双頭の鷲(1947)

 

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「僕はあなたを幸せにすることはできない」
「しかし僕らは紋章にある双頭の鷲になれる」

原題も「L' AIGLE A DEUX TETES」(双頭の鷲)
三島由紀夫が絶賛したというこの作品
1898年に起きたエリザベート(オーストリア皇后)暗殺事件をヒントに
ジャン・コクトーが愛人ジャン・マレーのために書き上げた戯曲の映画化
どんな役がやりたいかという問いにジャン・マレー
「1幕は沈黙、2幕は饒舌、3幕目は階段落ち」と答えたそうです

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舞台はフランス共和国が管理するヴィジル城
城内の装飾から王妃の衣装、端役の身のこなしまでが本物のようで違和感なく
コクトーの美学を感じ取れます
際立ったのは王妃役のエドウィジュ・フィエールの迫力ある演技力
国王を亡くし国を治める美貌の王妃と、そそのかされて王妃の刺客にされた男
身分の違うふたりに、崇高に気高く、詩的に美しく、死を匂わせる愛が生まれ
一筋縄に行かない悲しい結末が訪れるのです

【ここからネタバレあらすじ】

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19世紀末のヨーロッパのある国で、黒いヴェールを覆り続る王妃がいました
太后から派遣された朗読係のエディス嬢だけが王妃の素顔を見れるひとり
王妃は皇太后との権力争いから逃れるためクランツ城に避難しますが
太后の僕の警察大臣フォーン伯爵やスパイたちに囲まれ誰も信じれません

国王の十年目の命日に開かれた夫を偲ぶ晩餐会で
多くの招待客が招かれても、王妃は部屋にこもりきり
嵐の夜にもかかわらず窓は開けたままで「誰も通さないよう」とエディス嬢に命じます
婚礼の日に暗殺された国王の亡霊とワインを飲み、食卓を囲む

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その時フレデリック王とそっくりな男が、窓から飛び込んできました
願いが叶ってフレデリックの幽霊がやってきたと思った王妃
男は傷を負っており、スタニスラスと名乗りそのまま倒れ込みました
彼は無政府主義の活動家で、王妃を誹謗する詩を出版したことがあり
王妃暗殺を狙う容疑者でした

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王妃は(黒人で口の利けない)唯一信頼できる側近にスタニスラスの世話を頼みます
翌朝スタニスラスは国王の衣装を着せられ、王妃は射撃の練習をしていました
スタニスラスに銃を与え射撃の腕前を見ると、死を望んでいた王妃は
権力を握ろうと企むフェーン伯爵が、王妃を暗殺するため国王と瓜二つの
スタニスラスを利用し城に送りこんだのに、なぜすぐに殺さないと
自分を殺すための猶予を3日間与え、朗読係として仕えるように命令します

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皇族でありながら自由主義を主張する王妃にスタニスラスは驚き
王妃の思想や、考え方や、強い精神力に感動し、なによりその美貌
一瞬で王妃の虜になってしまいます

一方の王妃も一目見た時からスタニスラスを愛したと告白します
いかに孤独で死を望んでいたか、自殺するため首飾りには
飲んでしばらく時間が経つと死ぬという猛毒を隠しているという

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闇からやってきた男と、闇の中を生きてきた王妃
王妃はスタニスラスを山小屋に隠し、それから逃がすと提案します
スタニスラスはたとえ離れていてもふたりは「双頭の鷲」
「ひとつが死ねば、鷲は死ぬ」と王妃に愛を誓います

ふたりの会話を盗み聞きするエディス嬢や
国王そっくりのスタニスラスを見た城の従者たちにより
ふたりの関係は噂になり、スタニスラスは法廷に呼ばれます

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太后を摂政(せっしょう=君主制を採る国家において、君主が幼少、女性
病弱の場合君主に代わって政務を摂る職)にすることを目的にする
太后派のエディス嬢とフォーン伯爵は、王妃が遠乗で不在になった日
スタニスラスを人里離れた隠れ家のツリーハウスに呼び出します
フォーン伯爵は「 女王の力には限界があり、警察大臣の力には限界がない」と言い
王妃の皇太后への敵意によって起こされる混乱を防ぐため

王妃が民に素顔を見せ、首都に出発できるように協力しろと言います
スタニスラスには協力と引き換えに、自由を与えると
もし警察との連絡係を拒否するなら逮捕し冷酷な処罰を受けると警告します

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スタニスラスは法廷に山男の衣装を着て出廷し、王妃との身分の差を証明
裁判官は王妃と彼の間には、何も起こらないと解釈します
スタニスラスは王妃に法廷からの陰謀を晴らすため
民の前に姿を見せ、首都に戻るべきだと勧め王妃は承諾します

フォーン伯爵は王妃が首都戻る道中、王妃を暗殺する計画を進めますが
王妃は馬車には乗らず、武装し愛馬に乗り首都に向かうと宣言
王妃派の従者は慎重で、王妃の命令以外聞かないように伝言します
フォーン伯爵の計画が崩れる中

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スタニスラスはテーブルに王妃の毒の入った首飾りを見つけそれを飲みます
それを知った王妃は、スタニスラスに鞭を与え臆病者と呼び
身分の差をあからまさに侮辱します

王妃に態度を一変させられ怒りと悲しみにうちひしがれたスタニスラスは
庶民を挨拶をするためバルコニーを登る王妃の背中を短剣で刺してしまう
短剣は心臓に達し、王妃はスタニスラスに愛の言葉を囁きます
スタニスラスは王妃の死を望む決意が変わっていなかったことに気づき後悔する

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一瞬民衆の前に姿を見せた王妃は倒れ込み命尽き
差し伸べた手は繋がれることなく、スタニスラスは階段を転げ落ちます
「あなたを殺し僕のものにする」
「神よ 我らを受け入れ天国で結ばせたまえ」

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【ネタバレあらすじ終了】

 

これが古代王宮から変わらない階級社会
日本でいうなら、眞子さまと小室圭さん
たとえ純愛であっても、誰かの営利と目的でゴシップにされる
されはさておき

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ヌーヴェルヴァーグが生まれる前のフランス映画は「愛」に直球ストレート
これがコクトーの恋愛観だと思えてなりません
戯曲として作られているので、セリフが過多で集中力が必要とされますが
格式の高さを感じる古典名作のひとつでしょう

ジャン・マレーはのちにアクション俳優としても活躍したそうですが
確かにドルフ・ラングレンに似ている(笑)

 

 

【解説】映画.comより
美女と野獣」と同じくジャン・コクートが脚本を書きおろし、自ら監督した一九四七年作品。撮影は「旅路の果て」「血の仮面」のクリスチァン・マトラが監督、音楽は「美女と野獣」「ルイ・ブラス」のジョルジュ・オーリックが作曲、美術監督は「美女と野獣」「ルイ・ブラス」のクリスチャン・ベラール、装置担当も同様ジョルジュ・ヴァケヴィッチである。主演は「しのび泣き」「フロウ氏の犯罪」のエドウィジュ・フィエールと「美女と野獣」「ルイ・ブラス」のジャン・マレーが、コクトオ原作の舞台劇と同じく顔を会わせる。助演は練達のジャン・ドビュクール及びジャック・ヴァレンヌ、舞台にも映画にも活躍しているシルヴィア・モンフォール「ルイ・ブラス」のジル・ケアン、エドワード・スターリング、アブダラー等である。