「僕は思っていた 生まれる家を間違えた」
原題も「The Shipping News」(港湾ニュース)
(「ブロークバック・マウンテン」の原作で有名)の同名小説de
ここでの湾岸とは、北米で唯一ノース人(ヴァイキング)の
入植が確認されているカナダ東海岸にある
ニューファンドランド島のこと
ニューファンドランド島のアウトポート(outport)と呼ばれる港町は
(特に冬季は流氷や悪天候により)中心部より孤立してしまうため
移民たちの持ち込んだ文化が独特な思考や習慣、信仰など
古い伝統を守りつつ進化してきたそうです
ハルストレムの失敗作と評されているようですが(笑)
こういった背景を想像しながらこの作品を見ると
理解しやすいかも知れないです
ハルストレムは「ギルバート・グレイプ 」でも
「家」を燃すことで新たな未来を予感させましたし
最近ではマーティン・マクドナーの「イニシェリン島の精霊」でも
「家」を燃すことで開放される姿が映し出されていました
「家」というのは時に、悪しき伝統に縛られているものなのかも知れません
主人公のクオイルは幼い頃から父親に「ダメ男」のレッテルを貼られ
自分に自信をもてないまま成長
ニューヨークの新聞社でインク係として働いてきました
そんな雨のある日突然、アバズレ女のペタルがクオイルの車に乗り込んできます
「お腹が空いた」と言われダイナーに行くと彼女は
「私と結婚したい?」
「今8時5分」「10時までにファックする」と宣言します
これ、ケイト・ブランシェットだってひと目でわかった人いる?
「TAR」なんてもんじゃない強(笑)烈すぎる
ペタルは女の子を出産しますがその後も男遊びが絶えません
家出したり、男を連れ込んだりの繰り返し
娘のバニーが6歳になったとき、男と駆け落ち
6000ドルでバニーを人身売買組織に売った直後
交通事故で死んでしまいました
バニーを取り戻したもののクオイルは破産状態
さらに両親が自殺したという訃報が入り
父親の異父妹アグニスが(父親の遺灰をすり替えに)やって来て
「祖先の地ほど安らぐところはない」 と
クオイルとバニーをニューファンドランド島に連れて行きます
そこでクオイルは地元紙に就職
釣りに出たきりの編集長から、田舎の住民の刺激になるような
交通事故の記事(でっちあげでいい)を書くよう命じられます
でもクオイルはまだペタルを愛していたんですね
食事や帰る部屋が欲しかっただけかも知れない
間抜けで都合のいいだけの男だったのかも知れない
でも彼女だけが自分を必要としてくれた
ペタルの死がトラウマのクオイルは、事故ではなく
島にやって来た「ヒトラーのヨット」を記事にすると、住民たちに大好評
編集長からコラムを任せられるようになります
徐々に職場の同僚や、町の人々とも馴染み
クオイル一族はヴァイキングの末裔で野蛮な盗人
やがて島から追放されたことを知ります
(住民の鼻をそぎ落とし磔にした)
叔母のアグニスは12歳の時、兄(クオイルの父親)にレイプされ堕胎
兄の遺灰をトイレに棄て用を足す←水洗ではなくボッタン式
(曾爺さんも12歳で父親になるような家系)
知的障害の息子を抱えるシングルマザー
ウェイヴィ(ジュリアン・ムーア)の夫は女遊びの果て若い娘と駆け落ち
夫の舟を海に沈め、溺死したと未亡人を語っています
記者仲間のナットビームがイギリスに戻ろうとする前夜
出航祝いのパーティで男たちはナットビームの舟を壊してしまう
翌日には「どうせ嵐で沈んださ」と諦めるナットビーム
クオイルが海で見つけた首無し死体は「ヒトラーのヨット」の持ち主
妻が夫の借金や虐待に耐えかね殺して海に棄てたのです
ボートが転覆し死んだ編集長が、葬式で息をふきかえし
息子と和解(クオイルの父親と同じ、息子を認めていなかった)
嵐の夜、クオイル家のワイヤーロープが切れ
バニーの予言通り、家は吹き飛びれ木っ端微塵
でもクオイルの気分は爽やかでした、アグニスとバニーも同じ
落ちこぼれは自分だけじゃなかった
惨めな過去や、不運に見舞われているのは自分だけじゃなかった
親兄妹や、妻(夫)から蔑まれていたのは自分だけじゃなかった
誰もが悩み、辛い過去を持ち、苦しんでいる
幸せな人間なんてひとりもいない
それでも小さな喜びを見つけて生きていく
その時、クオイルは最高の見だしを思いつきました
「大嵐 家を奪う あとには絶景が」
失敗点は、ケヴィン・スペイシーの人格が途中で変わっていること(笑)
(子どもが来る部屋で女性と関係もとうとか、もってのほか)
最後まで女性から襲われる系の純情真面目男がよかった
娘の超能力由来のエピソードも少しはあってよかったですね
(島の人間なら説明しなくても、わかるってやつかもだけど)
【解説】allcinema より
ピュリッツァー賞と全米図書賞をダブル受賞したE・アニー・プルーの世界的ベストセラー小説を、「サイダーハウス・ルール」「ショコラ」のラッセ・ハルストレム監督が映画化したヒューマン・ドラマ。絶望の淵に沈んだひとりの中年男が、移り住んだ小さな漁港での日々の生活を通して自らを取り戻していくさまを丁寧な筆致で描いていく。主演は「アメリカン・ビューティー」のケヴィン・スペイシー。
新聞社に勤めるクオイルは、父親の厳しい教育がトラウマとなって自分の殻に閉じこもる孤独な男となってしまった。そんな彼は、美しい女性ペタルと出会い初めての幸せを味わう。結婚もし、女の子も生まれるが、ペタルは娘をほったらかし、若い男と遊んでばかり。そして、ある日、突然に娘を連れ去り、男とともに家を出ていってしまう。次にクオイルのもとに届いた知らせは、ペタルの交通事故死と、彼女が娘を養子として売り飛ばそうとしていた事実だった。失意のクオイルは人生をやり直すため、娘を連れ、父の故郷ニューファンドランド島へと向かうのだったが……。