バベル(2006)




旧約聖書の「創世記」の中で、天に届く塔を建設しようとしますが
人間の傲慢に腹をたてた神により建設を妨られ
バベルの塔は崩れてしまいます
そして神は人間にバラバラな言葉をしゃべらせ
こらしめるという罰を与えます

つまりこの作品のテーマは
「言葉によるコミュニケーションの断絶」


これも悪意のない犯罪の物語でした
偶然が起こした重大な事故
そのことは国を超えて大きな波紋になります


ロッコの少年が起こした銃撃事件
被害にあったアメリカ人夫婦
その夫婦の子を預かるメキシコ人のシッター
銃撃で使われた銃の持ち主の日本人父子





それは父親が不在のとき、ヤギがジャッカルに襲われないようにと
兄弟に与えたライフルでした、兄弟は銃の腕比べをします
しかし弟が奇跡的に射撃がうまかったために
アメリカ人の乗る観光バスに見事命中してしまいました

撃たれた女性には幼い子どもがふたりいました
その子らを誰も預かってくれる人がいないシッターは
自分の息子の結婚式にメキシコまで連れていきます
結婚式は成功し、子どもたちも楽しみました
しかし帰りの国境で警備員に尋問され逃げ、砂漠に迷い込んでしまいます





東京、ろうあ者である高校生チエコのもとに警察が父を訪ねてきます
母親は自殺しており、またその捜査かと思ったチエコ
友人と遊びに行き下着を脱ぎ男の子に向かって股を広げる
ウィスキーとドラッグを躊躇無く飲み、中指を突き立てる
年上の歯医者や警察官を誘惑する
相当特殊なタイプの女の子

日本の物語だけが、やや孤立しているのですが
これこそが、本作のテーマを一番よく現わしているのではないかと思います

チエコはろうあ者であるという
コミュニケーションの不全を打開するために背伸びをし
性によって男性と交流を得ようとしますが叶いません
そして自分の行うその行為が、段々と悲しみにかわっていきます





無名だった菊池凛子さんはアカデミー賞助演女優賞ノミネートされました
確かに存在感は、ブラピやケイトよりも大きく見えました

ただ日本人が狩猟のため、銃を携えて飛行機で外国に行くことは
はたして可能なのでしょうか
母親が自殺した銃と、少年が襲撃した銃が同一だろうという設定も
どうつなげたらいいのか
ここは正直、銃社会でない日本人が辻褄をあわせることは難しいです


兄を守るために警察官を撃ってしまう少年も
不法就労で強制送還させてしまう親切なだけのシッターも
軽率な行動を後悔し、苦しみ、大切なものを失ったことに気づいた時には
もう遅いのです、取り返しがつくことはありません

だけどその愚かな不完全さに、胸を打たれるのです
絶望という名の憧れと美しさ


だだ姉の裸を覗き、自慰するモロッコの少年と
チエコと父親の関係が、近親相姦的に見えてしまうため
(それが母親の銃身自殺の原因と思われる)
正直見終わったあとの感触は良くありません

私は変態に相当寛容なほうだと自分でも思いますが
近親相姦と幼児趣味だけはどうも受け付けません
理由は同意でなく、一方の快感のためだけの欲求に思えるからです
(そんな私の変態考など、どうでもいいんですけど 笑)





海外では評価が高いものの、日本では賛否両論別れたという本作
確かに女子高生が、ミニスカートをはいていることが
中身を見せたいのかと思われているような描き方ですし
若い男の子のチャラチャラぶりにも、不快感を感じて当然だと思います

でも外国人から日本人が、そう見えてしまうのも「バベル」なのです
監督の伝えたい意図は成功したと思います
ブコメやヒューマンドラマが好きな人を納得させる映画でないのです
世の中の理不尽を描いているのだから


そんな理不尽を描いたものとしては、かなりの秀作に間違いありません
ただ3作品まで見て、イニャリトゥと私の変態があわないということは
なんとなくですがわかりました
(そんな私の変態考など、どうでもいいんですけど Part2 笑)



【解説】allcinemaより
アモーレス・ペロス」「21グラム」の俊英アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が、旧約聖書の“バベルの塔”をモチーフに描き出す衝撃のヒューマン・ドラマ。モロッコアメリカ、メキシコ、日本、それぞれの場所で孤独な魂どうしが織りなす愛と哀しみ、再生への希望の物語が同時並行で鮮やかに綴られていく。日本から役所広司とともに参加した菊地凛子が各国の映画賞レースを賑わせ日本でも大きな話題となる。
 モロッコ。山羊飼いのアブドゥラは知り合いから一挺のライフルを買い、それを山羊に近づくジャッカルを追い払うためとして息子の兄弟アフメッドとユセフに与えた。すると、兄弟は遠くの標的めがけて遊び半分で射撃の腕を競い合い、ユセフが険しい山間部を走ってくる一台のバスに引き金を引く。そのバスには、一組のアメリカ人夫妻リチャードとスーザンが乗り合わせていた。彼らは、生まれて間もない3人目の子供を亡くしたことがきっかけで壊れかけた絆を取り戻そうと、2人だけで旅行にやってきた。ところが、どこからか放たれた銃弾が運悪くスーザンの肩を直撃。リチャードは血まみれの妻を抱え、医者のいる村へと急ぐ。一方、夫妻がアメリカに残してきた幼い子供たちマイクとデビーの面倒をみるメキシコ人の乳母アメリア。息子の結婚式に出るため帰郷する予定が、夫妻が戻らず途方に暮れる。やがて彼女は仕方なく、マイクとデビーも一緒に連れてメキシコへと向かうのだった。日本。妻が自殺して以来、父娘関係が冷えきっている東京の会社員ヤスジローと女子高生になる聾唖の娘チエコ。またチエコは満たされない日々に孤独と絶望を募らせていた。そんな中、モロッコの事件で使用されたライフルの所有者として、ヤスジローの名前が浮かび上がる…。