哀しみのトリスターナ(1970)

f:id:burizitto:20211205213822j:plain

高知のリチャード・ギアこと、ギドラさんからのプレゼント

レビュー第4段

原題は「TRISTANA」(ヒロインの名前)

 

徹底した省略

感情を現わさない表情

唐突な展開

説明のない精神分析

これはかなり手強い作品でした

f:id:burizitto:20211205213844j:plain

16歳で身寄りを無くし、老貴族ロペの養女となったトリスターナ

ロペは国家権力を嫌い、金儲けは汚いと働かず
当然金は無いので生活も食事も質素なもの

ロペは自由恋愛主義者で、部類の女好きでしたが
友人の妻と、純朴な女性には手を出さないという信念がありました

にもかかわらずトリスターナの里親に対する情を愛と勘違いし

娘でありながら妻の役目も果たさせるという姦淫

外出を制限し徹底した束縛で主従の関係を強要します

 

歪んだ醜男の性欲によって

次第に歪んでゆくトリスターナの人格

f:id:burizitto:20211205213915j:plain

やがて大人になった彼女は若くてハンサムな画家と恋に落ち

ロペを捨てます

しかしロペが姉の遺産を相続し裕福になったころ

脚に悪性の腫瘍ができたことを理由に、再びロペの家に戻ってきました

f:id:burizitto:20211205213930j:plain

片足を切断し一命は取りとめたトリスターナでしたが

「私は不幸」「優しいほど、嫌いになる」と

ロペをますます憎み、きつく当たるようになる

一方で、老い先短いロペは怒ることもなく寛容になり

友人たちと穏やかな日々を過ごすようになります

 

 

ドン・ロペ(フェルナンド・レイ

f:id:burizitto:20211205213858j:plain

金儲けを卑しい者のすること、労働者から搾取する資本家などもってのほかと考え

死んでも働かないと言い切る高潔で誇り高い没落貴族

美術品や食器を売り細々と生計を立てている

そのわりにはいい年して、若い女性をナンパするほど女好き(笑)

独身主義で無神論者、フラれても女から馬鹿にされても気にしない

ポジティブ・シンキング

 

トリスターナ(カトリーヌ・ドヌーヴ

f:id:burizitto:20211205214116j:plain

16歳でロペの養女になり、ロペに求められるまま従ってしまう

ドヌーブ(当時27歳)すで大人の女の美貌が完成されており

無垢な10代の少女に見えない問題(笑)

 

ロペの生首がぶら下がっている夢をよく見る

若い画家オラシオと駆け落ちするが

数年後、脚の腫瘍で死ぬと思った彼女はオラシオと町に戻って来る

(原作ではロペが相続した遺産が目的ということ)

 

オラシオ(フランコ・ネロ

f:id:burizitto:20211205214134j:plain

トリスターナの愛人、結婚はしなかったが

彼女の意見を第一に尊重するやさしい男

トリスターナをロペに預けたことで、彼女に裏切り者扱いされるものの

体よく厄介払いできたと内心思っている

 

ブニュエルもドヌーヴもお互い頑固で口論になることもしばしばで

ある日激怒したブニュエルは、フランコ・ネロ

「事故のふりして彼女をバルコニーから突き落とせ!」と叫んだそう(笑)

 

サトゥルナ(ロラ・ガオス)

f:id:burizitto:20211205214148j:plain

ロペのメイド

 

サトルナ(ヘスス・フェルナンデス

f:id:burizitto:20211205214204j:plain

メイドの息子で聾唖者、仕事は長続きしないようだ

トリスターナのスカートをめくったり、設定では彼女と同年代と思われる

手話は適当、というかほとんどジェスチャー(笑)

(全裸でガウン前開きはこの作品が最初だったのね)

 

ドン・コスメ(アントニオ・カサス)

f:id:burizitto:20211205214232j:plain

ロペの友人

 

教会の鐘楼守

f:id:burizitto:20211205214241p:plain

トリスターナや聾唖のサトルナに親切にする

 

ロペの姉

f:id:burizitto:20211205214254j:plain

ロペに会うと「変な奴が来た」というくらい

働かず浪費し金を無心する弟を嫌っている

皮肉にも自分の死後、遺産はロペに与えられる

 

ドン・アンブロジオ(ビセンテ・ソーラー)

f:id:burizitto:20211205214307j:plain

トリスターナにロペとの結婚を勧める

 

医者(フェルナンド・セブリアン)

f:id:burizitto:20211205214321j:plain

ロペにトリスターナの脚を切断するしか助かる見込みはないと説明する

 

 

魔性の女(ボーダーライン=境界性人格障害

かって性的搾取を受けた被害者が、加害者になってしまう

トリスターナは心臓発作を起こしたロペの部屋の窓を開け

雪混じりの冷たい風を入れ彼を見殺しにするのでした

f:id:burizitto:20211205214343j:plain

そしてロペの死をきっかけに、トリスターナの記憶は

16歳の、まだ健康で男のことなど何も知らなかった

あの日に戻ります

人格障害には辛い過去や不都合な事実を、記憶から消す機能がある)

だからといって、彼女の狂気が終わったかどうかはわからない

 

ブニュエルの作品はどれも禁断のテーマでスキャンダラス

精神疾患の考察をするのにも優れている

しかもそれを見事に全て煙にまき、謎めいたものにしてしまう

これが優れた芸術家の仕事というものなのか

f:id:burizitto:20211205214359j:plain

そして老残の哀れと、若くして障害者になった哀れ

どちらも惨めだけど、若いほうがその辛さが生涯長く続く

変態は考えることも、実は深かったりするのです(笑)

 

またもや貴重で素晴らしい傑作を見ることができ

しかも永久保存版

高知のリチャード・ギ・・ドラさんに感謝感激が止まりません(笑)

 

 

【解説】allcinema より

「昼顔」以上に変態的かつ美しいブニュエルとドヌーヴのコンビ作は、20年代末のスペイン、トリエステを舞台に、伝奇的に始まる。16歳のトリスターナは両親に死なれ、母の知人の初老の没落貴族ドン・ロぺに引きとられる。彼女を“女”として見る義父を無意識下に恐れ、ある日教会の鐘楼に登った娘は、その夜、鐘になって揺れる彼の生首を夢にみる。はじめはドン・ロペの言いなりだったトリスターナだが、彼の留守の間に散歩に出、朽ちかけた僧院の庭で絵を描く若き画家オラーシオに心魅かれ、青年も美しい彼女を見初める。やがて露骨に義父の求めを拒絶するようになったトリスターナは青年と駆け落ち。が、残されたドン・ロぺが、きっと戻ってくる、と呪詛した通りに足を病んだ彼女は二年後、彼のもとに舞い戻り、片足を切断して、彼と結婚する。しかし、ある夜、発作を起こした夫の部屋の窓を開け放ち雪混じりの風を入れ、冷然と彼を見殺しにするのだった……。愛なき結婚の孤独を、片足のない裸体を口のきけぬ下男に晒すことで表現するシーン。ブニュエルの演出は凄絶極みである。