ミニヴァー夫人(1942)

 
イギリス流プロパガンダ映画、「教育勅語
教育勅語キリスト教の倫理綱領は同じという説もあるそうです)
チャーチル首相も絶賛したという本作
 
とはいえ名匠ワイラーだけに、破たんすることなく
ジョセフ・ルッテンバーグのカメラも逸品で
モノクロームなのにキラキラと輝く映像は美しく
 
同年公開された「心の旅路」でもヒロインの
グリア・ガースン(38歳)がとても綺麗で
テレサ・ライトもチャーミング
女性美を撮るのが非常にうまく、オスカーも納得します
 
 
ミニヴァー夫人の家は、幸福な中流家庭
新種のバラの名前にもなるほど、夫人は町一番の美人
国への忠誠心が強く、家族も守る頼りがいある夫
可愛い子どもたち
お買い物で欲しいものを手に入れるのは、平和の象徴
 
ある日、大学生の長男ヴィンが帰ってきて、理想論を唱えているところに
上流家庭の令嬢キャロルが、毎年祖母が優勝しているバラの展覧会に
「ミニヴァー夫人」のバラを出品しないで欲しいとやってきます
 
そのことでヴィンとキャロルは口論になってしまいますが
実はお互い一目惚れ(笑)
あっという間に恋仲になってしまいます
 
そんな中、ナチスドイツの侵略は迫り、ヴィンは空軍に志願を決意
同時にキャロルとも婚約、すぐに結婚もします
しかし幸せもつかの間、新妻は機銃掃射の餌食になってしまうです
 
 
 
冒頭での妻は帽子が、夫は車を購入するシーンが
「戦争の原因」は何かというシークエンスになっているそうです
イギリスの当時の豊かな生活は、植民地支配、ブロック経済
そしてドイツの戦争賠償金によるものだったのです
この不平等が、第二次世界大戦が勃発した根本にはあったのです
 
 
でも、一番良かったのはやはり(戦争と関係ない)
階級意識にとらわれた頑固な老婆が、素直になり
駅長のバラに賞を与えるシーンでしょう
ワイラーの素敵演出が冴えています
 
 
アカデミー賞作品賞、監督賞、主演女優賞、助演女優賞
脚色賞、撮影賞(白黒部門)の6部門と
アーヴィング・G・タルバーグ賞を受賞
 
映画としては名作に間違いありません
ただ今の時代、戦意高揚映画に共感するのは
なかなか難しいのではないかと思います
 
官邸ではどうかわかりませんけれど
 
 
 

【解説】allcinemaより
大戦参入の時局に応じ、アメリカ市民にヨーロッパのごく平凡な中流家庭の戦いぶりを伝えようと企画された、ワイラーのMGM作品。同年の「心の旅路」の主演でトップ・スターとなるガーソンの気品と、やはり同作でも脚本を手がける、J・ヒルトン以下英国を代表するライターが醸す市井の生活描写の味は買えるが、そののどかさを戦意昂揚にもってくのにはムリがある、と言うより勿体ない気がした。最初からもっと不安が塗り込められていれば後の展開もいたしかたなしと思えたろうに、映画は、派手な帽子に贅沢した夫人と、新車を衝動買いしたご亭主の微笑ましい、互いの無駄遣いの告白で始まる。彼らは翌日、大学から帰省した長男ヴィンを迎えるが、彼は若者らしい社会主義に目覚めて階級批判をぶつ。その矛先は当地随一の名門ペルドン家に向かい、その孫娘キャロル(ライト)がミニヴァー家を訪問した折に、彼女相手に大激論。普段つきあいのない彼らを訪ねたわけは、例年祖母が主催する花の品評会でバラの部門は彼女の独擅場であるのに、今年は駅長のバラード氏(H・トラヴァース)が自作を出品しようとしているからそれを諫めて欲しい由。その花の名が“ミニヴァー夫人”だから、夫人の説得なら聞くであろうと言うのだ。このバラをめぐる挿話は、誰からも好かれる夫人の人柄を端的に表し好ましいのだが、以下、キャロルと恋仲になったヴィンの空軍入隊、夫の自前ボートでの民間防衛、夫人が逃亡ドイツ兵を“御用”とするくだりは急転直下にすぎる。ただ、ヴィンを飛行場に送って機銃掃射に遭い、キャロルが死ぬあたりは、ワイラー演出のうまさが光った。バラもよいが、もう少しこの緊迫感で押せば、最後のお説教の嘘臭さも緩んだはず。夫にはガーソンともども銃後スターだったピジョン。長男役のネイとガーソンがこの共演で結婚した(4年後に離婚)という後日談あり。