故郷(1972)


「給料が違う船長さんはずっと安い

労働が違う船長さんはずっと辛い

でも、船長さんは船長さんだ」

 

昭和3040年頃のリアルなノスタルジーに浸れる

涙が出るというのではないけれど、哀しい映画

海のダンプカーという稼業

 

瀬戸内海倉橋島

精一井川比佐志、民子倍賞千恵子の夫婦は石船と呼ばれている小船で

甲板一杯に積んだ石を、港の埋め立てに運び

船体を傾けて海中に落とす仕事をしていました

大型船やトラックが普及していく中、少ない給料で

ふたりの子供と、祖父(笠智衆)とで暮らしています

 

辛い仕事ですね、石船

妻の民子は機関長の資格を取り、男と同じ力仕事をし

家に帰れば子育てに家事

なのに精一は酒を飲み愚痴るだけ(笑)

 

そんな民子の苦労をねぎらう、魚屋の松下さん(渥美清

それがまた面白くない精一

昔はこんな面倒な夫ばかりだったのか(笑)

 

しかも石船エンジンの調子が良くない

修理には百万以上かかるかも知れないと大工はいいいます

そんな大金はありません

そのうえ修理してもいつまた壊れるかわからない

 

万策尽きた精一は、弟健次(前田吟)の言葉に従い

尾道にある造船所を訪れ、就職する決意をするのです

 
その帰り道が印象的

JR日本食堂のような場所でしょうか

就職が決まったからか、奮発して外食したのでしょう

洋食を頬張り、「はぁうまいのう」とため息をつく精一に

民子は、自分の料理を「半分食べんさい」と差し出すのには

グッときます

 

夫婦最後の仕事を終え、船を燃やす

旅立ちの日、おじいちゃんから離れない孫

 

「なんでこんないいところを、皆んな出ていかなければいけないんだろう」

 

地方の人間が敢えて都会を目指しているわけではなく

愛する故郷から出て行かざるを得ない現実

それは今でも大いにあることです

 
しかし精一のような人間が、会社員としてやっていくのは難しい

石船から降りても民子の苦労は続くでしょう

 


【解説】allcinemaより

瀬戸内海の小島に住む一家が、押し寄せる高度経済成長の波に追われ、それまでの慎ましくも幸せな生活を手放すまでの揺れ動く心情を哀惜をこめて描いた人間ドラマ。監督は“男はつらいよ”シリーズの山田洋次。瀬戸内海の小島、倉橋島。精一と民子の夫婦は石船と呼ばれる小さな砕石運搬船を生業としていた。夫婦は美しい自然に囲まれ、二人の子どもと清一の父親とともに、裕福ではないにしても楽しく満ち足りた日々を送っていた。そんな夫婦には最近ひとつだけ悩みがあった。長年仕事を共にしてきた大切な石船のエンジンの調子が思わしくないのだった……。