高知のリチャード・ギアこと、ギドラさんからのプレゼント
レビュー第4段
原題は「TRISTANA」(ヒロインの名前)
徹底した省略
感情を現わさない表情
唐突な展開
説明のない精神分析
これはかなり手強い作品でした
16歳で身寄りを無くし、老貴族ロペの養女となったトリスターナ
ロペは国家権力を嫌い、金儲けは汚いと働かず
当然金は無いので生活も食事も質素なもの
ロペは自由恋愛主義者で、部類の女好きでしたが
友人の妻と、純朴な女性には手を出さないという信念がありました
にもかかわらずトリスターナの里親に対する情を愛と勘違いし
娘でありながら妻の役目も果たさせるという姦淫
外出を制限し徹底した束縛で主従の関係を強要します
歪んだ醜男の性欲によって
次第に歪んでゆくトリスターナの人格
やがて大人になった彼女は若くてハンサムな画家と恋に落ち
ロペを捨てます
しかしロペが姉の遺産を相続し裕福になったころ
脚に悪性の腫瘍ができたことを理由に、再びロペの家に戻ってきました
片足を切断し一命は取りとめたトリスターナでしたが
「私は不幸」「優しいほど、嫌いになる」と
ロペをますます憎み、きつく当たるようになる
一方で、老い先短いロペは怒ることもなく寛容になり
友人たちと穏やかな日々を過ごすようになります
ドン・ロペ(フェルナンド・レイ)
金儲けを卑しい者のすること、労働者から搾取する資本家などもってのほかと考え
死んでも働かないと言い切る高潔で誇り高い没落貴族
美術品や食器を売り細々と生計を立てている
そのわりにはいい年して、若い女性をナンパするほど女好き(笑)
独身主義で無神論者、フラれても女から馬鹿にされても気にしない
トリスターナ(カトリーヌ・ドヌーヴ)
16歳でロペの養女になり、ロペに求められるまま従ってしまう
ドヌーブ(当時27歳)すで大人の女の美貌が完成されており
無垢な10代の少女に見えない問題(笑)
ロペの生首がぶら下がっている夢をよく見る
若い画家オラシオと駆け落ちするが
数年後、脚の腫瘍で死ぬと思った彼女はオラシオと町に戻って来る
(原作ではロペが相続した遺産が目的ということ)
オラシオ(フランコ・ネロ)
トリスターナの愛人、結婚はしなかったが
彼女の意見を第一に尊重するやさしい男
トリスターナをロペに預けたことで、彼女に裏切り者扱いされるものの
体よく厄介払いできたと内心思っている
ブニュエルもドヌーヴもお互い頑固で口論になることもしばしばで
「事故のふりして彼女をバルコニーから突き落とせ!」と叫んだそう(笑)
サトゥルナ(ロラ・ガオス)
ロペのメイド
サトルナ(ヘスス・フェルナンデス)
メイドの息子で聾唖者、仕事は長続きしないようだ
トリスターナのスカートをめくったり、設定では彼女と同年代と思われる
手話は適当、というかほとんどジェスチャー(笑)
(全裸でガウン前開きはこの作品が最初だったのね)
ドン・コスメ(アントニオ・カサス)
ロペの友人
教会の鐘楼守
トリスターナや聾唖のサトルナに親切にする
ロペの姉
ロペに会うと「変な奴が来た」というくらい
働かず浪費し金を無心する弟を嫌っている
皮肉にも自分の死後、遺産はロペに与えられる
ドン・アンブロジオ(ビセンテ・ソーラー)
トリスターナにロペとの結婚を勧める
医者(フェルナンド・セブリアン)
ロペにトリスターナの脚を切断するしか助かる見込みはないと説明する
魔性の女(ボーダーライン=境界性人格障害)
かって性的搾取を受けた被害者が、加害者になってしまう
トリスターナは心臓発作を起こしたロペの部屋の窓を開け
雪混じりの冷たい風を入れ彼を見殺しにするのでした
そしてロペの死をきっかけに、トリスターナの記憶は
16歳の、まだ健康で男のことなど何も知らなかった
あの日に戻ります
(人格障害には辛い過去や不都合な事実を、記憶から消す機能がある)
だからといって、彼女の狂気が終わったかどうかはわからない
ブニュエルの作品はどれも禁断のテーマでスキャンダラス
精神疾患の考察をするのにも優れている
しかもそれを見事に全て煙にまき、謎めいたものにしてしまう
これが優れた芸術家の仕事というものなのか
そして老残の哀れと、若くして障害者になった哀れ
どちらも惨めだけど、若いほうがその辛さが生涯長く続く
変態は考えることも、実は深かったりするのです(笑)
またもや貴重で素晴らしい傑作を見ることができ
しかも永久保存版
高知のリチャード・ギ・・ドラさんに感謝感激が止まりません(笑)
【解説】allcinema より
「昼顔」以上に変態的かつ美しいブニュエルとドヌーヴのコンビ作は、20年代末のスペイン、トリエステを舞台に、伝奇的に始まる。16歳のトリスターナは両親に死なれ、母の知人の初老の没落貴族ドン・ロぺに引きとられる。彼女を“女”として見る義父を無意識下に恐れ、ある日教会の鐘楼に登った娘は、その夜、鐘になって揺れる彼の生首を夢にみる。はじめはドン・ロペの言いなりだったトリスターナだが、彼の留守の間に散歩に出、朽ちかけた僧院の庭で絵を描く若き画家オラーシオに心魅かれ、青年も美しい彼女を見初める。やがて露骨に義父の求めを拒絶するようになったトリスターナは青年と駆け落ち。が、残されたドン・ロぺが、きっと戻ってくる、と呪詛した通りに足を病んだ彼女は二年後、彼のもとに舞い戻り、片足を切断して、彼と結婚する。しかし、ある夜、発作を起こした夫の部屋の窓を開け放ち雪混じりの風を入れ、冷然と彼を見殺しにするのだった……。愛なき結婚の孤独を、片足のない裸体を口のきけぬ下男に晒すことで表現するシーン。ブニュエルの演出は凄絶極みである。