未来世紀ブラジル(1985)


徹底した政府の管理下に置かれ

20世紀の仮想国ブラジル

 

公開当時は中毒者たというカルト映画

テリー・ギリアム監督の最たる傑作といわれ

隠れファンも多い本作

レビューするのが緊張します(笑)

 

管理社会への風刺は、何度も使い古されたテーマですが

とにかく世界観が凄

 

ユーモアがあるというか、ふざけていえるというか

セットはハリボテみたいでチープ(笑)

しかも悪趣味
 

だけど不思議と印象に残るシーンが多く

エンディングもギリアム節な強烈さでよろしい

 

クリスマスの夜に起こった爆発テロの容疑者

タトルロバート・デニーロ)の名前が

役人が叩き落した一匹のハエによってコンピューター誤動作をおこし

書類に「バトルと打ち間違えられ

無実で善良な市民、バトル氏が連行されてしまいます

 

バトル氏上階に住むトラック運転手ジル(キム・グライスト)

情報省に抗議に行きますが書類さえ提出できないでいました

情報省に勤めるサム(ジョナサン・プライス

夢(妄想)に出てくる美女が、ジルとそっくりであることに気が付きます

 

そんなときサムの家のダクトが故障し、修理を頼みますが
やってきたのはフリー(無免許)の修理屋で

当局からテロリストとして追われている「タトル」でした

 

次にはセントラル・サーヴィスの係員が勝手に入り込み

タトルにやらせたと怒り、ダクトをめちゃくちゃにしていきます

 

デ・ニーロを修理屋の端役で使うなんて、なんて贅沢

しかもこれが最高にマッチしてるんです

でも本人は、拷問役のほうを希望していたそうです

(そちらのデ・ニーロも見たかったですケド)

 

サムに仕事をまかせっきりの上司(イアン・ホルム)は

「容疑者は逮捕にかかった経費を負担しなければならない」

という理由で、バトル氏の未亡人から検束費用を集金していました

 

中世ヨーロッパの頃から「魔女狩り」など火あぶりの刑に処された場合

薪代、執行人の手当て等を(冤罪にもかかわらず)

処刑される側が払うというシステムが確立されていたそうです

(なんて理不尽な)

 

しかしその金額が多すぎたため、超過分の払いもどし小切手を

サムがバトル夫人に届けに行くことになりました

そこでジルを見つけます

 

感受性や、自分の思考を主張するというような

人間の魂の部分をずっと隠して生きて来たサム

ジルとの出会いは、そんな屍のような人生に刺す光でした

 

サムはジルの情報を得るために、情報省検束局への昇進を承知します

そこで白衣を血だらけにし旧友のジャック(マイケル・ペリン)から

バトルの誤認逮捕を隠蔽するため、ジルを拘留すると聞きます


サムは「僕にまかせてくれ」と

再び情報省に抗議に来ていたジルを連れ出しますが

なかなか彼女はサムを信用してくれません
しかもデパートでの爆弾テロに巻き込まれてしまい

サムとジルは別れ別れになってしまいます

 
 
ジルと再会したサムは、楽しい一夜を過ごしますが

翌朝、サムは反逆罪で逮捕され、剥奪局の拷問室の椅子に座らされ

不気味な仮面をつけたジャックが拷問を始めようとしたその時

ジャックは撃たれ、タトルと仲間が現れサムを助けるのです

 

タトルがそっとメカを操作し、係員に汚物を浴びせる

その間にサムはジルが運転するトラックで走り去って行く・・・
 

そこでカメラは拷問室に戻ります

ジルはすでに射殺されており

すべては拷問に耐えかねたサムの空想だったのです

廃人になったサムは「ブラジル」のメロディを口ずさむ

 

テリー・ギリアムの先見の明というか、これは

政府が用意したシステム、役割、手続きのみが優先された国

 

そして政府や国連が正義を行使するためには、犯罪者が必要なのです

そうなれば、ある意味テロリストも公務員と同じようなもの

単に勢力の強いほうが政治で、勢力の弱いほうがテロリスト

反体制に対する爆破、銃撃、拷問、人殺し、やっていることは同じ

しかもどちらも、罪のない人間ばかりが巻き込まれるのです

 

そんな現実世界からから逃れ、それとは対照的な夢の世界で自由に生きる

無機的なシステムに愛のために反逆する
 

・・中二病と言ってしまえばそれまでなのですが(笑)

 

ギリアム監督のブラックには相性があるでしょうし

独特の斜めに傾けたカメラにも、向き、不向きがあると思いますが

これは私の好きなグロテスクとユーモラス

 
 
よく比べられがちな「時計仕掛けのオレンジ」(1962)や

ブレード・ランナー」(1982)より好きかも知れない

 

この独特の不思議キモ怖い魅力

「お気に入り」を献上させていただきます

 


【解説】allcinemaより

コンピュータによる国民管理が徹底した仮想国ブラジル。その情報管理局で、ある役人が叩き落としたハエによって、コンピュータ情報の一部が壊れてしまう。そしてその影響は、善良な靴職人をテロリストと誤認逮捕させる結果を生み出すが……。管理社会を痛烈に皮肉った、ファンタジックなSF近未来もので、題材としてはラングの「メトロポリス」を彷彿させるが、ギリアムはコミカルと暴力を混在させた独自の演出により差別化に成功。やがて犯罪者として洗脳されていく主人公の恐怖を、夢と現実を交錯させ、生々しくも幻想的に描き出している。忘れた頃に現われるデ・ニーロ扮する修理屋の使い方も的確で、作品に広がりを与えている。