「もう、飛べたんだ」
原題は「Showing Up」(現れる)
個展を間近に控えた人形陶芸家のフラストレーション
評価の高い作品ですね
登場する彫刻は映画の舞台でもあるポートランド在住のアーティストで
ケリー・ライカートが長年フォローしている
シンシア・ラハティCynthia Lahti(@cynthialahtiartist)により制作されたもの
ヒロインを演じたミシェル・ウィリアムズは
彫刻のトレーニングで創作意欲に目覚め(笑)
撮影が終わるまでに工房内を歩くのが困難になるくらい
多くの作品を作ったそうです
(ポートランドは芸術の街として有名なのだそうです)
リジー(ミシェル・ウィリアムズ)は美術専攻の学生たちに混じり
母親と共に事務の仕事を務める傍ら、人形の陶芸作家をしていますが
個展が近いというのに制作がままならずイライラ
給湯器が壊れお湯が出ないためシャワーを浴びれずイライラ
大家で隣人の芸術家ジョー(ホン・チャウ)に修理を頼んでも
一向に直してくれずイライラ
さらに年下のジョーに天才的な才能がありイライラ
飼い猫が鳩を部屋に連れ込み噛み殺そうとしてイライラ
窓から放り投げた瀕死の鳩をジョーが救って手当て
その鳩の面倒を押し付けられてイライラ
でも怪我をさせたのが飼い猫で、自分がちりとりで捨てたと言えず
鳩の様子が気になってしょうがない
この女性特有のイライラやモヤモヤは、なんとなくわかりますね
今日こそ「やるぞ!」と思っても、何かしら邪魔が入る
陶芸家の父親(ジャド・ハージュ)は仕事もせず
ヒッピー風の見知らぬ旅人を家に泊めているし
兄はコミュ障で引き籠り
大地アート?にのめり込みリジーを心配させますが、母親は呑気なもの
常に喉元に骨が刺さったような状態なのです
リジ-とは対照的に、ジョーは自分がやるべき優先順位がわかってる
それは庭にタイヤブランコを吊るすことだったりもするけれど(笑)
リジ-に給湯器を直してと文句を言われても気にしない
今力を入れるべきところはそこじゃないのです
しかも不動産による収入があり
他で働かずとも制作に打ち込めるという恵まれた環境
作品作りにおいても、ジョーは思い切りがある
編み物作家などほかのアーティストとも協力して作品を作り上げます
一方のリジーはひとり部屋にこもり、綿密にラフを繰り返して作品を作る
しかも半分焦げた作品が出来上がり、納得はいかないものの個展で発表します
(不完全に見えるのは彼女自身の象徴なのだろうな)
個展は大学の仲間や、友人や知人たちにより盛況を迎え
(主催者はワインや食事を提供しなくてはならないんだな)
兄も無事に来てくれました(リジーが心配するほど実は病んでない)
そして来場していた子どもたちが鳩の包帯をほどくと
(鳩が作品を壊してしまうオチかと思った 笑)
鳩はギャラリーを飛び出し大空へ舞い上がっていったのです
同時にリジーの燻ぶっていた気持ちもどこかへ飛んでいきました
給湯器も直してもらったことだし、ゆっくりお風呂に入ってね
些細な幸せこそ実は重大で、本当に大切なんだなと思わせる
「ミラマックス」と入れ替わるように台頭した「A24」を象徴するかのように
映画界も映画のストーリーも、白人男性優位な状況から一転
ケリー・ライカートも苦境を超え、時代の波に乗った監督のひとりですね
ただ「これが面白い映画だ!」の観念が長年刷り込まれているので(笑)
見終えたあとのスッキリ感はいまいちかも知れません
【解説】映画.COMより
「ウェンディ&ルーシー」などで知られ、アメリカ・インディーズ映画界で高く評価されるケリー・ライカート監督が、ミシェル・ウィリアムズと4度目のタッグを組んだ作品。芸術家の女性の思うようにならない日常や周囲の人々との関係を、時に繊細に、時にユーモラスに描く。
美術学校で教鞭を取る彫刻家のリジーは、間近に控えた個展に向け、地下のアトリエで日々作品の制作に取り組んでいる。創作に集中したいのにままならないリジーの姿を、チャーミングな隣人や学校の自由な生徒たちとの関係とともに描いていく。
主人公のリジーをウィリアムズが演じた。共演に「ダウンサイズ」「ザ・ホエール」のホン・チャウ、ライカート監督の「ファースト・カウ」に主演したジョン・マガロ、ラッパーのアンドレ・ベンジャミン、「フェイブルマンズ」のジャド・ハーシュ。2022年・第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。
2022年製作/108分/G/アメリカ
原題:Showing Up
配給:U-NEXT
劇場公開日:2023年12月22日