まぼろしの市街戦(1966)

「最も美しいのは窓から出かける旅です」

 

原題は「Le Roi de Cœur」英題は「King of Hearts」(ハートの王様)

見終わってみれば「なるほど」と思うシーンや

深いセリフが多くあり

これほど(見る人によっては)汲み取れるものがある映画は

他にないかも知れません

第一次大戦中、占領していたフランスの小さな村を

放棄せざるを得なくなったドイツ軍は

村を破壊するための爆弾を広場に仕掛けます

そのことを知ったイギリス軍は

ひとりの兵士を偵察のため村に派遣すると

村に取り残された精神病院の患者たちから

「王様が帰ってきた」と祀り上げられ

若い娘との恋が実り、時限爆弾の解除にも成功するというもの

でも物語全般に、相当な皮肉が込められています(笑)

精神病院を抜け出した患者たちは

理髪師に、将軍に、貴族に、大司教娼婦に

それぞれが、なりたい自分になります

(末っ子のおじいちゃんが可愛いすぎる 笑)

 

職業も年齢の違いも、どちらかが上でも下でもない

しかも世の中には男と女しかいない

大切なのはお互いが尊重しあうこと

だけど全く押しつけがましくありません

最初はただのキチガイにしか見えないかった人たちが

だんだんと、むしろ彼らのほうが正しく思えてくる

無欲で知性があり、自分の立場をわきまえている

人生の楽しみ方も知っています

ヒロインは言う、爆発を恐れる王様に「死ぬときは無意識」

愛し合うのに「3分しかない」を「無限の3分」と

イギリス軍とドイツ軍の戦いには「ばかみたい」

 

だけど動物園の檻のなかで暮らすライオンと同じ

彼らには、そこから逃げ出しても生きて行けないルールがあるのです

1918年、フランス南西部の小さな村マルヴィル

深夜12時を知らせる時計仕掛けの甲冑人形が鐘を鳴らすとき

ドイツ軍の時限爆弾により村が破壊されることを知った

レジスタンスの理髪師は住民を避難させると

 

イギリス軍のスコットランド部隊に

「タラはフライが好き」「真夜中に騎士が飛び出す」と無線を送りますが

受け取った指揮官の大佐(アドルフォ・チェリは意味がさっぱり(笑)

そこで大佐は伝書鳩係の二等兵チャールズ・プランピック (アラン・ベイツ) に

フランス語が話せるというだけの理由で、村で理髪師に会い

無線の意味を確認するよう命じます

 

2羽の伝書鳩とともに村にやってきたプランピックは

早速ドイツ兵に見つかってしまい、ある建物に逃げ込むとそこは精神病院

クローバー公爵(ジャン=クロード・ブリアリ)と

デイジー司教(ジュリアン・ギオマール)と名乗る2人に

「貴方は?」と尋ねられ(どうせ正気じゃないからと)

「ハートの王(キング)」と答えるプランピック

患者たちは「王様」が来た大喜びし、「王様万歳」と大合唱

プランピックを追って来たドイツ兵がその様子を見て退散すると

プランピックは病院を飛び出し

ドイツが倒した電柱の電線に巻き込まれ失神します

彼が気を失っている間にドイツ軍は撤退

ドイツ兵が破った門扉から無人の村に出た患者たちは

思い思いの衣服を身に着け、仕事を始めます(笑)

 

プランピックが目を覚ますと(移動動物園?から逃げ出した)熊の姿

さらに(目的の理髪師のなりをした)マルセル(ミシェル・セロー)に

「タラはフライが好き」「真夜中に騎士が飛び出す」 と唱えます

しかしマルセルはさっぱり

次にチンパンジーとチェスをしている

ゼラニウム将軍(ピエール・ブラッスール)と名乗る男に尋ねても

何も知らない様子

 

精神病院のある場所に戻ったプランピックは

自分は「馬鹿どものキングだ!」と気付くと

爆発物が仕掛けられたのはこの村ではない

住人は変人ばかり、チンパンジーとチェス、熊を見た

という手紙を伝書鳩につけて飛ばし

次に「火薬庫はなくなった」という手紙を

もう一羽の伝書鳩つけて飛ばします

伝書鳩を見つけたドイツ兵が、鳩を撃ち落とすと

そこには「火薬庫はなくなった」と書かれていました

爆弾が解除されたと思ったドイツ軍は

爆弾を仕掛けなおすため2台の装甲車を村に送ります

 

逃げた鳩から伝言を受け取ったイギリス軍の大佐は

「住人は変人ばかり、チンパンジーとチェス、熊を見た」に

プランピックは頭がおかしくなったと

新たに3人の兵士を村に派遣します

マダム・エグランティーヌ(ミシュリーヌ・プレール)の

娼館にたどり着いたプランピック

エグランティーヌにが爆発の危機にさらされていると説明しても

彼女は「戦争という妄想捨てて今を生きましょう

大切なのは今と娘たちを呼びます

そのなかのひとり、コクリコ(ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルド)に

プランピックが目を奪われたことを、見逃さないエグランティー

プランピックをコクリコの部屋に案内し(といっても壁もない廃屋)

愛のならわしを手ほどきし、去っていくのでした

(昔はいたよなあ、こういうオバサン 笑)

ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルドは漫画から出てきたような

身体は成熟した大人なんだけど、清純無垢な童顔美女という

イマドキの日本人にも通用するような、男の子大好きなタイプ(笑)

 

コクリコとイイトコロになったとき

王様を探しに来たクローバー公爵に見つかってしまうプランピック

教会で戴冠式が行われると

クローバー公爵夫人(フランソワーズ・クリストフ)が

3人のわが子(年齢も性別も謎 笑)をキングに謁見させます

プランピックは公爵夫人にも、村が爆破されることを訴えますが

夫人は「キングは万能」だからと耳を貸しません

その時、村にドイツ軍の装甲車が現れ

プランピックは広場にある爆弾のありかを知ります

だけど爆弾を取り出す場所が(コンクリートで固められ)わからない

そこに3人のイギリス兵がやってきてプランピックは殴り倒されます

倒れたプランピックを運んだクローバー公爵らは

王様には王妃の救けが必要だと思いつき

エグランティーヌはぴったりな女性がいると

その夜、プランピックとコクリコの結婚式が行われます

 

用意された部屋で、コクリコは「抱かれたい」と打ち明けます

ふたりはキスし、窓の外を見つめると

時計塔の針は12時3分前を刺していました

コクリコが12時になると「時計台から騎士が飛び出すのよ」と教えると

 

「それだ!」

イムリミットは3分(まるでウルトラマン

プランピックは急いで時計塔に向かい

鐘の代わりに自分の頭を打たれ、時限爆弾を回避すると

 

勝利に浮かれたイギリス軍がやって来てお祭り騒ぎ

エグランティーヌの魅力の虜になった大佐が

彼女にいいところを見せようと「花火を打ち上げろ」と号令すると

兵士たちは天空に砲弾やら火薬の火花を散らし

遠方からそれを見たドイツ軍が、爆破に成功したと大喜び

(若きヒトラー伍長が一瞬だけ登場する芸の細かさ)

村に戻ったドイツ軍と、イギリス軍が鉢合わせになると

相討ち(当時は戦争にもルールがあった)により両軍とも全滅

ただひとり生き残ったプランピックは

やってきた連合軍から功績を称えられ、勲章を授けられると

次の任務のため連合軍とともに村を出て行ったのでした

 

プランピックを見送った患者たちは「そろそろ寝る時間だ」と

衣装を脱ぎ棄て、病院に戻り、自ら門扉に鍵をかけます

村人たちも全員戻ってきて元の暮らしを取り戻しますが

そこにプランピックが、どこからか伝書鳩のように帰ってきて

軍服を脱ぎ捨てると、全裸で病院の門扉の前に立ちます

そうして再び公爵や、司教や、コクリコたちとの幸せな瞬間を取り戻します

 

でもそれこそが、プランピックの妄想かも知れません

なぜなら次の12時には全て消えてしまうかも知れないからです

 

だけど美しい

なんという素晴らしい世界観

そして、DVDのお楽しみといったらなんといっても

他にはない特典映像を見れること

伯爵からのプレゼントにも、ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルドと

撮影監督のピエール・ロムのインタビューが収められていました

特に4Kリマスター版の制作にも参加したという

ピエール・ロムの語り口が印象的で

今だから語れる嘘と言いつつ、技術の進歩の良し悪し

監督で盟友でもあるフィリップ・ド・ブロカの興行不振による借金苦

映画の利権を安価でUAに売却してしまったこと

時を経てもなお、早すぎた傑作の切実さが伝わります

 

ひさびさの「お気に入り」を献上

 

 

【解説】映画.COMより

リオの男」「カトマンズの男」などで知られるフランスの名匠フィリップ・ド・ブロカが1967年に手がけ、戦争の狂気や愚かしさを笑い飛ばすかのごとく、ユーモアを交えて描いた名作。第1次世界大戦末期、敗走中のドイツ軍が、占拠したフランスの小さな町に時限爆弾を仕かけて撤退。進撃するイギリス軍の兵士プランピックは、爆弾解除を命じられて町に潜入するが、住民たちも逃げ去った町では、精神病院から解放された患者とサーカスの動物たちが解放の喜びに浸り、あたかもユートピアのような生活が営まれていた。プランピックは爆弾発見をあきらめ、最後の数時間を彼らとともに過ごそうと死を覚悟するが……。日本では67年に劇場初公開。2018年10月には4Kデジタル修復版でリバイバル公開。

1967年製作/102分/フランス
原題:Le roi de coeur
配給:パンドラ
劇場公開日:2018年10月27日

その他の公開日:1967年12月16日(日本初公開)