エム・バタフライ(1993)

蝶々夫人を美しいと感じるのは

 西洋人が東洋人を無意識に見下しているから」

 

原題も「M.Butterfly」(マダム・バタフライ=蝶々夫人

といってもオペラ「蝶々夫人」の現代版アレンジではなく(笑)


文化大革命時、京劇女優に本気で恋してしまった

フランス人外交官の実話ベースによる恋愛物語

しかしその結末は意外なものだった・・

というものですが

見事に騙されてしまいました(笑)

 

たぶん公開当時はネタバレもあって

最初から先入観を持って観たなら、また感想も違ったと思うんですが

顔や身体の厳つさも、中国人女性にはこういう女性いるよなとか

チャン・ツィイーでさえ相当肩幅広いし 笑)

女性が殿方に肌を見せない習慣というのも

1964年当時の中国ならありえたかも知れないと

(文化的相違による誤解)思ってしまいました

 

そして実際に10歳から18歳まで京劇の学校で

演舞や武道のレッスンを受けたというジョン・ローン

日本の歌舞伎でも女形の仕草が本物の女性より美しく見えるように

ジョン・ローンが怪しく色っぽい

ただ破滅に向かう恋なのか

政治的な動機付けによる駆け引きなのか

赤ちゃんの使い方も含め、心理描写が中途半端

(舞台劇作家の脚本だからかも)

 

一方で北京の街や建物はとても幻想的で美しく

ピーター・サシツキーの手腕が光ります

1964年、北京のフランス大使館

情報部員による横領を調べるため

会計係として赴任したルネ・ガリマール(ジェレミー・アイアンズ)は

ある夜会で上演された「蝶々夫人」のオペラ歌手

ソン・リリン(ジョン・ローンに心を奪われてしまい楽屋に会いに行くと

ソンは本物の演劇を見たいなら、京劇を見に来るようにと言います

ガリマール(このとき既婚)は京劇の劇場に足を運び

さらにソンの家まで訪ねていくと

ソンは控えめで従順、ガリマール 理想の「東洋の女性」でした

西洋の女性と違い少年のように胸は平たいと拗ね

中国の女性は慎みを大切にしていて服は脱げない

男を知らないと恥じらいます

やがてガリマールは上司に仕事ぶりを買われ、副領事に昇進

仕事が忙しく会えないでいると、ソンから熱烈なラブレターが届きます

感激したガリマールは彼女の家へ行き、ふたりは結ばれます

ガリマールは大使のトゥーロンに、中国との付き合い方や

ベトナム戦争についても積極的に意見を述べるようになります

一方、ソンの家には中国共産党員のチンがやって来て

(ここでのチンのセリフでソンが男であることに気付く・・はず)

ベトナム戦争に関するアメリカの情報をソンから聞き出します

ある夜、酒に酔ったガリマールはソンの家に押しかけ

裸を見せろと命令しました

するとソンは妊娠したと言い、出産のため故郷に戻ると言います

ガリマールは喜び、ソン永遠うのでした

ソンは同志チンに金髪の男の赤ちゃんを手配するように頼みます

(ウィグルから赤ちゃんを買ったようだ)

赤ちゃんを連れて戻ったソンと再会したガリマールは妻と離婚し

ソンと結婚する決意をしますが

紅衛兵にソンと赤ちゃんは連行され

家も財産も没収、強制労働を課せられてしまいます

(京劇の衣装やセットも全て燃やされる)

ガリマールはベトナム戦争に対する発言が問題視され

フランスに帰国することになります

それから4年後のパリ

ひとり暮らしのガリマールの部屋にソンが訪ねて来ます

ソン変わらぬ愛を告げるガリマール

ガリマールはソンの勧めで機密文書を扱う郵便配達員の仕事に就き

そこで得た情報を中国当局にいる息子を助けるため)ソンに流していました

しかし情報局にそのことがばれ、ガリマールは逮捕されてしまいます

裁判日、証言に現れたのはスーツ姿のソンでした

ソンがスパイであることも、男であることも

受け入れることが出来ないガリマール

有罪判決の後、護送車の中にふたり

顔を背けるガリマールの前で「あなたのバタフライよ」と

初めて服を脱全裸になるソン

ガリマールは「したのは お前の幻」と頑なに拒絶

泣き崩れてしまうソン

ソンが「気付いていたはず」とガリマールを責めますが

絶対気付いていますよね(笑)

でも女性として神格化してしまったソンを男と認めることはできない

たとえソンを失うことになっても

(ソンは中国に送還され)刑務所内

ガリマールがひとり芝居を始めようとしています

お粉や紅を使い京劇のようなメイクをしていき

「わたしはルネ・ガリマール、またの名をマダム・バタフライ」 と

蝶々夫人」が始まると囚人たちから拍手

次の瞬間ガリマールは鏡の破片で自らの喉を切り裂き

自殺を遂げてしまいます

 

禁じられた愛、結ばれない愛への贖罪

ソンは「バタフライ」でなかった

自分こそ「バタフライ」だったのです

 

 

【解説】allcinemaより

トニー賞を受けたヒット戯曲を、D・クローネンバーグが映画化した作品。64年の北京、文化大革命の前夜。フランス外交官のガリマールは、ふとしたことから京劇の舞台女優ソン・リリンと出会い、恋に落ちる。2人は交際を始め、献身的な彼女にガリマールは増々傾倒していった。しかし彼女にはある秘密が隠されていたのだった……。衝撃的実話を基に、あの名曲『マダム・バタフライ』をバックに繰り広げられる美しくも残酷な人間ドラマの傑作。妖しい雰囲気の中で描かれる、主人公ジェレミー・アイアンズとその相手ジョン・ローンとの繊細で巧みな心理描写、そして悲哀に満ちたラストシーンには思わず胸打たれてしまう。ホラー好きのクローネンバーグ・ファンにはちょっと趣向の違う作品かもしれないが、この人間の一番底にある繊細な感情の一部を切ないまでに哀しく描ききった監督の手腕は、拍手もの。公開当時、ジョン・ローンの女装に一部非難の声が挙がった様だが、作品の出来の良さにそんなことは全然気にならずに楽しめる。クローネンバーグの、監督としての幅の広さを感じさせる1本。