ゼロ・ダーク・サーティ(2012)


タイトルは軍事用語で午前030分のこと
 
2001年の同時多発テロからCIAアルカイダ対策チームが
ビンラディンの居所をつきとめ2011年の殺害作戦までを描いた本作
実話ベースの社会派映画で商業的な娯楽性は一切ありません
 
しかし100%実話かと言えばそうではなく
ビンラディン殺害作戦は2061年まで国家秘密
それまで真相は誰にもわからないのです
 

それでもリアルでしたね、特に拷問シーン
CIAによる「水攻め」の拷問はニュースにもなったので覚えています
それだけではない、ありとあらゆる角度から極限まで攻めていく
どんなスプラッタも平気な、さすがの私でも見るのが辛い
(それでも、まだてぬるいと抗議した上院議員もいたとか)
 

しかしそこまで相手を苦しめても、CIAが捕まえられるのは
運び屋や連絡係の小物だけ
その彼らを死ぬ寸前まで苦しめわずかな情報を引き出す
そしてそれをパズルのように組み立て、あとは想像力で補う
大物に近づくためにはあまりにもその空白部分が大きすぎる
 
 
そんな場所に配属されたCIAの女性分析官マヤ(ジェシカ・チャスティン)
最初は拷問に目を背けるものの、かなりのやり手らしい
陽気な(3児の母でもある)同僚が自爆テロによって殺されたのをきっかけに
ビンラディン殺害に執念を燃やすようになるのです
彼女が望むのは「逮捕」ではありません「殺してやる」
 
そしてついに大物に近づき、パキスタンにある要塞を発見します
完璧に包囲され、衛星からの画像でどうやら3家族が住んでいる
そのなかのひとつはオサマ・ビンラデインの家族なのか
どうしても証拠がつかめない
 

そこにビンラデインがいると確信しているマヤは
実行に向かって決断しない上司に対して業を煮やし
「何もしなかったというリスクを考えたか」と迫り
ついにネイビー・シールズの特殊部隊が動くことになります
銃撃戦などの生々しさはドキュメンタリーかと思うほど
 
しかもこれは非合法な暗殺なのです
 

テロリスト集団を追跡し、ついにビンラディンを殺して万々
莫大な国家予算をつぎ込んだCIAにとっては確かにそうでしょう
 
私もバカだから、首謀者といわれたビンラデインを倒せさえすれば
テロは減るのではないかと思った、だけど違った
殺せば殺すほど、テロは増えていくのです
 

目の前で両親を完膚なきまでに射殺された子どもたちは
間違いなく、やがてムジャヒディン(ジハドを行う人)になるでしょう
私だって両親がこんな無残な死に方をしたら復讐せずにいられません
 
 
監督は、史上初の女性によるアカデミー監督賞受賞のキャスリン・ビグロー
今時珍しく、無駄や甘さを一切感じず、揺ぎ無い信念を持って
映画を作っていることがわかります
(しかもジェームズ・キャメロンが結婚したということは相当気の強い女だな)
 
憎しみの連鎖、敵と味方は表裏一体
ここまでしないと「自由」を守れなくなってしまった
 
巨大な世界のはみだしっ子アメリ
 
 
何ものにも影響されない、自分の意志を持っている人が
ひとりで見るのにふさわしい秀作だと思います
 

【解説】allcinemaより

ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグロー監督&マーク・ボール脚本コンビが、米海軍特殊部隊“ネイビー・シールズ”によって遂行されたオサマ・ビンラディン暗殺をめぐる驚愕の舞台裏を、ビンラディン追跡で中心的役割を担ったCIAの若い女性分析官を主人公に描き出した衝撃の問題作。当事者たちへの入念な取材によって明らかとなったリアルな追跡作戦の行方をスリリングに描くとともに、10年にわたる勝者のない戦いの果てに辿り着いたアメリカのいまを見つめる。主演は「ヘルプ ~心がつなぐストーリー~」「ツリー・オブ・ライフ」のジェシカ・チャステイン
 巨額の予算をつぎ込みながらも一向にビンラディンの行方を掴めずにいたCIA。そんな手詰まり感の漂うビンラディン追跡チームに、情報収集と分析能力を買われたまだ20代半ばの小柄な女性分析官マヤが抜擢される。さっそくCIAのパキスタン支局へ飛んだ彼女だったが、取り調べの過酷な現実に戸惑いを見せる。そんなマヤの奮闘もむなしく捜査は依然困難を極め、その間にもアルカイダによるテロで多くの命が失われていく。そしてついに、マヤの同僚ジェシカがテロの犠牲になってしまう。以来、個人的な感情にも突き動かされ、これまで以上にビンラディン追跡に執念を燃やしていくマヤだったが…。