家族(1970)

 
 
 
「お前も元気でな、ひょっとすっと、これでもう会えんかもしれんばい」
 
 
山田洋次監督の隠れた名作「民子三部作」の第一作目
BSプレミアムで三部作続けて放映はありがたい
二度目の鑑賞、二度目のレビュー
 
 
最初のレビューは「星屑シネマ」を始めて間もない5年半前
 
このブログを始めたきっかけは
見た映画のストーリーと雑感を記録するための備忘録で
当時は1日の訪問者が10人にも満たないのがほとんど(笑)
 
もちろんブロ友もいませんしコメントもありませんでした
 
 
今でも訪問者が多いとはいえませんが(笑)
 
ブロ友さんの映画レビューは勉強になりますし
暖かいコメントに、やる気をいただき
感謝、感謝のひとことです
 
 
そしてこの5年の間に映画を見る着眼点もかなり変わりました
かってはストーリーの面白さだけにこだわっていたものが
カメラや、美術、自然や風景にも目を向けるという
向こう側の意味するものを感じるようになったのです
 
 
さて、「家族」に戻りましょう(笑)
 
1970年、長崎伊王島
 
家族の反対を押し切って、北海道の中標津開拓地に
酪農をやりに行くと言い出してきかない夫、風見精一井川比佐志
妻の民子(倍賞千恵子)は、家族全員で行こうと決心し
金貸しのエロ親父から色仕掛けで旅費を借ります
 
妻が金のために口説かれるのを、精一がじっと聞いているんですね
いくら夢を追いかけて、いいことを言っていても
いかに甲斐性のない男なのかがわかります
 
たくさんの近所の人々に見送られて出発
しかしおじいちゃん(笠智衆)の面倒を見てもらおうとあてにしていた
福山に住む弟(前田吟)からは、兄の身勝手さを責められます
おじいちゃんを北海道まで連れて行くと決意する民子
 
 
今でこそ、九州から北海道まではひとっ飛び
 
しかし当時は新幹線も新大阪~東京だけ
残りは急行列車の旅です
 
福山→大阪→東京→青森、フェリーで北海道
再び広い北海道を汽車で揺られる
日本版「世界の車窓から
 
大阪万博のリアルな喧騒は、役者以外は
実際に万博で展示されていたものと、訪れていた人々を撮った
実像の様子で、今では貴重な記録映像になっているということです
 

しかしその万博で迷子になり、路頭に迷い、疲労困憊
無理な行動がいけなかったのか、東京では
赤ちゃんを亡くすという悲劇の結果となってしまいます


カトリックの葬儀を早々と済ませる家族

しかし東北線に入ると、娘を亡くした悲しみが民子に押し寄せます
 
おっぱいを吸う姿を思いして泣いてしまう
なのに、それを責めるような精一の態度
 
 
だけどこんな駄目な夫でも、かっては好きで好きで
駆け落ち同然で一緒になった相手
そのときも、見守ってくれたのはおじいちゃんでした
 
 
八幡製鉄所や富士山を見て興奮する
冷えたビールを飲んで満面の笑みをこぼす
エスカレーターに乗るタイミングがつかめない
孫に「おまえはこじきじゃなかやろうが」と説教
開拓村のクワが抜けずに尻餅をつく
中標津の人々に出迎えられ、上機嫌で炭坑節
そしてそっと死んだおじいちゃん
 
 
赤ちゃんも、おじいちゃんも
もしかしたら人間は死ぬべき時を選んで
死ぬのかも知れません

 

 
男の仕事と夢、女の我慢
人間同士のやさしさと、人の自然な寿命
これが山田洋次監督のアプローチ
 
きっと監督のお母様は、夫や子どもが何をしても
愚痴も言わない、おおらかで暖かい苦労人だったのでしょう
そんな気がします
 

 
【解説】allcinemaより

高度経済成長期の日本を背景に、貧しい一家が開拓村へ移り住むため長崎から遙か北海道へ向かう長い旅の道のりを描いた異色ロードムービー。船や電車を乗り継いで行くその道中で、様々なトラブルや不幸に見舞われながらも家族の絆を拠り所に力強く生きていく姿が胸に響く感動作。監督は「男はつらいよ」シリーズの山田洋次。撮影に1年を掛け、日本列島縦断ロケを敢行。
 長崎の伊王島。貧しいこの島に生まれた民子と精一が結婚して10年の歳月が流れていた。小さな島で家族5人を養っていくことに限界を感じた精一は、自分の会社が潰れたのを機に、友人が勧めてくれた北海道の開拓村への移住を決心するのだった。