「これはカナダの事件 」と全米ライフル協会会長は言った
原題は「POLYTECHNIQUE」(ポリテクニック)で
日本でいう工業大学や職業大学のこと
1989年に起きたモントリオール理工科大学虐殺事件がモデル
昔、ある宗教に傾斜している友人に訪ねたことがある
(自殺する人は)死にたかったら勝手にひとりで死ねばいいものを
どうして(電車に)飛び込んだり、飛び降りたり
他人を巻き込んだり、迷惑をかける死に方を選ぶのか、と
彼女の答えはこうだった
「自分が死ぬ理由を、多くの人に知ってもらいたいからよ」
スタイリッシュなモノクロ映像
若い女性たちが大量にコピーしているのに時代を感じる
そこに突然銃声と悲鳴が響き辺りは血だらけ
苦痛に気付く暇もない
何が起こったのかもわからない
自殺願望に見える青年がライフルを眉間に当てている
丁寧にベッドメイクをし、汚れ物の後片付けをする
反フェミニストを訴える遺書らしい手紙を書いている
ヴァレリーは航空会社のエンジニアの面接を受ける予定で
ルームメイトで親友のステファニーが励ましています
しかし面接官に「子どもを産んで退職されたら困る」という
厳しい言葉を突き付けられ落ち込んでしまいます
とはいえ、ヴァレリーは優秀な成績なのでしょう
同じ講義を受けているジャン=フランソワは難題を解くため
彼女にノートを借してもらいます
いつもと変わらない大学での1日
学生たちと変わらない風貌の犯人は
難なくヴァレリーやジャン=フランソワが講義を受けている教室に入り込み
男子学生を教室から追い出し、女子だけに銃を乱射します
教室を出た犯人はその後も女性だけを狙い、廊下やカフェを通り抜け
そろそろ弾がなくなったのか、自分の頭を撃ち抜き自殺するのです
ドゥニ・ヴィルヌーヴらしく、時間軸が前後していて
現在も過去も同時に存在しているように描かれています
脳内タイムとでもいうのでしょうか
「反フェミニズム」ある所にはあるんですね
犯人はカナダ軍入隊の申請を却下されたり
モントリオール理工科大学に入学できなかったことを
「フェミニスト」とは「女権拡張論者」のことで
「反フェミニズム」とはその思想や運動に反対する人のこと
”女嫌い””女性嫌悪””女性蔑視”を意味する「ミソジニー」とは別で
どちらかといえば、女は子どもを産んで家族の世話を家でするべきという考え
(80年代はまだこういう考えが通っていたよな)
ちなみに「フェミニスト」を”女性を大切にする”という意味で使うのは
日本だけということです(和製用法というらしい)
事件後のクリスマス、実家に帰ったジャン=フランソワ
母自慢のケーキを美味しいと食べた後吐いてしまう
どうしてあの時犯人を止めなかったのだろう
なぜ教室から出てしまったのだろう
思いつめて、思いつめて、自分を責める
まるで被害女性たちが死んだのが、自分の責任のように
ヴァレリーは髪を金髪に染め、恋人と暮らしています
いまだ悪夢にうなされ、その朝はトイレで吐いてしまった
念願の航空会社に就職して男性の中で働いているようですが
妊娠検査薬で陽性反応が出てしまいます
彼女は仕事との両立という不安な気持ちに苛まれながらも
新しい命と向き合います
男の子には博愛を、女の子だったら世界は彼女のものだと伝えようと誓う
それが反フェミニズム(犯人も、会社も)に対するヴァレリーの答え
同じ死の恐怖に直面し、悩み苦しみながらも
再生できなかった者、再生しようとする者
女は男より強いというのか
エンタメとしてなら、もうひとつ何かエピソードを加えるところを
あえてそうしなかったのが、この作品のすごいところ
最後までシンプル
追悼のエンディング
そして思想に憑りつかれた男の残虐な魂と
若く美しい女性の血と、不幸な死体を描くことによって
ひとつの芸術作品を完成させたのです
【解説】KINENOTEより
ドゥニ・ヴィルヌーヴがモントリオールの大学で起きた銃乱射事件を映画化したドラマ。1989年12月6日、大学構内で銃乱射事件が発生。重傷を負った女子学生ヴァレリーと、負傷者を救った男子学生ジャン=フランソワは、心に深い傷を抱えることに……。出演は「ターニング・タイド 希望の海」のカリーヌ・ヴァナッス、「灼熱の魂」のマキシム・ゴーデッド。ヴィルヌーヴがアカデミー賞外国語映画賞候補となった「灼熱の魂」に先駆けて手掛けた作品。
1989年12月6日、モントリオール。理工科大学に通い、就職活動中の女子学生ヴァレリー(カリーヌ・ヴァナッス)とその友人ジャン=フランソワ(セバスティアン・ユベルドー)が、いつも通りの生活を送っていたその日。平穏な日常が突然、恐怖に染まる。ライフル銃を手にした男子学生の1人が、女子学生目がけて次々と発砲し始めたのだ。容赦ない銃撃に逃げ惑う学生たち。犯人は14人もの女子学生を殺害した挙句、自殺を図る。重傷を負いながらも生き残ったヴァレリーと、負傷した女子学生を救ったジャン=フランソワ。心に深い傷を負った2人は、その後も続く非日常の中でもがき苦しみ、戦い続けるが……。