原題は「堕落天使」英題は「Fallen Angels」
殺し屋の男とエージェントの女、金髪女との三角関係と
失恋女に失恋してしまった唖者の男のふたつの物語が
ラストに交差します
もともとは「恋する惑星」(1994)の
3つ目のストーリーとして考えていたものを
「恋する惑星」が陽なら陰、昼なら夜、無垢なら性的という
対する作品として独立して製作
そしてウォン・カーウァイの特徴といえば
セリフの少なさ、音楽の多さ
カーウァイはほとんど脚本を書かず(笑)
撮影現場での俳優やスタッフの反応、偶発的な出来事を大切にし
そのなかで気にいった映像を繋げ物語を作りあげていくそうです
雰囲気で見る映画は、本当に雰囲気で作られていたのです
エージェント(ミシェール・リー)の計画した殺しを
言われるまま実行するだけの殺し屋(レオン・ライ)
ふたりが顔をあわせることはありませんでしたが
エージェントは殺し屋のことを好きになってしまいます
彼が寝泊まりしている部屋のゴミを持ち帰り
彼がその日何をしていたか、行きつけの店はどこかを探る
しかし殺し屋は足を洗おうと、突然姿を消してしまいます
そしてマクドナルドで出会った(ガラガラなのに隣に座るのが可愛い)
騒々しい金髪女(カレン・モク)の部屋に行き
関係を持つようになるのです
殺し屋が金髪女と会う時はいつも土砂降りでした
金髪女は陽気な見た目とは違い、心の中では泣いていました
殺し屋の気持ちが自分にないことを知っていたのです
エージェントも、殺し屋が去り寂しい夜を過ごしていました
ある日、金髪女とすれ違ったエージェント
お互い相手の香水から殺し屋との関係を察します
金髪女が、エージェントと殺し屋が会えるよう取り持ち
そして映画の冒頭のセリフ
「わたしたちは、まだパートナーかしら」
一方、エージェントが住む重慶の安アパートの管理人の息子モウ(金城武)は
幼い時に賞味期限切れのパイン缶を食べたのが原因で口が聞けません
(パイン缶は「恋する惑星」では自ら作った恋愛ジンクスだった)
夜中に他人の閉店した店を勝手に開け、客に押し売り
相手が勘弁してくれと金を出すまで嫌がらせをするヤバイ奴
何度もモウのお店にやって来てしまい
挙句の果てには家族全員アイスを食べさせられるヒゲ男がお気の毒
だけどちょっと笑える
ある日、失恋した女(チャーリー・ヤン)が
彼氏を寝取った<金髪アレン>に電話で文句を言ったあと
「ちょっとだけ肩を貸して 涙が乾くまで」 と
モウの胸に顔を埋めました
その瞬間、女を好きになってしまうモウ
しかも、この年になって初恋ときた
(心情で髪色が変わるのは、撮影時の偶然の産物を使った演出)
モウの「電話ではなく直接会って殴れ」というメッセージが伝わり
ふたりは金髪アレンを探しに行くことにします
結局、金髪アレンにも元カレにも会えず
(殺し屋がバスで会った、結婚する予定だという保険屋の同級生が元カレだろう)
モウと女はサッカー場に行き
試合が終わり照明が落ちるまでの短い恋
女にフラれたうえ、優しい親父が病死してしまい
遺品を整理しながら、自分がもう子どもでないことに気付くモウ
(超下手くそなビデオ撮影が泣かせる)
モウは日本料理店で真面目に働くようになり
やがて自分のデリも持ちます
そこに客室乗務員の姿で女が偶然来て、再会するのですが
女はモウのことを全く覚えていませんでした
エージェントに依頼された最後の仕事に向かった殺し屋は
初めて仕事を失敗
猛反撃にあい、あえなく倒れてしまいます
愛する殺し屋を失い悲しんでいるエージェント
訪れた食堂で、彼女を見つけたモウは
アパートにバイクで一緒に帰ることにします
モウの背中から温もりが伝わり
エージェントはただの女に戻っていくのでした
ラストに流れるヤズーの「Only You」が(プラターズのではない)
まるで彼女の気持ちを語っているようです
Looking from a window above 高い窓から見おろすの
it's like a story of love まるで恋愛小説みたい
Can you hear me 私の声が聞こえるかしら
Came back only yesterday 帰ってきたのはつい昨日のことなのに
I'm moving further away 私はもうこんなに遠くに来ている
Want you near me そばにいてほしいのに
All I needed was the love you gave ほしいのはあなたの愛だけ
All I needed for another day せめてもう一日だけ
And all I ever knew そうよ私には
Only you あなただけだから
【解説】映画.COMより
「恋する惑星」のウォン・カーウァイ監督が、ネオンきらめく香港の街で男女5人が織りなす切ない恋愛模様をポップな映像で描いた群像劇。当初は「恋する惑星」の一部として描かれる予定だったエピソードを、独立した作品として完成させた。
孤独な殺し屋の男と、そのエージェントを務める女。仕事に私情を持ち込まないことが彼らの流儀だったが、2人の関係は揺らぎつつあった。一方、口がきけない青年モウは、夜ごと他人の店に入り込んで勝手に営業している。ある日、モウは失恋したばかりの女に出会い、恋心を抱く。
殺し屋を「ラヴソング」のレオン・ライ、エージェントを「フラワーズ・オブ・シャンハイ」のミシェル・リー、モウを「恋する惑星」の金城武が演じた。カーウァイ監督作の多くを手がけるクリストファー・ドイルが撮影を担当。1996年に日本初公開。2022年には4Kレストア版が「WKW4K ウォン・カーウァイ4K」(22年8月19日~シネマート新宿、グランドシネマサンシャイン、シネマシティほか)で上映。
1995年製作/96分/G/香港
原題:堕落天使 Fallen Angels
配給:アンプラグド
日本初公開:1996年6月29日