの中、エリカ誰もいない公衆トイレに駆け込むと

追ってきワルター激しいキスをされるのでした

しかしエリカは身体に触れること許さず、手と口で奉仕しようとします

そのことは失敗しますがワルターはさらにその気になり

次のレッスンの日、ワルターがふたりの関係について話し合おうとすると

エリカは手紙を渡し、読んでから決めてほしいといいます


その夜、エリカののアパートにやってきたワルター

まだ手紙を読んでいないという彼に、エリカはその場で読ませます

それは「顔を殴」「紐で縛」「尻を舐め」

「全裸で顔の上に座・・といったものでした

驚いたルターはエリカに蔑みの言葉を放ち出て行ってしまう

ワルターに許しを請おうとアイスホッケー場を訪ねエリカ

ロッカールームでワルターのズボンをさげ、再び口でしますが

嘔吐してしまい(所詮未経験)ワルター幻滅するものの

サディスティックに目覚めてしまう

エリカのアパートに突然押し入り、エリカの母親を閉じ込め

彼女の顔を殴り罵りながら激しくしたのです
ビデオ現実にエリカは恐怖し泣くしかありませんでした

翌日、腫れた顔にメイクし演奏会場に向かうエリカ

何事もなかったように教授や生徒と挨拶を

ワルター何事もなかったようにやってきて

他の生徒たち笑いながら会場に入って行くのでした

 

ワルターの姿を見送ったエリカは

鞄から取り出したナイフで左胸に一突きし(致命傷ではない)

そのまま会場をあとにします

このラストをどう読み取るかで、評価は変わるのでしょう

単に気が触れてしまった、という見方もできますが

 

エリカは胸を刺すことによって、今までの自分を殺した

ワルターにも、ピアノだけの人生にも、別れを告げたのではないか

なにより母親の束縛から逃れ、これからは自由に生きていく決意だと

私はそう思いたい

 

 

【解説】allcinema より

 “普通でない”性的嗜好をもつ中年女性が、そうとは知らずに近づいてきたハンサムな青年の一途な恋に戸惑い、スレ違いの性的情感に苦悩するさまを繊細にして力強く描いた切なく激しい愛の物語。監督は「ファニーゲーム」のミヒャエル・ハネケ。2001年のカンヌ映画祭において、グランプリの他、最優秀主演女優賞、最優秀主演男優賞の三冠に輝いた。
 ウィーン。小さい頃から母親に厳しく育てられたエリカ。40歳を過ぎてウィーン国立音楽院のピアノ教授となった今でも母と二人暮らし。ある日、エリカは私的な演奏会の席で青年ワルターに出会う。彼のピアノの才能に特別な感情を抱くエリカだったが、それ以上にワルターのエリカに対する思いは強かった。彼女に執拗につきまとい、ついには音楽院の試験に合格し彼女の生徒となってしまう。ワルターはある日、思いあまってトイレにいたエリカに強引にキスを迫る。ワルターの思いが通じたかと思われた瞬間、エリカがひた隠しにしていた秘密があらわになる……。