草原の実験(2014 )

 

原題は「Испытание(テスト)

セリフの一切ない無言劇

雄大な風景、草原にポツンと一軒家

美しい娘、無邪気な青年

ラスト5分でタイトルの意味がわかります

なぜか私は、子どもの頃読んだ「スーホの白い馬」という

絵本を思い浮かべました

 

遊牧民の少年、スーホは白い子馬を拾い大切に育てます

数年後、殿様が自分の娘の結婚相手を探すため競馬大会を開きます

スーホが立派に成長した白い馬に乗り、競馬大会で優勝すると

殿様は貧しいスーホと娘を結婚させることは出来ない

しかも白い馬を自分に渡すよう命令します

スーホは断りますが、家来たちに暴行され白い馬を奪われてしまいます

白い馬は殿様が宴会をしている隙に、家に帰ろうと逃げ出しますが

家来たちが放った矢で、体中を射られてしまいます

なんとかスーホのもとに戻ったものの

看病もむなしく死んでしまうというもの

 

この映画にはスーホと同じような

純粋さと、悲しみがありました

現代における、支配者と摂取される者

男タルガートがトラックに羊を乗せて帰ってくると

娘のジーが迎えます

 

家の前に飛行機が着陸

何かを運送中、タルガートに会うため立ち寄ったようで

タルガートは飛行帽を借り、少しの間飛行機を操縦し

その後パイロットは飛行機でどこかに飛び立ちます

タルガートは出かけるとき、分かれ道までジーナにトラックを運転させます

ジーナがトラックから降りると、カイスゥィンという青年が馬で迎えに来て

家まで送ってくれます(ジーナはあまり嬉しそうではない)

ある日、(軍隊のものと思われる)車がオーバーヒートしてしまい

青い目の青年マクスが水をもらいにきます

ジーナを好きになったマクスは、ジーナに会いに来るようになります

マクスはアクロバットのように身体を動かし

ニコニコと笑い、ふざけたり、おどけてみせます

マクスのことを好きになっていくジー

いつも通り分かれ道までトラックを運転するジー

荷台に隠れていたマクスが、そのままタルガートのトラックで

去っていきます

 

夜遅く帰宅したタルガートが、高熱をだし寝込んでしまうと

暴風雨の中防護服の男たちがやってきてタルガートを家の外に出し

トラックや家畜全てのものに検知器を近づけ測定をはじめます

布団に隠れるジー

さらにたちはタルガート裸にし、検知器を近づけ

豪雨の中タルガートを残し去っていきました

ジーナはカイスゥィンに助けを求め、カイスゥィンが軍医とを連れてくると

タルガートは車に乗せられ連れ去られ

 

夜明け前、帰ってくると正装に着替え

ベットを外に出し、そこで朝日を眺めながら絶命します

ジーナはひとりでタルガートの遺体を埋葬

郵便配達に受け取りのサインをさせられた手紙を読むと

トラックで逃げ出そうとしますが

燃料切れと鉄条網に行く手を阻まれます

ここは旧ソ連時代のカザフ共和国(現・カザフスタン)にあった

セミパラチンスク核実験場なんですね

(撮影はウクライナクリミア半島フェオドシア)

最初の核実験(RDS-1)の1949年からソ連崩壊1991年まで

周辺住民に危険性が知らされないまま、100回以上の地上核実験が行われます

トラック(ZIS-5)はソ連の軍用トラック

飛行機(An-2E Wig)はソ連の輸送機

娘が赤い糸で作った星形を墓標にすることから

ソ連当局の核施設で働く元パイロットなのがわかります

 

羊は実験動物で、食用のために職場から盗んできたもの

核物質(ウラン)を箱をトラックに積んだせいで被ばくしたのです

 

手紙は父親あてで、立ち退きの勧告

娘の家にだけ届いたのは彼が当局の職員だからでしょう

青い目の青年は、当局のカメラマン(記録係)

カメラはZORKI-1という、ライカのコピーですが

当時のソ連ではかなりの贅沢品で、裕福なことがわかります

 

しかたがなくジーナが家に戻ると、カイスゥィンとその家族がいて

カイスゥィンはジーナに求婚し、伝統に則って婚姻の儀式を結びます

髪を切り、結婚への抵抗を示すジー

そこにマクスがやってきてカイスゥィンに決闘を申し込みます

カイスゥィンマクスをバイク(IMZウラルという軍用バイクでBMWのコピー)

海岸まで行きジーナを懸けて戦います

ふたりの意識はもうろうとしていき

負けを認めて去っていくカイスゥィン

マクスは何時間も草原を歩きジーの家にたどり着くと倒れてしまいます

マクスを助けジーナは、マクスとそのまま一夜を共にします

海岸はチャガン湖、通称「原子の湖」と呼ばれる核爆発によって作られた人造湖

ふたりは喧嘩のせいではなく、被ばくしてせいで意識朦朧となったのです

 

夜が明け、朝日を浴びながらあやとりをしてぶふたり

そこに閃光と共に巨大なキノコ雲が現れると

一帯は瞬く間に吹き飛ばされたのでした

こんなにも美しい場所が

何十年も放射能で汚染され、今も誰も住めないなんて

 

この作品が核や、核実験への反対を訴えているのはもちろんですが

それよりも伝えたかったのは、カザフスタンという国の

立場ではないかと思います

美しい娘はカザフスタン

太陽の眩しさは、核の眩しさ

鉄条網で囲まれ、逃げ出せない

 

幼馴染の許嫁はロシア

古いしきたりと、重い装飾で縛り付けようとする

青い目のカメラマンは西側

自由な生活に憧れるけど、裏切ったら最後なのです

 

 

【解説】映画.COMより

広大な草原地帯を舞台に、平和な日々を送る父と美しく優しい娘、そして娘に恋をする2人の青年のエピソードを一切のセリフを排して描いた異色作。ロシアの新鋭監督アレクサンドル・コットが、旧ソ連カザフスタンで起きた実際の出来事に着想を得て作り上げた一作で、セリフなしの映像美で描かれる少女たちのささやかな日常に、徐々に意外な暗い影がさしこんでいく。2014年・第27回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、最優秀芸術貢献賞を受賞した。

2014年製作/97分/ロシア
原題:Ispytanie
配給:ミッドシップ
劇場公開日:2015年9月26日