静かなる叫び(2009)

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「これはカナダの事件 」と全米ライフル協会会長は言った

 

原題は「POLYTECHNIQUE」(ポリテクニック)で

日本でいう工業大学や職業大学のこと

1989年に起きたモントリオール理工科大学虐殺事件がモデル

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昔、ある宗教に傾斜している友人に訪ねたことがある

(自殺する人は)死にたかったら勝手にひとりで死ねばいいものを

どうして(電車に)飛び込んだり、飛び降りたり

他人を巻き込んだり、迷惑をかける死に方を選ぶのか、と

 

彼女の答えはこうだった

「自分が死ぬ理由を、多くの人に知ってもらいたいからよ」

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スタイリッシュなモノクロ映像

若い女性たちが大量にコピーしているのに時代を感じる

 

そこに突然銃声と悲鳴が響き辺りは血だらけ

苦痛に気付く暇もない

何が起こったのかもわからない

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自殺願望に見える青年がライフルを眉間に当てている

丁寧にベッドメイクをし、汚れ物の後片付けをする

フェミニストを訴える遺書らしい手紙を書いている

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ヴァレリーは航空会社のエンジニアの面接を受ける予定で

ルームメイトで親友のステファニーが励ましています

しかし面接官に「子どもを産んで退職されたら困る」という

厳しい言葉を突き付けられ落ち込んでしまいます

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とはいえ、ヴァレリーは優秀な成績なのでしょう

同じ講義を受けているジャン=フランソワは難題を解くため

彼女にノートを借してもらいます

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いつもと変わらない大学での1

学生たちと変わらない風貌の犯人は

難なくヴァレリーやジャン=フランソワが講義を受けている教室に入り込み

男子学生を教室から追い出し、女子だけに銃を乱射します

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教室を出た犯人はその後も女性だけを狙い、廊下やカフェを通り抜け

そろそろ弾がなくなったのか、自分の頭を撃ち抜き自殺するのです

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ドゥニ・ヴィルヌーヴらしく、時間軸が前後していて

現在も過去も同時に存在しているように描かれています

脳内タイムとでもいうのでしょうか

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「反フェミニズム」ある所にはあるんですね

犯人はカナダ軍入隊の申請を却下されたり

モントリオール理工科大学に入学できなかったことを

フェミニストのせいだと信じ込みフェミニストを憎んでいました

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フェミニスト」とは「女権拡張論者」のことで

「反フェミニズム」とはその思想や運動に反対する人のこと

女嫌い””女性嫌悪””女性蔑視”を意味する「ミソジニー」とは別で

どちらかといえば、女は子どもを産んで家族の世話を家でするべきという考え

80年代はまだこういう考えが通っていたよな)

ちなみに「フェミニスト」を”女性を大切にする”という意味で使うのは

日本だけということです(和製用法というらしい)

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事件後のクリスマス、実家に帰ったジャン=フランソワ

母自慢のケーキを美味しいと食べた後吐いてしまう

どうしてあの時犯人を止めなかったのだろう

なぜ教室から出てしまったのだろう

思いつめて、思いつめて、自分を責める

まるで被害女性たちが死んだのが、自分の責任のように

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ヴァレリーは髪を金髪に染め、恋人と暮らしています

いまだ悪夢にうなされ、その朝はトイレで吐いてしまった

念願の航空会社に就職して男性の中で働いているようですが

妊娠検査薬で陽性反応が出てしまいます

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彼女は仕事との両立という不安な気持ちに苛まれながらも

新しい命と向き合います

男の子には博愛を、女の子だったら世界は彼女のものだと伝えようと誓う

それが反フェミニズム(犯人も、会社も)に対するヴァレリーの答え

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同じ死の恐怖に直面し、悩み苦しみながらも

再生できなかった者、再生しようとする者

女は男より強いというのか

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エンタメとしてなら、もうひとつ何かエピソードを加えるところを

あえてそうしなかったのが、この作品のすごいところ

 

最後までシンプル

追悼のエンディング

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そして思想に憑りつかれた男の残虐な魂と

若く美しい女性の血と、不幸な死体を描くことによって

ひとつの芸術作品を完成させたのです

 

 

 

【解説】KINENOTEより

ドゥニ・ヴィルヌーヴモントリオールの大学で起きた銃乱射事件を映画化したドラマ。1989126日、大学構内で銃乱射事件が発生。重傷を負った女子学生ヴァレリーと、負傷者を救った男子学生ジャン=フランソワは、心に深い傷を抱えることに……。出演は「ターニング・タイド 希望の海」のカリーヌ・ヴァナッス、「灼熱の魂」のマキシム・ゴーデッド。ヴィルヌーヴアカデミー賞外国語映画賞候補となった「灼熱の魂」に先駆けて手掛けた作品。

1989126日、モントリオール。理工科大学に通い、就職活動中の女子学生ヴァレリー(カリーヌ・ヴァナッス)とその友人ジャン=フランソワ(セバスティアンユベルドー)が、いつも通りの生活を送っていたその日。平穏な日常が突然、恐怖に染まる。ライフル銃を手にした男子学生の1人が、女子学生目がけて次々と発砲し始めたのだ。容赦ない銃撃に逃げ惑う学生たち。犯人は14人もの女子学生を殺害した挙句、自殺を図る。重傷を負いながらも生き残ったヴァレリーと、負傷した女子学生を救ったジャン=フランソワ。心に深い傷を負った2人は、その後も続く非日常の中でもがき苦しみ、戦い続けるが……。